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書店員泣かせの売りにくい本『どろぼうのどろぼん』を私たちがおすすめする理由【「一読三嘆」書店員座談会】

どろぼうのどろぼん 座談会

「一度読んで幾度も感動する」ような書店員が心からおすすめしたいタイトルを、ブックセラーズ&カンパニーの各担当が選んで紹介する「一読三嘆」。本企画は、書店の垣根を越えて、紀伊國屋書店、TSUTAYA(蔦屋書店、TSUTAYA BOOKSTORE含む)、NICリテールズ(リブロ、オリオン書房、あゆみBOOKS、積文館書店、BOOKSえみたすほか)から知識豊富なスペシャリストたちが集結して、読者に届けたい作品を選定するものです。

今回、児童書担当のチームが自信をもって選んだタイトルは、『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)。決して捕まらないどろぼうが主人公のミステリーとしても楽しめる読み物ですが、実は書店員泣かせの売りにくい本でもあるそう。そんな本書が選ばれた経緯や本企画に込められた思いについて、メンバーのみなさんにお話しいただきました。

どろぼうのどろぼん

『どろぼうのどろぼん』
作:斉藤倫、画:牡丹靖佳
発売日:2014年9月15日
発行所:福音館書店
定価:1,650円(税込)
ISBN:9784834081220

STORY
チョコレートやクッキーの缶に入れといわれても困りますけれど。でもそれが家だったらどこへだって入れますよ。どろぼんはどろぼうの天才。どろぼんは「もの」の声を聞くことができる。どろぼんは絶対に捕まらない。これは、ぼくがどろぼんから聞いた話。今まで盗んできたもののこと。その「もの」たちの声のこと。そして、絶対に捕まらないどろぼんが、あの雨の日の午後、あじさいの咲き誇る庭で、どうしてぼくに捕まったのか。

(福音館書店公式サイト『どろぼうのどろぼん』より)

【座談会参加者】
カルチュア・エクスペリエンス 児童書MD
加藤有香

紀伊國屋書店横浜店 児童書担当
花田優子

代官山 蔦屋書店 児童書担当
瀬野尾真紀

リブロ光が丘店 店長
山井洋子

(司会・進行)
ブックセラーズ&カンパニー バイヤーチーム
野上由人

 

「本を読むことの楽しさ、おもしろさを知ってほしい」書店員が衝撃を受けた作品

野上 「一読三嘆」の児童書企画として、『どろぼうのどろぼん』の展開がスタートしています。決まるまでのプロセスにおいては、児童向けの読み物の販促が足りていないという問題意識がみなさんの中にありました。そういった経緯も踏まえて、本日は企画の趣旨や作品の魅力について、読者の方にお伝えできればと考えています。

まず、『どろぼうのどろぼん』を最初に推薦してくださった、紀伊國屋書店の花田さんからお話しいただけますか。

花田 みなさんとお話ししている中で共通認識としてあったのが、子どもたちが本を読まなくなっているわけではなくて、読む物に偏りがあること、そして、読む時期が限定されてしまっていることでした。

たとえば、5~10分程度の短い時間で読める本はとてもよく売れるのですが、お客様の動向を見ていても、その先の購買が見えてきません。「ああ、おもしろかった」とその本だけで終わってしまっているのではないかという危惧を、みなさんが等しく持っていたと思います。

書店側からすると、次の本へと読書がつながっていかないと、将来的に業界が縮小していく危機感があります。そして何より、商売云々に関係なく、本を読むことの楽しさ、おもしろさを知っている人が少なくなるのはただただ寂しいと感じます。

その点もメンバーの共通認識としてあったので、売れるものだけを売っていくのではなく、子どもたちに読書を楽しむことを知ってもらいたいということが企画の前提にありました。その点を踏まえて、いくつかの候補の中から『どろぼうのどろぼん』を挙げています。

紀伊國屋書店_花田氏

紀伊國屋書店横浜店 児童書担当 花田優子さん
紀伊國屋書店横浜店に14年勤務(児童書担当)。「絵本についてはさまざまな取り組みがあるが読み物はまだまだ足りない。大人の読書につなげるためにも読み物に注力したい」と考えている

 

野上 いろいろな本を知っている花田さんが、その中から推薦してくれたわけですね。

花田 「読むことを楽しめる本」と考えたときに、まずこの『どろぼん』が頭に浮かびました。良い意味で年齢を縛らない、幅広い年齢の子の心に響いてくれるものがあると思います。

これまでも「この本を売りたい」「もっと読んでほしい」と店舗で取り組んではきたのですがなかなかうまくいかなくて、「こんなにいい本なのに」と長年モヤモヤしていました。一人でも多くの人の目につくようにしていかないと、届くものも届きません。

もちろんほかにもおすすめしたい作品はたくさんあるのですが、児童書を担当してきた14年を振り返ってみても、この本をもう少し広めたいなという思いが一番強かったです。

野上 普段から各書店で工夫を凝らした仕掛けをしていると思いますけれど、昨年、紀伊國屋書店、CCC、日販の3社が書店主導の出版流通改革の実現に向けて設立したブックセラーズ&カンパニーという、さまざまな書店が参加する、非常に大きな枠組みができました。そこで、この規模を活かしてやりたいことはないかと参加書店に投げかけたことが、今回の拡販企画につながっています。

代官山 蔦屋書店では、もともと『どろぼうのどろぼん』をかなり熱心に販売されていたのですよね。

瀬野尾 『どろぼうのどろぼん』は、刊行時に私が「児童書ってこれでもいいのだ!」と衝撃を受けた作品でした。主人公は子どもでなくてもいいし、うれしい、楽しいお話というよりは、落ちそうで落ちない、すごく細い道を歩いているような、人生の不安定な部分を描いています。衝撃が走った分、印象が深かったですし、児童書の読み物のターニングポイントになった作品だと思います。

花田さんと同じく、発売された当時はびっくりしすぎて売り方がわからないところがあったので、今回のような機会に『どろぼん』に光が当たることになって、私もワクワクしています。

CCC_瀬野尾氏

代官山 蔦屋書店 児童書担当 瀬野尾真紀さん
代官山 蔦屋書店で10年ほど児童書を担当する

 

大人にも見つけてほしい、ベテラン担当者をやる気にさせた児童文学のおもしろさ

野上 ちょうど刊行から10年というタイミングですよね。本書は、詩人の斉藤倫さんが、いわゆる児童向けの長編読み物としては最初に書かれた作品です。児童書の外の世界から入ってきた作者ということで、そういった衝撃もあったのでしょう。

さて、どろぼうは基本的には良くないことです。そこにひっかかりを感じると言っていた山井さんからも、この本について話してもらえますか。

山井 児童書には絵本や図鑑といったいろいろなジャンルがありますが、その中で一番売れなくなっている高学年向けの読み物をあえて売ろうという試みに、私は最初賛成できませんでした。読み物には、中学年向けまでなら「かいけつゾロリ」や「ふしぎ駄菓子屋 銭天堂」、「おばけずかん」など、ものすごく売れるシリーズがたくさんあります。

「ハリー・ポッター」は高学年から大人にかけて読まれていますし、もともと中学生がターゲットの「5分後に意外な結末」シリーズは小学生にも人気です。しかし、それ以外で高学年向けの売れている本はなかったですし、読む子は大人の文庫に移行してしまいます。なので、そこをあえて掘り起こさなくてもいいのではないかと思っていました。

ですが、今回の企画が『どろぼうのどろぼん』に決まり、「大人のための児童文学宣言」というフェアを当店で実施してみたところ、実は『どろぼん』以外にも単発の作品でおもしろいものがたくさんあることに改めて気づいたんです。そこから、俄然おもしろくなってきました。

野上 ベテランの児童書担当者を目覚めさせる企画だったわけですね。

山井 『どろぼん』は売りづらい本だなといまでも思います。どろぼうの話で、肯定も否定もどちらも難しいので、感想文も書きづらいのではないでしょうか。

とはいえ、確かにすごい作品です。「ハリー・ポッター」や「守り人」シリーズなどと同様、子どもの本や大人の本、文芸書や児童書といった垣根がなくなるタイプの本なので、子どもだけでなく大人の方にも見つけてほしいなという気持ちになっています。

NICリテールズ_山井洋子氏

リブロ光が丘店 店長 山井洋子さん
リブロの1期生。リブロの池袋本店・東戸塚店・港北東急SC店などで勤務。通算30年ほど児童書を担当する

 

野上 この本については当初から、子どもだけにアピールしてもなかなか難しいかもしれないので、大人にも読んでほしいという意見が多かったですよね。たとえばTSUTAYAの場合は大人向けの話題書のコーナーが常にあって、そこに置いてみようというお話もMDの加藤さんからいただきました。

加藤 児童書はいま絵本だけが好調で、読み物や児童文庫、小学生向けの商品の売上が厳しいため、どういった対策が打てるのかとずっと考えていました。そのときに、この分科会で仕掛けをする本の一つとして児童読み物を推薦していただいて、ひとつのお店やチェーンだけではできなかったことが、もしかすると“ブックセラーズ”として集まった書店みんなで取り組めば何か変えていけるのではないかと思い、取り組んでいるところです。

私は児童書のMDとしてチェーン全店に企画を案内しています。今回、実際にどれくらいのお店が企画に賛同してくれるのかは見えなかったのですが、私が各店に提案したよりも多い部数が集まりました。全国津々浦々のお店から、同じように児童読み物に対して何かやってみたいという気持ちを強く感じたので、この企画を通じて実現できればなと思っています。

『どろぼうのどろぼん』は先ほど野上さんからもお話しいただいた通り、弊社では児童書の売場だけでなくて、一般向けの話題書コーナーとの2か所で展開しています。

夏休みのいま、もちろん子どもにぜひ読んでもらいたいのですが、まず大人に読んでもらって、その大人から子どもに本をすすめてもらうこともコミュニケーションになるのではないでしょうか。私も実際に読みましたが、姪っ子とお互い感想を楽しく言い合える、大人が読んでも非常におもしろい作品でした。

CX_加藤氏

カルチュア・エクスペリエンス 児童書MD 加藤有香さん
SHIBUYA TSUTAYAレンタル担当、六本木 蔦屋書店・TSUTAYA馬事公苑店でBOOKを担当。その後、本社にて児童書MDを4年ほど担当している

 

作者登壇のイベントも実施!「一読三嘆」を「大人の読書」へのガイドに

野上 実際に各店での展開が開始されてから3週間ほど経ちますが、お客様の反応や手応えなど、現場で感じていることがあったら教えてください。

山井 当店では児童書の棚ではなく、課題図書やリブロの推薦図書などとともに売場の前の柱一面で展開しています。売れてはいるのですが、実はどういった方が買ってくださっているのかまだつかめていません。ただ、リブロの小さいお店でもしっかり売上が上がっているので、展開次第でちゃんと売れることはわかりました。

野上 紀伊國屋書店ではどうですか?

花田  私も実際にお客様が本をレジに持っていかれる姿を見ていないのでなんともいえないのですが、売場で見ていると20~30代の方が、男女関係なく中身をパラパラとご覧になっています。

小中学生の親御さんや、普段から大人の本だけでなく児童書にも興味をお持ちの若い世代の方が気にされている印象はありました。あとはリーフレットがすごく素敵な作りなので、お持ちになる率が高いです。それがそのまま本を買うという行為にはつながっていないかもしれませんが、本を手にするきっかけになってくれているのは確かだと感じています。

どろぼうのどろぼんリーフレット(配布用)jpg

▲参加書店で配布されているリーフレット。斉藤倫さんのメッセージや書店員のオススメコメントを掲載

 

野上 代官山 蔦屋書店ではいかがでしょう。

瀬野尾 私たちは、お一人ずつ直接おすすめして買っていただいているケースが多いと思います。ただ、これまで売場の奥の方で展開していたのを前の方に出したら、気づかぬうちに売れた様子もあります。表紙がかわいいので目に付きやすいのではないでしょうか。

野上 代官山 蔦屋書店ではこのあとイベントも企画されていますね。

瀬野尾 9月15日(日)に作者の斉藤さんと紀伊國屋書店の花田さん、『どろぼうのどろぼん』の編集担当である福音館書店の岡田望さんによるトークショーを開催します。

先日、登壇するお三方と私の4人で集まって打ち合わせをしたのですが、「児童書とは」という話から始まり、2時間半ほど盛り上がりました。私もお話を聞いていてものすごく楽しかったですし、みなさん話し足りていなさそうなので、当日は新たな展開でさらに盛り上がるだろうと思います。ぜひたくさんの方に聞いていただきたいです。

野上 今回、『どろぼうのどろぼん』を児童書の第1弾として選びましたが、秋以降も書店共同でさまざまな拡販企画を実施していく予定です。

さきほどからお話に出ている通り、出版社は10代が読める良い本をたくさん作っていると思うのですが、我々書店がうまく読者につなぎ切れていないのではないかという書店側の反省も今回のような動きにつながっています。特に大人になりかけている年齢の子どもたちの読書におけるサポートは、継続課題にしていきたいと思っています。

花田 今回の企画にはもうひとつ意義があると思っていて、それは本に関わっている書店員の人たちみなさんに同じ意識をもっていただきたいということです。

日々の業務に追われてしまって、問題意識を持って仕事をするのは私も含めてなかなか難しいのですが、こういう企画が継続して実施されることで、改めてそのことに気づかせてもらえます。書店員側も問題としっかり向き合いながら、仕事ができるようになるための企画でもあると思います。

野上 分科会のメンバーからも、いま子どもたちが実際に読んでいる本、売れている本を否定するつもりはまったくなくて、「ほかにもこういう本があるよ」という提案であったり、まだおもしろい本に出合えていない方に向けてだったり、いろいろな作品を紹介できるのが書店のいいところなので、プラスαとなる企画を考えたいという意見がありました。

瀬野尾さんがよく言う、「これを読んだら次はこれを読みたい」と次の一冊につなげていけるようなガイドができると、書店としての役割を果たせるのではないか。そんな思いも込めての企画なので、まずは『どろぼうのどろぼん』を多くの方に手に取っていただければと思います。

瀬野尾 大人になっても読書をしてほしい。そのきっかけになる本をご提案したかったので、『どろぼうのどろぼん』は「とにかくおもしろい!」を優先して選びました。ぜひ手に取ってみてください。

 

【イベント】『どろぼうのどろぼん』スペシャルトークイベント ―声をきく―

児童書作家デビューから10年、『どろぼうのどろぼん』の作者・斉藤倫さんが、書店でのイベントに初めて登場します。児童文学作家としての思いや作品作りについてたっぷり伺いながら、『どろぼん』ファンの皆さんからの質問にも答えます。

聞き手として『どろぼうのどろぼん』をはじめ斉藤倫さんの著作を担当してきた福音館書店の編集者・岡田望さん、そして『どろぼん』おすすめ書店員代表として、紀伊國屋書店横浜店の花田優子さんが登壇します。

【参加条件】

イベントチケット予約・販売サービス「Event Manager」にて、いずれかの対象商品をご購入ください。

【対象商品】

・イベント参加券(1,650円/税込) ※限定70名様
・『どろぼうのどろぼん』(福音館書店・1,650円/税込)+イベント参加券(1,650円/税込)セット 3,300円(税込)
・書店員限定 参加券(550円/税込)
※書店員限定サービスチケットは現役書店員の方のみ購入いただけます。このイベントを売場づくりにご活用ください

※『どろぼうのどろぼん』はイベント当日にお渡しいたします

会期:2024年9月15日(日)
定員:70名
時間:10:00~11:30(15分前より入場可能です)
場所:代官山 蔦屋書店3号館 2階 SHARE LOUNGE
主催:代官山 蔦屋書店
共催・協力:福音館書店
問い合わせ先:03-3770-2525(代官山 蔦屋書店)

詳細・お申し込みはこちら

 

【プロフィール】
斉藤 倫(さいとう・りん)
詩人。『どろぼうのどろぼん』(福音館書店)で、第48回児童文学者協会新人賞、第64回小学館児童出版文化賞を受賞。おもな作品に『せなか町から、ずっと』『クリスマスがちかづくと』『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』『さいごのゆうれい』(以上福音館書店)、『レディオワン』(光村図書)、『あしたもオカピ』(偕成社)、『新月の子どもたち』(ブロンズ新社)、絵本『とうだい』(絵:小池アミイゴ/福音館書店)、うきまるとの共作で『はるとあき』(絵 吉田尚令/小学館)、『のせのせ せーの!』(絵:くのまり/ブロンズ新社)、『にだんべっど』(絵 五十嵐大介/あかね書房)、『おやすみまくら』(絵:牧野千穂/小学館)などがある。

花田優子(はなだ・ゆうこ)
2010年紀伊國屋書店横浜店入社。以来14年間不変の児童書担当。書店員歴の半分以上児童書担当をしていることに。児童書沼にはまりにはまり、「児童書のない人生なんて」と思うに至る。子どもの気持ちに寄り添える本を届けるべく後退していく年齢と体力に抗う毎日を楽しんでいる。

岡田 望(おかだ・ぼう)
福音館書店編集者。

 

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