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女一人と車一台、車中泊の海外旅!『ミニバン・ライフ・ホリデー ~車のおうちでニュージーランドの旅~』

ミニバンに乗って、ニュージーランドを一人旅

自動車を運転すると「あ、世界が変わってく!」と感動する。視界も移動スピードも変わって、自分の意志でどんどん遠くへ行けることのおもしろさに胸が躍る。そして自分を乗せて進む自動車が、ものすごく大きくて頼もしい生き物のように見えてくる(私にとって自動車は“硬くて気の良いカバ”みたいな存在だ)。

自分の力で遠くへ行ける深い喜びと、自動車がくれるワクワク感は、相性がとてもいい。

『ミニバン・ライフ・ホリデー』で自動車が駆ける舞台はニュージーランド。旅するのは20歳の女性、蒼井好葉(あおいこのは)。好葉はワーキング・ホリデーを使って長期滞在をしている。そして“滞在先”はニュージーランド全土。今日は川沿い、明日はキャンプ場、やがてフェリーに乗って大都市を通過して……そう、かなりフットワークが軽い。

なぜなら!

好葉は車の中で寝泊まりしているから。自動車は移動手段であり、体を休める生活の場。

楽しそう! “グラ子”と呼ばれる相棒と一緒のニュージーランド一人旅。知りたい知りたい、どんな旅なの? ニュージーランドの車中泊旅事情と一人旅の醍醐味がじんわり味わえるマンガだ(枠外に書かれたニュージーランド情報がおもしろい!)。

 

車が立派なおうちに!

まずはグラ子の居住性のすばらしさをご紹介。

後部座席から後ろが好葉のお部屋! 小さな小さなワンルームといった印象。かわいい。

そう、グラ子はかわいいのだ。

2000年に生産された日本車のグラ子は、いろんな乗り手を経て2019年に好葉と出合い、一緒に旅をしている。

調理台つきで温かなごはんだって作れちゃう。これらのカスタムは全て好葉のDIY。たくましいし、行動力がある。きっと旅慣れているんだろうなあ……と思いきや。

好葉は英語が苦手で他の旅行者と交流するのが怖いし、旅慣れているわけでもない。もともと一人で車旅なんてするつもりじゃなかったけれど、いろいろあってなし崩し的に一人旅をしている。なんてこと……と思うが、映画や時代劇の世界を考えてみると、流れ流れて旅する人が必ずしもみんな陽気で計画性と行動力の塊ってわけじゃない。

そういう意味でも、好葉のニュージーランド滞在は「旅行」じゃなく「旅」だと思う。風に舞う葉っぱのようにいろんな場所を訪れ、環境と自分の意志とご縁が混ざり合うのだ。

好葉が愛車グラ子を手に入れたのも、こんなご縁によるものだった。

ヒッチハイクで乗せてくれた旅人カップルの車がまさに“おうち”で、そういう車を好葉も買えるよ、珍しいことでも難しいことでもないよ、というのだ。

ちなみにヒッチハイクについては、各話の最後に添えられているコラムで「お勧めできません」と書かれている。

実際、好葉もだいぶ警戒しながら乗っていた。

 

ワーホリの輪

親切な旅人カップルは、自分たちの「住まい」を案内してくれる。

「キャンプ場、そうとも言うわね」……どこか歯切れの悪い説明がうさんくさすぎてワクワクしてくる。そして茂みの先にはへんてこな空間が広がっていた。

とてもじゃないが、おしゃれな旅行雑誌や由緒ある旅番組は絶対に紹介できない世界だ。カップルは「川」の住人の日本人女性を好葉に紹介してくれる。

旅慣れない好葉が異国のフリーダムな川コミュニティを知り、ディープなワーホリの輪に加わり、なんだかんだでどうにかなって旅が進む様子がおもしろくてしょうがない。

旅というか人生そのものの喜びが「ニュージーランドでの一人車旅」と見事に重なっている。一人ぼっちで言葉がままならなくても、こんなに豊かで楽しい旅になるのか。

そう、好葉には何か高潔な目的や、お金や、知識や、経験があったわけじゃない。どこにでもいる若者だ。でも「一歩前に進む」ことができる人。

自分にできる精いっぱいの一歩を重ねて、生きていくために必要なものを少しずつ身につけて、世界を見つめて、旅をするのだ(だから苦手だった英語も少しずつ覚えていく)。

なお、行き当たりばったり上等のミニバン旅ではトラブルだって突然降ってくる。

いとしいグラ子の様子が何かおかしい。行きずりの旅人たちが売り買いする中古車に、何もないわけがないのだ。グッドラック!

(レビュアー:花森リド)

ミニバン・ライフ・ホリデー~車のおうちでニュージーランドの旅~ 1
著者:いとうみゆき
発売日:2024年05月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065355756

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年6月20日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。