「飯に行くぞ」
目いっぱい働いた一日の終わりに、すきっ腹を抱えながら街を歩くと目がランランとしてくる。心身ともに疲れているはずなのに! ……そんな謎のスイッチが入ってしまった経験のある大人たちを癒やすマンガが『働くふたりのごほうび飯』だ。
ボロボロになるまで働いて、ちゃんと自分の責任を果たしたあとに仲間から「飯に行くぞ」と声をかけられて、コクンとうなづき「行きましょう」と応じるとき、二重に幸せだと思う。ごはんはきっとおいしいはずだし、この仲間とは信頼関係が結ばれているからだ。
このボロボロの女性は霧宮りん、24歳。三竹物産で働く社会人3年目で、デパートや商業施設でよく見かけるポップアップストア(“大・北海道展”みたいなの! 楽しいよね!)の企画運営を担当している。
企画まわりのデスクワークもあれば、運営まわりで肉体労働もこなす働き者。そして「人よりちょっぴり仕事好き」と自覚している。
そんな彼女がなぜボロボロになってしまったかというと、百貨店での設営を諸事情により一人でやっていたから。百貨店のバックヤードに積み上がった段ボールをうんとこしょと運び、梱包を解き、商品を陳列し……というのをひたすら繰り返す。
すんごいリアル(むかし百貨店での設営をやったことがあります。カジュアルすぎる服装はNGだし、なのに床に膝をついて作業をすることもあるし、手がカサカサになるんです)。
本来なら二人でやるはずの仕事を一人でもぶつくさ言わず頑張れるのが「人よりちょっぴり仕事好き」の霧宮らしいところ。そんな彼女が上司の我孫子(あびこ)に「飯に行くぞ」と誘われ、選んだのは……?
鰻である。本作は実在のお店のごほうび飯がどんどん出てくる。
さっきまですすけていた霧宮の顔がツヤッツヤに!
加速を続けてどこか遠くへ飛んで行ってしまいそうな食レポ。仕事による疲労と食がくれる快楽とで頭がグルグルしているのがよくわかる。
ちなみにこれは霧宮だけに起こる謎現象ではない。
彼女の上司である我孫子もまたクタクタになるまで働き続けるタイプの会社員であり、そんな彼が残業後にたこ焼きを頬張れば、たちまちこうなる。
つまり、二人は仕事と食の受け止め方が、ものすごくよく似ているのだ。
だから電車がトラブルで止まってしまった朝の通勤ラッシュにばったり遭遇しても「この人見るとお腹が減るなぁ」なんて霧宮は思っちゃう。食欲を誘う上司ってなかなかいないよ!
そんな二人が早朝の都会をテクテク歩いて向かう先は……?
東京豆漿生活(とうきょうとうじゃんせいかつ)の台湾スタイルの朝ごはん! いいよね!
おいしいものを味わう顔はどこか艶っぽい。だから「飯に行くぞ」と言われて二つ返事で行ける相手や、ましてや「この人見るとお腹が減るなぁ」なんて相手は、かなりレアな存在であり、そうそう出会えるものじゃない。もしかしなくても恋仲に発展する……?
いや、そこまで進展するには、あと少し時間が必要かも。なにせ大好きな仕事が山積みだし……。それにしてもすさまじい身なりだ。仕事でONの状態になったときの二人の姿と休日に自宅周辺をウロウロするOFFの状態を見比べるのも面白い。とくに霧宮! ほとんどの仕事の日はステキなピアスをしているのだ。休みの日はつけていない。大きくて華やかなピアスは彼女の戦闘モードの印なんだろうな。
大人だけが味わえる、めくるめくごほうび飯と、仕事のほろ苦さ。どちらも極上だ。
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(レビュアー:花森リド)
- 働くふたりのごほうび飯 1
- 著者:星名里帆
- 発売日:2024年06月
- 発行所:講談社
- 価格:1,210円(税込)
- ISBNコード:9784065342039
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年7月2日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。