「オンとオフという境目がなくなり、もっと自然を感じながら仕事をする」
そんなワークスタイルを日本中に広げていくことを目的に、アウトドアメーカーのスノーピークと、IT企業のハーティスシステムアンドコンサルティングは2016年に合弁会社「スノーピークビジネスソリューションズ」を立ち上げました。
自然を相手にするアウトドアメーカーと、システム開発を行うIT企業がタッグを組んだ背景には、ITリテラシーの向上と自然へのかかわりを通して、企業の「人財問題」を総合的に解決する必要があるという考えがあります。
同社では現在、「アウトドアでの研修サービス」や「オフィス空間改善」の事業を展開し、全国の約750社にサービスを導入しています。
そのスノーピークビジネスソリューションズがいま注目しているのが「本」。自社が運営するコワーキングスペースの一つ「Camping Office osoto Okazaki」(愛知県岡崎市)で本を販売し、企業や地域のつながりを生むなど、新たな取り組みを始めています。
アウトドア、IT、本。一見共通性がない3つの分野の親和性について、スノーピークビジネスソリューションズ代表取締役の村瀬亮さんにお話をうかがうと、「デジタル」を扱う会社だからこそ感じる「アナログ」の重要性について聞くことができました。
村瀬亮(むらせ・りょう)
大手センサーメーカーに勤務していた経験を生かし、出身地である愛知県岡崎市でIT企業を設立。
製造業向けの在庫管理システムをはじめとする情報システムの提供で事業を拡大し、業務の効率化や生産性の向上を提案してきた。
2016年、(株)スノーピークと共同出資で設立した(株)スノーピークビジネスソリューションズの代表取締役に就任。
2021年、(株)スノーピークの専務取締役に就任。
プロジェクトの成功は、メンバーの良好な人間関係がもっとも重要
――まずは、システム開発を手がけるIT企業とアウトドアメーカーという、一見相関性のない2社で会社を立ち上げた経緯をお聞かせください。
スノーピークビジネスソリューションズは、元々私が立ち上げたアイ・エス・システムズ(後にハーティスシステムアンドコンサルティングに社名変更)が母体となっています。企業として社会課題を認識するにあたり、「IT企業だからできることは何か」ということを考えていました。
一方で、これまでに2,000件を超えるシステムの導入を支援してきてわかったのは、プロジェクトの成功はシステムの良し悪しではなく、プロジェクトのメンバーの関係性がもっとも重要だということでした。メンバーの関係性が良いプロジェクトが多い会社は、確実に成長していることを取引先から感じていました。
そういった経験から、ただシステムを供給するのではなく、良好な人間関係を構築する仕組みがセットになっている必要があると考えました。そこを土台に社内で検討を重ねるうちに、良好な人間関係を作るために「仕事にキャンプを取り入れる」ことに思い至りました。
働き方が変わる中で我々が出来ることは何かと考えた時に、「外で働く」「場所を変えて働く」ことから始めて、徐々に働く意識を変革させることが大事だと気付きました。
――数あるアウトドアメーカーからスノーピークがパートナーになった理由はどこにあったのでしょうか。
私自身がSnow Peak製品に一目惚れしたということもありますし、キャンプをしながら働くということを考えた時に、Snow Peak製品が持つデザイン性、機能性、ストーリー性、この3つがセットになっている会社はほかにないと思っていました。
そこから、スノーピークの山井太社長(現代表取締役会長)と会い、思いを伝えて、一緒に会社を立ち上げることになりました。現在はアウトドア研修の開催や、キャンピングオフィスの運営・企業への導入なども行っています。
スノーピークビジネスソリューションズが運営するキャンピングオフィス
・osoto Hisayaodori(愛知県名古屋市)
・osoto Okazaki(愛知県岡崎市)
アナログの本には書いた人のエネルギーが詰まっている
――「Camping Office osoto Okazaki」では、本の取り扱いも行っています。なぜ本を扱うようになったのでしょうか。
人を成長させるプロセスは、知識を入れるということが土台にあって、知恵や行動に変えていくことだと考えています。知識を入れるという点で、本は最適だと思い導入しています。
加えて、デジタルの会社にいるからこそアナログの重要性を肌で感じていて、すべてがデジタルに移行することに違和感をもっていました。デジタルとアナログを両輪で考えた時に、アナログの部分をどう担保するかという点で、ひとつは自然との繋がりがあるキャンプ、そして実際に手に取れる本が必要だと判断しました。
最近ではリモートで話すことも一般的になっていますが、やはりリアルで会って話すと、受け取れる情報量が違います。本もそれと一緒で、形状や装丁など、内容以外の情報によって新たな興味が湧くこともありますし、本棚を見ていたらほかの本と出合うこともあります。
私自身、アナログの本には書いた人のエネルギーが詰まっていると思っています。もちろんデジタルでも作り手のエネルギーが込められているのでしょうが、形がないので伝わりづらいですよね。
Snow Peak製品にも作り手の思いが詰まっています。椅子ひとつにしても、なぜこういう機能にしたのか、なぜこの材質なのか、ただ単にアウトドアで使うものというだけではなく、さまざまな思いや作り手のストーリーが込められています。そういう点でいうと、Snow Peak製品とアナログの本には、共通点があるようにも感じています。
今は、デジタルで色々な情報が入ってきて、調べればすぐ答えが出てきて、スマートフォンで本も読むことができる時代です。でも、私の中では「デジタル=短期的なもの、効率的なもの」「アナログ=長期的なもの、本質的なもの」という意識があります。そしてアナログには五感を刺激する作用があって、それによってアウトプットも変わってきます。
この考えは、時代の変革を見据えた時にとても大事だと思っていて、短期的な機能や生産性にばかり目を向けるのではなく、これからはもっと長期的な考え方をしなければいけなくなっています。企業においても、売上など数値でしか計らずに、自然をないがしろにしてどんどんモノを量産する時代になってしまっていました。でも、短期的な合理性や利益を追求すると感受性が育たなくなってしまいます。
デジタルの便利な部分を享受しつつ、アナログのもたらす良い効果で五感を刺激することが大切だと考えています。実際に、アウトドアやコワーキングの空間に本があることによって良い相乗効果が出ていることを感じています。
▼「osoto Okazaki」には約1,400冊の本を導入。施設利用者が自由に購入・閲覧できる。
小説が育む「創造力」はビジネスにも活きる
――村瀬社長自身、本とはどういう関わり方をしていますか。
本は常に持ち歩いていて、ジャンルにとらわれずさまざまな本を読んでいますね。
――その中でもお薦めの本があればお聞かせください。
かなり広く読んでいるのでこれ1冊、というのは難しいですが、『七つの習慣』に書かれていた「主体性」については感銘を受けました。心は自分が決めているので、厳しい局面になったとしても、それを“辛い”と思うか思わないかは自分が選ぶことができるということを学びました。
最近は、仕事をする上で、小説を読んで「活字から創造力を育てる」ことが大切だということも感じています。ビジネスにおいてハウツー本も大事ですが、小説で育む「創造力」が活かされる場面がとても多いです。
今はアニメや漫画のように映像化されることが多い時代ですが、私が高校時代にSF小説をたくさん読んでいた時は、登場人物などを頭の中で活字から映像化していました。後に映像化されたものを見た時、自分の想像と全く違っていたという体験があり、人間の想像力というのは無限にあるのだなと思いました。
小説を読んで実体のないものを想像する練習をしていると、これから会社をどうしていくのか、未来にはどういうことが起こりうるのかということを映像化していくことができます。なので、最近はジャンルを問わずにさまざまな小説を読むようにしていますね。
キャンピングオフィス概要
Camping Office osoto Hisayaodori
〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦3丁目5番15号先
Tel:052-211-9192
定休日:土曜日、日曜日、祝日
Camping Office osoto Okazaki(本の販売あり)
〒444-0073 愛知県岡崎市能見通1-61 ウメムラビル1F
Tel:0564-73-6657
定休日:土曜日、日曜日、祝日
スノーピークビジネスソリューションズ公式サイト
https://snowpeak-bs.co.jp/