アダルトなしで月収100万円のゲーム
お金を課される側が「課金する」と自ら言い始めたのは2000年代のオンラインゲーム拡大期あたりからだと思うが、その頃から今にいたるまで、ヒットすれば「たった数時間でそんなに儲かるのーッ!?」と白目を剥くような金額が動く。そこそこ人気なゲームでも、重課金者に「毎月いくら課金してんですか?」と尋ねるのが怖い。しかも課金できるジャンルもどんどん増えていった。ライブ配信の「投げ銭」とかね。
なので、『魔法少女Live!』のゴリゴリな課金事情を「妙にリアルだなぁ」と思いながら読んでいる。
興奮に値段をつけようとすると青天井になる。だから興奮させる側の配信者も大変だ。とくに本作のゲームの世界では魔法と命とお金がグチャグチャに飛び散る。主人公の“羽柴美子(はしばみこ)”もまた、そのグチャグチャな課金ゲームにライバーで参戦するのだ。
だってアダルトなしで月100万円以上も稼げるっていうんだもの。それに美子にはその「素質」があったし、お金がどうしても必要だった。
ダークウェブだろうがグロだろうがどんとこい
美子の家は貧しい。父親が借金を残して死んでしまい、体が弱くて不調が続く母親が朝から晩まで働いている。16歳の美子は高校に通いながらアルバイトをして、さらにお金を稼ぎたくて動画配信も始めてみた。弟の“宗”をなんとか進学させてやりたいのだ。
美子の動画チャンネルは登録者数も再生数も少なく、収益化には至っていない。でも、そんな美子宛にスカウトのDMが届く。
「魔法少女Live!」というコンテンツのライバー(配信者)をやってみませんか? とのお誘い。月100万円以上稼げてアダルトなし、18歳以下限定で、ライバーによっては月1000万円も稼いでいるのだという。あやしい!
で、検索してみると、コンテンツの公式サイトは出てこず、代わりにオカルト系のまとめサイトや「ダークウェブ」なんてワードが出てくる。
やっぱあやしいな~と思いつつも忘れられなくて、もう一度調べたら、違法アップロードっぽい「魔法少女Live!」の動画を見つけてしまう。どうやら「魔法少女Live!」はゲームで、そのゲーム内では魔法少女たちが戦っている。しかも投げ銭をバンバンもらってる!
魔法少女たちはリアルで、プレイの様子も、ユーザーからの反応も、なんだか異様な熱気をはらんでいた。つまりこの魔法少女をやれってこと?
お金はほしいが二の足を踏む美子に、過酷な現実が襲いかかる。母が命を落とし、宗も入院してしまう。宗を助けるにはお金が必要で、16歳の美子にはそれを用意するまっとうな方法がない。どこを見ても地獄。
極限まで追い詰められた美子はあやしいDMに「(ライバーを)やってみたいです」と返信し、「魔法少女Live!」のアプリをダウンロードすることに。
ビジュアルもメッセージも全部まがまがしい。でもこのときにはもう、美子はお金さえ手に入れば、ダークウェブだろうがグロだろうがどうでもよかった。
投げ銭は戦闘力
アプリ側に個人情報を握りに握られた美子は魔法少女ライバーとしてデビューを迎える。
指定された場所にいたのは美子と同い年くらいの少女。
しかもこの二人は人気配信者なのだ。投げ銭いっぱい稼げそう。
特殊なスーツとグラスを装備した彼女たちは拡張現実(AR)の世界で「本物の魔法少女として活躍」するのだという。グラスのスイッチを入れるとこうなる。
かわいい! なんともいえないマッドな雰囲気が気になるが、魔法少女だしキラキラ楽しいんだろうね。……と思ったら、キラキラしてるがその100倍くらい血が出る。流血裂傷なんでもあり!
なぜこのゲームのライバーは高額な報酬を手にするのか、なぜこのゲームの視聴者はダークウェブを介さないと参加できないのかがわかってくる。これはガチンコの魔法少女デスゲームなのだ。
美子はゲームもうまくないし、歌も歌えない。でも根性だけはある。やがて視聴者からゲーム攻略のヒントをもらえたり投げ銭も届くように。
投げ銭は「MP」と呼ばれる値に変わり、魔法少女たちはMPを使って敵を倒していく。つまり投げ銭は魔法少女にとって報酬であり、戦闘力でもあるのだ。人気者にならなきゃ死んでしまう。エグい!
「魔法少女Live!」には何人くらいの魔法少女が参加しているのだろう。定期的にメンバーを募集しているようなので「入れ替わり」は頻繁にありそうだ。退場した魔法少女がどうなるかなんて想像したくないが、美子はこのデスゲームを始めちゃったから後には退けない。
そして投げ銭を上手に集めるライバーだって当然いる。
この子は強そう。本作は魔法少女のビジュアルがめちゃいいんですよね。たくさん見たい! でも私は美子に課金したいよ。負けないでほしい。
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(レビュアー:花森リド)
- 魔法少女Live! 1
- 著者:岩虎みゃこ
- 発売日:2023年11月
- 発行所:講談社
- 価格:550円(税込)
- ISBNコード:9784065289921
※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2023年12月8日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。