ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
中央公論新社編集者 藤吉亮平さんの注目作家は「佐川恭一」
佐川恭一(さがわ きょういち)
1985年、滋賀県生まれ。京都大学文学部卒業。2011年「終わりなき不在」で第3回日本文学館出版大賞ノベル部門を受賞。2019年「踊る阿呆」で第2回阿波しらさぎ文学賞を受賞。著書に『シン・サークルクラッシャー麻紀』『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』などがある。
真剣なやつが一番おもしろい!
佐川恭一という作家がいる。彼の作品の主人公の多くは、モテたいがモテない男だ。モテたいがモテない男などいくらでもいるけれど、佐川作品の主人公のすごみは、みっともなさを恐れないところにある。
恥をかくのを恐れず、そしてしっかり恥をかく。これほど痛快な主人公がいるだろうか。恥を恐れずに行動する彼らの真剣さには、かくありたしと憧れの念を抱くが、しっかり恥をかいてくれるので、その憧れは痛快さに変換される。覗き見していて一番おもしろいタイプの主人公だ。結局、真剣なやつが一番おもしろい、ということだろう。
佐川さんはこれまでに、「スカーレット・ヤングスター」(惑星と口笛ブックス)、『舞踏会』(書肆侃侃房)、『アドルムコ会全史』(代わりに読む人)、『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチってみた』(集英社)といった中短篇集を発表しているが、どれもおもしろく、極彩色の痛快コレクションといっていい。
2019年、佐川さんに原稿執筆を依頼した時、そんな「痛快」展開を最大限つめこんだ本を作りたいと思った。では、それに最適な形はなにか……。そうだ、無数にエピソードが分岐する「ゲームブック」だ!
かくして痛快無比の大傑作『ゼッタイ! 芥川賞受賞宣言~新感覚文豪ゲームブック~』が生まれ、2023年9月に刊行された。本書の刊行予告が発表された直後に、作家の大滝瓶太さんがTwitter(現X)でこんなことを書いていた。
“各出版社の佐川恭一本からは、各社担当編集者の「私が佐川恭一の一番おもしろい本を作れる」という気迫を感じる。”
真剣な企画が一番おもしろい。そしてもちろん、作家も編集者もみんな真剣なのである。
最後に一言だけ。佐川さんは、モテたいがモテない男を最高にリアルに書くのに、本人にはふしぎな色気がある。ずるいと思う。
(中央公論新社 文芸編集部 藤吉亮平)
- ゼッタイ!芥川賞受賞宣言
- 著者:佐川恭一
- 発売日:2023年09月
- 発行所:中央公論新社
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784120056949