ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
早川書房編集者 金本菜々水さんの注目作家は「矢野アロウ」
矢野アロウ(やの あろう)
1973年生まれ、大阪府出身。2023年、『ホライズン・ゲート 事象の狩人』(応募時の「ホライズン・ガール~地平の少女~」を改題)で第11回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、デビュー。
SF的アイデアで切なさが増幅する、ブラックホール近傍のガールミーツボーイ
毎年ハヤカワSFコンテストの応募原稿の山を見ながら「今回はどんな新しい才能が現れるのだろう」と楽しみにしているのですが、今年は『ホライズン・ゲート 事象の狩人』という稀有な物語に出会うことができました。
著者の矢野アロウさんは投稿歴12年のベテラン。宇宙SFの魅力が詰まった世界観と、詩的な文章表現が高く評価され、受賞にいたりました。
私が最初にこの小説を読んだのは、じつは担当になる前、最終選考会で大賞受賞が決定した後のことでした。「どんなお話なんだろう、ちょっとだけ読んでみよう」と思ったが最後、他の用事をすべて後回しにして一気に読破してしまいました。ちょっとこれ、面白すぎる!!!!
小説の舞台は、宇宙連邦創成期に発見された十五兆標準太陽質量の超巨大ブラックホール〈ダーク・エイジ〉。そのどこかにある別の宇宙へ続く〈門【ゲート】〉を探すため、主人公の狙撃手・シンイーと、その相棒イオは調査を繰り返します。
シンイーは辺境の砂漠・ヒルギス出身で、幼いころ手術で脳髄を分断され、右脳に伝説の祖神が宿っているという設定。対するイオは、進化の過程で脳が左右ではなく前後に分かれたことで、過去・現在・未来を見通す力を持つパメラ人。ブラックホールの中心へ降りていくイオに危害を加える時空のゆがみを、少し離れた場所から狙撃して彼を守るのがシンイーの仕事です。
中心に近づくほど時間の流れが遅くなるブラックホール周辺で、それぞれに周囲の時間から取り残されるシンイーとイオ。出会ったときにイオが何気なく予言した2人の運命とは――。
豊富なSF的アイデアがシンイーとイオの関係性と不可分な形で絡み合い、SFでしか成立しない切なさを感じさせる恋愛小説でもあります。2023年の読書納めにも、2024年の読書初めにもおすすめです。お楽しみいただけますように!
(早川書房 書籍編集部 金本菜々水)
- ホライズン・ゲート 事象の狩人
- 著者:矢野アロウ
- 発売日:2023年12月
- 発行所:早川書房
- 価格:2,090円(税込)
- ISBNコード:9784152102973