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【Vol.8:北沢陶】編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!

『をんごく』(KADOKAWA)北沢陶

ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

KADOKAWA編集者 植田真衣さんの注目作家は「北沢陶」

北沢陶(きたざわ とう)
大阪府出身。イギリス・ニューカッスル大学大学院英文学・英語研究科修士課程修了。2023年、『をんごく』で第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉をトリプル受賞し、デビュー。

 

史上初の三冠受賞作は恐くて泣けるホラーミステリ

北沢陶さんは『をんごく』で第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉、さらに〈読者賞〉と〈カクヨム賞〉も受賞し、堂々の三冠でデビューとなりました。

大正時代末期の大阪船場を舞台に、妻の死を受け入れられずにいた主人公・壮一郎のまわりで起きる怪異の謎を“顔のない”「エリマキ」と一緒に追う物語です。

今年の横溝賞は凄い。最終選考後、編集部がざわざわしていたことを覚えています。「面白いから読んでみて」と原稿を渡されて、ぼろぼろ泣きながら一気読みしました。

『をんごく』の魅力は沢山ありますが、まず、新人とは思えないほど文章が巧い。また、少ない枚数ながらも、無駄のない文章で物語を転がし、どのシーンを切り取っても伏線になるような綿密な構成も圧巻でした。

船場言葉もとても読み心地がいいです。北沢さんにお伺いすると、当時の船場言葉を使っていた人はもうほとんどおらず、資料を探したり取材をしたりするのにも苦労をしたそう。最後の決闘シーンに登場する「壮一郎の住む家」にはモデルがあったりと、当時の資料から紡がれた物語だからこそこれだけのリアリティを生み出しているのだと感激すると同時に、北沢さんの作品と向き合う姿勢にも心を掴まれました。

「エリマキ」というキャラクターも秀逸です。千年ものあいだ、死んでいることに気付かずこの世に留まる霊を喰って腹を満たしており、容姿は見るひとの心にいちばん深く根付いている者に映る。芸子には惚れた男に見え、子を亡くした親には子の姿に見えるのです。しかし、壮一郎からのっぺらぼうに見えると言われることで、エリマキは「ほんとうの自分は何者なのか」について思いを馳せるのですが、またそれが切ない。

壮一郎の妻の霊がこの世に留まる理由はなにか、「エリマキ」は何者なのか、そして「をんごく」の意味とは。大型新人による泣けるホラーミステリ、ぜひお楽しみいただけると嬉しいです。

(KADOKAWA 文芸局 植田真衣)

をんごく
著者:北沢陶
発売日:2023年11月
発行所:KADOKAWA
価格:1,980円(税込)
ISBNコード:9784041142653