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Z世代がはまるドラマ「高良くんと天城くん」!BLで攻めるMBSとKADOKAWAの狙いとは?

『高良くんと天城くん』

Pixivとダ・ヴィンチWebの連載で人気を集め、BLアワード2022「BEST 次に来るBL部門」で第2位となった、今もっとも旬なボーイズラブ(以下BL)漫画『高良くんと天城くん』(はなげのまい、KADOKAWA)。高校生の男子同士の恋愛を描いた同作は、MBS(毎日放送)の深夜ドラマ枠「ドラマシャワー」とKADOKAWAのBLドラマレーベル「トゥンク」のコラボ企画としてドラマ化され、W主演の佐藤新さん(IMPACTors/ジャニーズJr.)と織山尚大さん(少年忍者/ジャニーズJr.)の同期入所コンビの初々しいシーンは視聴者を大いに沸かせています。

BLの新たな試みとして、「ドラマシャワー」×「トゥンク」の制作・プロデュースでタッグを組むMBSコンテンツ戦略局の上浦侑奈プロデューサーとKADOKAWAのOプロデューサーに、同作の魅力と、今なぜBL作品に注目するのか、その理由などを伺いました。

漫画『高良くんと天城くん』

プロフィール
MBS(毎日放送) 東京支社コンテンツビジネス部
上浦侑奈(かみうら・ゆうな)

東映・テレビ企画制作部を経て、2018年にMBSコンテンツ戦略局に入社。
MBSでは、ドラマ特区「コーヒー&バニラ」「ねぇ先生、知らないの?」「社内マリッジハニー」や、ドラマイズム「liar」「凛子さんはシてみたい」「ガールガンレディ」「生き残った6人によると」など多数の作品をプロデュース。
演出参加作品に「サレタガワのブルー」「西荻窪 三つ星洋酒堂」のほか、KADOKAWAとはドラマ特区「初情事まであと1時間」で共同プロデュース。今秋放送のプロデュース作品にドラマ特区「恋と弾丸」など。

 

『高良くんと天城くん』は“超日常”を描いた「令和のBL」

――『高良くんと天城くん』のドラマ化は、どのようないきさつで決まったのでしょうか?

『高良くんと天城くん』

上浦 「高良くんと天城くん」は、MBSとKADOKAWAで設けた年間6本のBLドラマ枠「ドラマシャワー」の3作目にあたります。KADOKAWAさんから新しいBLドラマレーベル「トゥンク」のお話をいただいた際に、MBSでは1作品のBLドラマを単発で放送するのではなく、「トゥンク」とがっちりコラボさせていただいて、1年間で連続6作品を放映する深夜の30分ドラマ枠を新しく設けることを決めました。

O 「トゥンク」というのは、KADOKAWAがBL作品を実写ドラマの形でも世に輩出していこうと弊社のBLファンのプロデューサーが発案した“BLドラマレーベル”です。ですから「ドラマシャワー」枠のドラマの企画・制作も、KADOKAWAがMBSさんとともに担う形です。

私はこれまで1作品単位で各放送局に企画を提案していたのですが、BLにはコアなファンが付いているので、できれば継続的に放送した方が多くのファンを取りこめるとBLファンのプロデューサーから相談を受けて、ご一緒したことのある上浦プロデューサーに企画を持ち込みました。ただ、まさかMBSさんが1年間の放送枠を作ってくださるとは思っていなかったので、とても驚きました。

上浦 個人的には学生時代からBLに限らず多様性のある作品を作りたいという思いはずっとありました。社会性とエンターテインメントが両立できるかという課題はあったのですが、BLにおいては「おっさんずラブ」などのヒットドラマが出て流れが変わりました。視聴者層も広がってきて、MBSとしてもBL作品が継続的に作りやすい環境にあったと思います。『高良くんと天城くん』のドラマ化が決まったのは今年の春ごろですね。

O 「ドラマシャワー」の1作目は『不幸くんはキスするしかない!』(露がも子、リブレ)、2作目は『先輩、断じて恋では!』(晴川シンタ、KADOKAWA)。3作目以降に関してはBLファンであるプロデューサーの意見も踏まえ、上浦さんを含めたドラマ制作者の目線で作品を選んでいます。

上浦 『高良くんと天城くん』は、原作がSNSを中心に大人気で、若い世代の方々にも刺さっている印象がありました。今の深夜ドラマの視聴者は、夜中という時間帯や配信の普及もあって、若い女性の方々にも多くご覧いただいています。深夜ドラマは「まず知っていただく」必要があるので、テレビ以外のSNSなどのメディアを使ってどれだけアピールできるかも大事にしています。

『高良くんと天城くん』

――作品自体、高校生の日常を描いた内容で、BLを知らない人にも受け入れられそうですね。

O 編集者から「令和のBL」というキーワードを貰って、私もこの言葉をよく使うのですが、まさに時代を反映した作品という印象を原作に持っています。例えば『高良くんと天城くん』では、いきなり別れ話のシーンから始まります。BLを含め恋愛ドラマは二人が意識しあった後、付き合いだすまでにいろいろなヤマがある構成で制作してきましたが、この作品は、二人が付き合うまでの話は短くて、付き合ってから好き同士なのにすれ違う恋愛模様を主体に描いている点が面白い。

上浦 二人は同級生の友達とは軽妙な会話を交わす一方、二人きりになるとお互いに自分の気持ちを語り合っていく。超普通の高校生活の中に男の子同士の恋愛を“存在”させているわけです。そんな「日常」の連続を映像化したら、面白いのではないかと思いました。

O 高良くんと天城くんの周囲の同級生たちは二人の関係を知って驚きますが、男性同士であることに驚いたわけではないんです。普段高校のクラスでも仲がいい人たちが固まっていくつかグループができたりしますが、別々のグループにいる男の子と女の子が付き合っているのを知ると、「あの二人、いつの間に付き合っていたんだろう?」と驚いたりしますよね? どちらかといえばそういう感覚なんです。

『高良くんと天城くん』

この作品が既存のBLファンだけではなくBL初体験の読者をも取り込んでいるのは、どこにでもある日常的な感覚が描かれているから。実際の高校生活ってきっとこんな感じだよね、と思わせてくれるのです。

 

読者が漫画で感じる「間」を映像でも表現

――実際に映像ができたとき、これはよかったと思えるシーンや、おすすめのシーンなどはありますか?

O 天城くんが高良くんの家にお泊りする第3話は“神回”と言っていただけて嬉しかったです(笑)。あとは第1話。最初にいきなり理科室で二人が別れ話をするシーンから始まって、天城くんの回想モノローグを差し込んでいく構成は気に入っています。もしかすると視聴者の方にはわかりにくいかもしれないと思いつつ、その構成に原作らしさがあると考え、敢えて原作通り映像化しました。

天城くんの回想モノローグ(草むしり中に天城くんが高良くんに告白するシーン)からまた教室のシーンに戻り、自分だけが空回りしたのではないかと天城くんは悲観的になる。けれども、場面は高良くん視点のモノローグに切り替わって、実は「好きだから触れないでおこうと思った」「好きだから、同じ委員会を選んだ」と、高良くんの本心が徐々に明らかになっていく。その集約的なシーンとして学校の廊下で高良くんが歩いてきて天城くんとすれ違う。このシーンの二人の佇まいが大好きです。バックに流れる音楽もバージョンを変えてポップなクラブ調のリズムを入れたりして、ドキドキ感が出るようにしています。

『高良くんと天城くん』

上浦 お泊り回(第3話)で天城くんがお風呂からあがって高良くんの部屋に戻った時、自分の気持ちを落ち着かせるためにいきなり「ジャストフィット俺」と言いながらシュールなポーズをとるシーンがあります。これも天城くん役の織山さんと現場の皆さんが原作とまったく同じように再現されていたのには驚きました。この作品では、決定的なセリフのあとや、天城くんの無邪気なかわいさが爆発するカットの後に二人とも何にも喋らない「3秒ぐらいの沈黙」があるんですね。高良くんが天城くんのことをかわいいと思って、じーっと見つめる「間」なんですが、このドラマはとてもそれが美しいなと思います。

実はその「間」は、読者がこの漫画を読んでいるときに、高良くんの「間」に感情移入して知らず知らずのうちに作っている「間」と同じになっているのではないかなと。つまり、読者が原作を読んでいるときに作っている「間」を、佐藤さん、織山さん、そして現場の皆さんが正確に共有して、忠実に映像化されたのが素晴らしいなと思います! ドラマでこんなにも頻繁に会話の中で無言の「間」があいているケースをあまり見たことがなくて、最初はなかなか斬新だなと思ったのですが、視聴者の皆様にも癖になっていただけているのはないかと思います。

『高良くんと天城くん』

O 原作のモノローグと「間」の重要性は吉野主監督と話し合い、脚本と演出でそれを意識して大事に作ってくれました。役者陣も原作と脚本を読み込んで演じてくれたおかげだと思います。

 

Z世代に支持される「優しい世界」を表現している!

――高良くんと天城くんを演じた佐藤新さんと織山尚大さんのジャニーズJr.コンビも役にハマっていたと思います。

上浦 主役のお二人は圧倒的な存在感がありますよね。お二人をキャスティングさせていただける機会に恵まれて、本当に良かったです。世代的にも読者やここに描かれている世界とマッチしていて、もしかしたら、この世代の空気感は、お二人が一番掴んでいらっしゃったのかなと思います。

O 例えば敬語ですよね。高良くんは恋人の天城くんに対しても「うん、そうしてみましょうか」とか「今度は俺から借りてください」と敬語を使う。これは決して目上を敬う意味で使っているわけではないんです。でも今の高校生の会話を聞いていると、こんな話し方をしているときがありますよね。

上浦 深夜枠のドラマプロデューサーとしては、Z世代にも刺さるドラマを模索したいと思っています。個人的に、Z世代の方々はいい意味で気張りすぎないところがあると思っているんです。言い換えれば、いろいろなことを「許容」できる懐の深さのようなものがあるなと。だから男性同士で付き合うことに対しても、「何が駄目なの? 別にいいんじゃない?」みたいな雰囲気が当然のようにあって、とても素敵だなと感じます。

――『高良くんと天城くん』は、そんなZ世代に支持されるような作品だったわけですね。

上浦 BL作品には「このシーンを見て!」というような、キラキラした「気合」のようなものを感じるものもありますが、「高良くん~」の場合はとっても肩の力が抜けていて、親しみやすい。それが「令和のBL」のテイストなのではないかと思います。「高良くん~」の世界は、ドラマチックにするためだけに必要以上に邪魔をしてくる人のいない、穏やかで優しい世界なんですよ。

O 高校生のリアルな日常生活の中で“普通”の男子高校生同士の恋愛を描いている点が新鮮で支持を集めているのだと思います。

 

倍速視聴する“タイパ時代”にBL作品が向いている理由

――今後、手掛けたいドラマのジャンルとか、方向性みたいなものはありますか?

上浦 この1年に関しては、さまざまなジャンルのBL作品を手掛けていき、「ドラマシャワー」枠と「トゥンク」レーベルをまず知って楽しんでいただくことが大事だと考えています。

それ以外では、自分はホラーも好きだったりするので、今後はBL作品でもさまざまなジャンルとかけ合わせて幅広く楽しんでいただける作品ができればうれしいなと思っています。

O 私が20代の時に映像や音楽を楽しんだ方法とはまったく違う楽しみ方をZ世代の方はされている。Z世代が映像を「リズムで見ている」と表現する人がいますが、その通りかもしれない。ですので、音楽と映像の融合的な部分でもうちょっといろいろ遊んでみたい――という気持ちはあります。

『高良くんと天城くん』

上浦 TikTokのような短尺動画のニーズがあることは間違いないと思います。その点では深夜ドラマは30分枠など短いものが多く、もしかすると若い世代の方に親しんでいただきやすいのかもしれません。

O Z世代の人たちは、TikTokの短尺の動画に音楽やリズムをつけていくことで、絵と音の心地よさみたいなものを楽しんでいる。これをドラマでもっと生かせないかと考えています。「高良くんと天城くん」では、バックの音楽もリズムをメインにしようと思い、「間」があるシーンに関してもそれをつなぐ音作りを作曲家さんに相談しました。原作と音楽の関係の在り方をもっと研究してドラマで表現していきたいですね。

上浦 BL作品は、もしかすると短尺ドラマに向いているものも多いかもしれませんね。特に、「シチュエーション萌え」を重視するタイプのBL作品は、印象的で萌える短尺シーンを再構築して成立させることができますから。「高良くんと天城くん」もそうですよね。

O 実際に原作の「1.5」巻は短いエピソードの連続ですからね。この原作の魅力は、そういった「日常の連続」「尊いの連続」にあるんです。これから放送される最終回も、いかにもこのドラマらしい作りになっています。これまで携わって来た連続ドラマでは、最終回はドラマ全話の集大成としてのクライマックスを意識してきましたが、「高良くんと天城くん」ではアプローチを変え、「日常」の延長としての盛り上げ方を意識しました。ぜひご覧ください。

上浦 「高良くんと天城くん」に続く「ドラマシャワー」の4作目は、小説が原作の『永遠の昨日』(榎田尤利、KADOKAWA)で、これは『高良くんと天城くん』とは異なるテイストの感動作です。いずれにしても「ドラマシャワー」と「トゥンク」さんとのコラボコンテンツは、海外からも引き合いがあるのがありがたいですね。韓国、台湾などアジア圏を中心に南米まで。実際、いまタイのBLもものすごい勢いで伸びていますから、アジアでBLがブームになりつつあるのかもしれないですね。

――「ドラマシャワー」と「トゥンク」はもはや世界的なコンテンツへと飛躍しつつあるのですね。4作目以降も期待しております。長時間のインタビュー、ありがとうございました。

 

『高良くんと天城くん』

©「高良くんと天城くん」製作委員会・MBS

【ドラマ情報】
出演:佐藤新(IMPACTors/ジャニーズJr.) 、織山尚大(少年忍者/ジャニーズJr.)、小宮璃央、鈴木康介、那須泰斗、坂井翔、坂口風詩
原作:はなげのまい著『高良くんと天城くん』(キトラコミックス/KADOKAWA刊)
脚本・監督:吉野主
音楽:小内喜文、渡辺亮希
オープニング主題歌:Sano ibuki「twilight」(EMI Records/ UNIVERSAL MUSIC)
制作プロダクション:ビデオプランニング
企画・プロデュース:KADOKAWA
製作:「高良くんと天城くん」製作委員会・MBS