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「のだめ」「最高の離婚」を手がけた清水プロデューサーが仕掛けるドラマ「推し武道」が間もなく放送開始!元乃木坂46・松村沙友理さんがはまり役との声も

ドラマ「推し武道」_4

地下アイドルとその熱狂的なファンたちとの交流を描いて累計100万部のベストセラーとなった『推しが武道館いってくれたら死ぬ』。2020年に放送されたTVアニメに続き、元乃木坂46の松村沙友理さん主演によるTVドラマが10月9日(日)からABCテレビにて放送されます(関東はテレビ朝日で10月8日(土)から)。

期待のドラマを仕掛けたのは、「のだめカンタービレ」「最高の離婚」などを送り出してきた朝日放送(ABCテレビ)の清水一幸プロデューサー。ドラマプロデューサーとして原作にどう接しているのか、ドラマ化するにあたって何を心掛けているのか、お話を伺いました。(2022年8月25日取材)

ドラマ「推し武道」_1

【プロフィール】
清水一幸(しみず・かずゆき)
朝日放送グループホールディングス コンテンツ開発局長。
1973年生まれ、埼玉県出身、上智大学理工学部化学科卒業。1996年に朝日放送に入社し、2005年にフジテレビに移籍。2021年再び、朝日放送に移籍。
フジテレビ時代の主な担当作品に「のだめカンタービレ」「CHANGE」「最高の離婚」「昼顔~平日午後3時の恋人たち〜」「問題のあるレストラン」「パパ活」「彼氏をローンで買いました」「東京ラブストーリー(2020)」など。

 

アイドルをやっていた松村沙友理が逆の立場を演じる面白み

――まずお伺いしたいのですが、なぜこの作品をドラマ化しようと思われたのですか?

この作品はもともとTBSでアニメ化されたのですが、フジテレビの公式動画配信サービス「FOD」で独占配信をしたときに、ものすごく配信数が良かったんですよ。内容も、少女漫画でありつつも、女性アイドルグループとそのメンバーのファン(推し)との関係が女性同士という珍しい設定で、着眼点が面白いと思っていました。

私自身、実際アニメを拝見したときも面白かったですし、これが実写映像になったらどうなるだろうか、と期待感もありました。というのも、16年前にドラマ「のだめカンタービレ」を手掛けたときに、音楽と映像が融合するドラマが盛り上がったという経験をしていたからです。

ドラマ「推し武道」_3

©️平尾アウリ/徳間書店

推しが武道館いってくれたら死ぬ 1
著者:平尾アウリ
発売日:2016年02月
発行所:徳間書店
価格:682円(税込)
ISBNコード:9784199504914
 

『推しが武道館いってくれたら死ぬ』あらすじ
岡山県で活動するマイナー地下アイドル【ChamJam】の内気で人見知りな人気最下位メンバー【舞菜】を人生すべて捧げて応援する熱狂的ファンがいる。収入は推しに貢ぐので、自分は高校時代の赤ジャージ。愛しすぎてライブ中に鼻血ブーする…伝説の女【えりぴよ】さん! 舞菜が武道館のステージに立つ日まで…えりぴよの全身全霊傾けたドルヲタ活動は続くっ!!!!!

(徳間書店公式サイト『推しが武道館いってくれたら死ぬ』より)

 

また、「推しが~」のアニメを女性がよく見ているという話を聞いたことも、実写化の動機になりました。僕は、ドラマを見るのは基本的に女性が多いと思っていて、女性が見てどう感じるか、そこにウェートを置いた方がいいものが作れると考えています。女性アイドルのファンは基本的に男性が多いですから、女性アイドルグループをオタクのファンが追いかけるだけの話は、内容次第では視聴者の女性が引く可能性もある。その点でこのアニメが女性に支持されたことは大きかったと思います。

ドラマ「推し武道」_5

 

――主人公である追っかけファン「えりぴよ」に、実際のアイドル・元乃木坂46の松村沙友理さんを起用されていますね。

今回は、実際のアイドルが逆の立場であるファン=「アイドルオタク」を演じるのを面白がってみようかな、と。主演の松村沙友理さんは主人公の「えりぴよ」の破天荒だけれども、愛すべきキャラクターに雰囲気的に合っているかなと考え、個人的に「えりぴよ」役は松村さん一択でした。

「えりぴよ」は美人なはずなのに、“推し”にすべてを捧げているのでお金がなく、お洒落もせず、いつも赤いジャージ姿でライブ会場にも現れるのがトレードマーク。撮影時に松村さんの赤いジャージ姿を見たときには、イメージ通りで完全にハマっているなと感じました。松村さんに快く引き受けていただいて良かったです。今までドラマを何作もやらせていただきましたけれど、なかなか原作モノのキャスティングに関して自分の第1希望が叶うということはないんですよ(笑)。

松村さんがアニメや漫画好きなのは有名ですけれど、この原作も読んでいらっしゃったようです。だから本人も、「えりぴよ」の振る舞いや熱量がとても理解できる、とおっしゃっていました。

©A/T,OA
©️平尾アウリ/徳間書店

――物語に登場する地下アイドルグループ「ChamJam(チャムジャム)」に、本物のガールズユニット「@onefive(ワンファイブ)」を起用されていますね。

ドラマ「武道館」(原作:朝井リョウ)を制作した時の経験が活きています。主役を実際のアイドルグループに演じてもらい、つんく♂さんに音楽を手掛けていただきました。ドラマの展開も、ドラマの中のアイドルグループに武道館コンサートを実現させたいという形で、虚実ないまぜの感じが実際に面白かったんですよ。

ただ、今回の「ChamJam」は7人組で、世の中に7人組のアイドルグループというのはなかなかいない。頭を悩ましていたときに、現実のアイドルグループに役者さんをプラスするアイデアが出てきたんです。そこで、「@onefive」のメンバー4人に、中村里帆さん(「ChamJam」リーダー・五十嵐れお役)、和田美羽さん(横田文役)と、伊礼姫奈さん(市井舞菜役)をプラスしてキャスティングしました。

歌唱シーンやダンスシーンで、@onefiveはもちろんリアルなアイドルグループが踊っているのでバッチリでしたが、中村さんはじめ、役者の皆さんもかなり踊れるんですよ。小学生からダンスの授業がある時代で育っているからでしょうか? 最初の練習の場に行ったときにはほぼ出来上がっていて驚きました。

ドラマ「推し武道」_10

 

当初の想像を超える「感動シーン」が生まれた!

――原作をドラマ化するときに、大切にされていることはありますか?

原作を実写化するときには、原作ファンを裏切らないように、原作の本質を裏切らないように、と常々考えています。原作とまるっきり同じものを作ってもファンは喜ばないでしょうし、かといって、原作から遠くに離れるとそれはそれで嫌がると思うんです。この塩梅が難しいと思います。それで、ファンは原作のどの部分が好きなのかを考えるわけです。

また、「ChamJam」メンバーそれぞれの個性も魅力ですから、1人ひとりのキャラクターを作っていくところは神経を使いました。舞菜やれおだけじゃなく、相手がリアルな恋に落ちてしまう空音、奔放な発言をする優佳など多彩です。それぞれのキャラクターがどのような喋り方をするのかなど、言葉尻も含めて、脚本や演出では細部に気を遣いました。

そして、何より重要なのは、主人公「えりぴよ」の演出です。アイドルオタクは執着心が強いので、1つ間違えると気持ち悪い行動に見えることも、なきにしもあらずなのですが、そこを「真っすぐに純粋に応援することは素敵なんだな」と愛おしく見てもらえるように腐心しました。

ドラマ「推し武道」_8

 

――演出に腐心された本ドラマの見どころは。

最終回のラストシーンは、僕はまだ見ていないのですが、すごく良いシーンが撮れたと評判でした。えりぴよがライブ会場で「最後まで(えりぴよが推している)舞菜を応援していこう」という気持ちを表現するシーンなのですが、演出していた監督が感動して、泣きそうになったと言っていました。もともと原作はコメディーで、感動するというよりは、「なんかいいな」と楽しめるタイプの作品ですから、「泣くレベル」までいったことは少し驚きました(笑)。見るのが非常に楽しみです。

この原作の一番いいところは、人を純粋に応援する、思い続けることの大切さが表現されているところ。とくに「えりぴよ」と「舞菜」の場合は、勘違いやすれ違いでお互いが相手とうまくいっていなかったところが、徐々に心が通じあっていく。その過程を視聴者のみなさんに楽しんでもらえるように具現化していくのが、自分の使命だと思っています。それが、この原作に関しては「ファンの期待を裏切らないということ」だと解釈しています。

ちなみに今回の作品はアニメからのファンもいますので、そのファンも裏切らないように、ドラマの劇中でアイドルが歌う曲を、アニメと同じものを採用しました。

 

重視するのは心理描写の流れ

――ドラマづくりのためにどれくらいの本を読んでいらっしゃるんですか?

50歳近い年齢にしては、漫画は読んでいるほうだと思います。ただ、家族には気持ち悪いって言われるんですよ。家や電車の中で少女漫画を読んでいるオジサンの姿を想像するだけで気持ち悪いって(笑)。

ドラマ「推し武道」_7

 

学生時代から漫画は好きでしたが、世の中の漫画好きと言われる人ほどは読んでいないと思います。理系だったこともあるのですが、本を読むのは実は苦手だったんですよ(笑)。ですので、生徒・学生時代を通じて多くの人が読んでいたであろう本をほぼ読んでこなかった反面、大人になってからは読むことがむしろ苦にならなくなりました。

今は多いときは月に書籍・漫画合わせて50冊くらいは読みます。ベストセラーランキングの上位などで注目されている作品を読むこともありますが、基本的に本屋さんに直接行って「ジャケット買い」します。平積みされている本の表紙を見て気になったものを手に取ってみる。ジャンルは関係ないですね。

――ジャケット買いとおっしゃいましたが、具体的にはどのような観点でチョイスされていらっしゃるんですか?

特に重視しているのは、タイトルです。この作品が映像化されたときに、世の中がタイトルに魅力を感じるかどうか。ジャケット買いするときは、表紙の絵だけではなく、タイトルにも惹かれるかどうか、も見ています。オリジナルドラマも同様ですが、タイトルが非常に重要と考えます。タイトルが抽象的な場合、たぶん皆さんの気も引きにくいのではないかと。

――そのほかに、ドラマ化したい作品のポイントはありますか。

内容やストーリーについては、日常の延長線上にある話が好きですね。個人的にはラブストーリーが大好きです。流行や社会現象を扱った話は、むしろオリジナルでドラマを作ったときに入れる方が楽しいです。ですので、原作に求めるものは、ストーリーとして心理描写の流れに無理がないかどうか、普遍的な観点を重視しているかどうかです。

2019年に『ポルノグラファー』(丸木戸マキ著)というBLコミック作品を映像化しました。男性同士の恋愛話ですが、それが男女の組み合わせでもストーリーが成り立つと思えました。2人がなぜ出会って、なぜ惹かれていくのか、その心理描写がしっかりとしていました。それで映像化しようと思ったわけです。

逆に、面白いが、ありえないような設定の作品は、僕はあまり好きじゃない。もちろん宇宙人が出てきたり、タイムスリップするドラマの中にもきちんと成立しているものもあるので、そういう設定がすべてダメとは言いませんが。

ドラマ「推し武道」_6

 

――得てして尖った設定に人の目は奪われがちですよね。

「ポルノグラファー」もきわどいドラマだと話題になりましたが、「刺激」は映像化にあたっての最優先ではないんです。刺激というものは、あくまで「視聴者の皆さんがどう感じるか」という結果ですから。「ポルノグラファー」は基本的にラブストーリーとして成立していたから映像化したのです。

同じBLでも大ヒットしていた「おっさんずラブ」がコメディーでしたから、逆に原作通りの典型的なBLに寄せようとしただけです。だから原作にあるラブシーンも全部カットしない。きわどさよりも、ここまでやってくれた!と原作好きの人に思わせることが大事だと思いました。

一昨年、1990年代に大ヒットした「東京ラブストーリー」を再度映像化したのですが、これも話題性や刺激を第1に考えたわけではありません。あくまでストーリーを重視した結果で、この時代に合った表現に変えることで今の視聴者も共感してくれると思ったからです。

結局、原作や原作ファンへのリスペクトがあるから映像化するわけで、リスペクトがなければ黙ってオリジナルドラマを作ればいい。原作の設定だけいただきストーリーは別、というドラマは作りたくないんですよ。

 

見る人から「応援したい」と思われること

――今の視聴者はどのようなドラマを見たいと思っているのでしょうか?

見る人にとって「この2人だったら許せるよね」「応援したいな」と思ってくれるようなストーリーであるかどうかだと思います。つまり共感できること。

今回の「推しが~」は、心理的にはジャニーズをはじめとするアイドルを応援する女性と変わらないのだから、そこに共感して応援していただけたらよいかなと。地下アイドルから武道館を目指すことは、世の中のアイドルが売れてドームやアリーナでコンサートをするのと一緒ですから。

 

ドラマ「推し武道」_8

 

――今後は、どのようなドラマを作っていきたいと思っていますか?

ラブストーリーも時代によって形が変わってきています。時代に合った恋愛の形がいいのか、普遍的な形がいいのか。まあ時代は何周もしているので、もしかしたら1980年代のストーリーがもう1回面白くなる時代が来るかもしれないですね。

僕がドラマを作りたいと思ったのは、高校生の時に「東京ラブストーリー」を見た影響からです。「こういう作品を作る人になりたい」と思った、あの感覚は、今もずっと持ち続けています。そういった、人生を変えるほどの影響力のある作品を作りたいと考えています。ですので、「若い人」にドラマを見て欲しいという欲求は、これからも常にあり続けるでしょう。

今は大学生たちのドラマを作ってみたいと思っています。今の若い人がターゲットのドラマは、高校生かOLの話が多いですよね。実は、大学生の話は少ないんですよ。特にこのコロナ禍で大学にはあまり行けていないわけですから、対面授業もできていないし、サークルに入っていない人も多い。出会いも少ないだろうし、どうやって恋愛しているのかわからないんです。大学生って最も多感な時期なのに、すべてを奪われてしまっている環境の中で、彼らが何を考えているのか、興味があります。

――なるほど。コロナ禍で貴重な青春を奪われた人もいると思います。ぜひ、そのあたりをテーマにしたドラマを拝見したいと思います。本日は長時間、ありがとうございました。

ドラマ「推し武道」_2

©A/T,OA

【放送日】
ABCテレビ(関西)2022年10月9日(日)スタート 毎週日曜 23時55分~
テレビ朝日(関東)2022年10月8日(土)スタート 毎週土曜 26時30分~
※ABCテレビでの放送後、TVer/GYAO!で見逃し配信&Huluで見放題独占配信!

【あらすじ】
フリーターのえりぴよ(松村沙友理)は、地元・岡山のマイナー地下アイドル・ChamJam(チャムジャム)のメンバー・市井舞菜(伊礼姫奈)に人生の全てを捧げている熱狂的なアイドルオタク。
収入の全てを推しである舞菜に貢ぎ、自らの服装は高校時代の赤ジャージのみという徹底ぶり。24時間推しのことを想い、声の限りを尽くして推しの名前を叫ぶその姿は、いつしか“伝説”と呼ばれるようになり、オタク仲間からも一目置かれる存在となっていた。
一方で、内気でシャイな性格の舞菜は、単推し(=一人のメンバーを一途に応援すること)してくれるえりぴよを認知していながらも、緊張のあまり “塩対応”してしまう日々…。お互いを大切に想っているのにすれ違い続ける、もどかしく歯がゆい二人の関係はこれからどうなるのか…!?

【スタッフほか】
原作:平尾アウリ『推しが武道館いってくれたら死ぬ』 (COMICリュウWEB/徳間書店)
監督:大谷健太郎、北川瞳、高石明彦
脚本:本山久美子
音楽:日向萌
企画・プロデュース:清水一幸
プロデューサー:辻知奈美、矢ノ口真実(The icon)、高石明彦(The icon)
音楽制作:ポニーキャニオン
制作協力:The icon
制作著作:「推しが武道館いってくれたら死ぬ」製作委員会・ABC