その日、病院は仮面の凶悪犯に占拠された。
閉じ込められたのは、一夜限りの当直医の速水と凶悪犯に撃たれた女子大生の瞳。
密室と化した病院から脱出を試みる2人は、次々と不可解な異変に遭遇する。
入院記録のない患者、警察に通報しない院長とスタッフ、隠された病室、あるはずのない最新の手術室、凶悪犯の不可解な目的……。
この病院には、何かある――。
病院《なぞ》の仮面に隠された、国家をも巻き込む〈衝撃の真実〉とは!?
現役医師で作家の知念実希人さんによるベストセラー小説『仮面病棟』が、坂口健太郎さん・永野芽郁さん出演、木村ひさし監督によって映画化。
クランクアップからまだ日も浅い中、主演をつとめた坂口健太郎さんと原作者の知念実希人さんに、本作についてお話を伺いました。
- 仮面病棟
- 著者:知念実希人
- 発売日:2014年12月
- 発行所:実業之日本社
- 価格:652円(税込)
- ISBNコード:9784408551999
―― まずは坂口さん、オファーがあったときの率直な感想をお聞かせください。
坂口: 台本を読ませていただいたんですが、面白くてあっという間に読んでしまいました。一方で「どういう映像になるんだろう」「これを映像にするのは大変だろうな」とも思ったんですけど、やっぱりすごく面白かったので「ぜひやりたい」とお受けしました。
読んでいて印象的だったのは、僕には医学知識がないのに、物語にすんなり入っていけたことですね。今回の作品は医療ものではないですけど、手術したり、患者さんをケアしたりするシーンがいくつかあります。それでも、その場面を想像していて何も疑問がわかなかったのは、知念さんが現役のお医者さんで、事実や経験にもとづいて書いていらっしゃるところが大きいんじゃないかと思います。
―― 知念さんにとっては、今作が初の映画化作品となりました。映画脚本を手がけられたのも初めてですよね。
知念: 初稿の時点では監督もキャストの方も決まっていなかったので、ミステリーとしての基礎となる構造を僕がまずかっちり固めて、そこへ木村ひさし監督の“色”や、各キャラクターに対する肉付けをしていった感じです。
自分が大切にしたミステリーの骨格はしっかり残したまま、何度も何度も練っていって、その過程でスタッフやキャストの皆さんの意見が有機的に組み合わさっていく。普段1人で小説を書いているので、初めての体験で、とても新鮮でした。
―― 以前、小説の執筆について「頭の中の映像を書き写している感じ」というお話を伺ったんですが、撮影の現場はいかがでしたか? 今回の撮影は、実際に使用されていた病院で行なわれたんですよね。
知念: 僕がよく当直していた病院に雰囲気がよく似ていて、臨場感がありました。療養型病院、特に小規模なところって、似たようなつくりをしていることが多いんです。でも夜の病院は、本当はもっと暗いんですよ。患者さんが寝ているので、廊下は非常灯が点いているくらいで、ほとんど真っ暗です。
―― それはよけい怖そうです……。坂口さんも「もともと生きている病院だったので、そこも含めてリアルな映像になっているだろう」とコメントされていましたね。
坂口: やっぱり、すごく独特な雰囲気でしたね。物語としては一夜が明けるまでの話なので、昼間の撮影だとしても、遮蔽して薄暗い中で撮影しているんです。照明さんや美術さんが“使い古されている感じ”に作り込んでくださった影響もあると思うんですけど、お芝居をしていても、妙な圧迫感がありました。それを感じながらお芝居ができたという意味でも、セットじゃなく病院をお借りしてできたのはよかったです。そういう空気感は絶対に映像に出ていると思うし、僕もほかの方のシーンを観ていて「すごくかっこいい映像になってるな」と感じたので。
―― 撮影前のコメントで「過酷な撮影が続くと思う」とおっしゃっていましたが、実際はいかがでしたか?
坂口: 実は僕、密室が苦手なんですよ。わりと本当にダメで(苦笑)。だから撮影も、クランクイン前は「スケジュールも詰まってるし、ちょっとしんどいかもしれないな」と思っていたんですけど、瞳を演じた永野芽郁ちゃんをはじめ、共演者の皆さんが楽しんでお芝居をしてくださったおかげで、思っていたようなピリピリした感じはなかったので、それがすごく救いでした。
―― 映画化にあたって、速水には「交通事故によって恋人を亡くした」という設定が加わりました。演じるにあたり、どんなことを意識されましたか。
坂口: 台本を読んで最初に考えたのが、「瞳に対してどこまで固執するべきか」ということでした。瞳はその夜、ピエロが連れてきて初めて会った女の子。一方で、病院には64人の患者が入院しています。ほかにも患者がいる中で、なぜ「君だけは絶対助ける」と瞳にエネルギーが向いたのか。それはやっぱり、瞳と(恋人だった)洋子さんをどこかで重ねているからだろうと思うんです。だから、お芝居をしながら“気付きのきっかけ”みたいなものをところどころに仕込んで、それを拾っていくことで、だんだんぐぐっと瞳に意識が向いていく……というふうに意識しました。
―― 瞳の視点で見ると、速水はヒーローみたいな存在ですよね。
坂口: 僕自身と速水が一番違うのは、僕はどこかで「生存」を第1に考えるだろうな、というところですね。劇中に、瞳に「逃げろ」と言うシーンがあるんですけど、たぶん僕だったら、瞳と一緒に逃げて自分も助かろうとすると思います。でも速水は、自分は病院に残ってさらに謎に迫ろうとする。それにはきっと、恋人を亡くしたこと、医者としての矜持、人としての正義、いろんな側面があると思うんですが、そういう選択ができる正義感、ヒロイズムというのは、速水のすごさだなと思います。
一方で速水は、恋人を亡くしたことでメスを握れなくなってしまったというバックグラウンドも持っています。ピエロはもちろんのこと誰も信用できない、命の保証もない状況下で、追い詰められてはいるけれど、速水としては、瞳を救わなきゃならない一方、瞳の存在によって医者として救われているところもあるだろうなとも思いました。
―― 知念さん、速水の瞳に対する意識について、実際のお医者さんとしてはどうでしょうか?
知念: そうですね……。僕自身は内科医ですけど、外科医にとって「自分が執刀した患者」って特別なんですよ。「担当患者は、自分よりも絶対に最優先にしなければならない」という本能的な意識がある。
当直医に関していうと、その夜は確かに患者さんたちを担当するんだけれど、あくまで全権は主治医が握っています。たとえば患者さんの容態が急変したら、当直医は主治医を呼んで、主治医が判断を下すまでの対応をする。だからそういう意味では、入院患者たちは“自分の患者”ではないんです。
とすると、速水にとって瞳は(ほかの患者とは)違う、守らなきゃならない存在なんですね。僕にとってはそれは当たり前のことだったので、小説も脚本も違和感なく書いていたんですけど、今お話を聞いて、坂口さんがそのあたりをうまく読み取ってくださっているなと驚きました。
―― 現場でご自身の書いた「速水」が生きているところを目の当たりにした時は、どんなことを思われましたか?
坂口: そういえば知念さんがいらっしゃったのって、けっこう大変なシーンの撮影の時ですよね。本のお話もしたかったんですが、バタバタしていて申し訳なかったです。
知念: いえいえ、皆さんがプロの仕事をしてらっしゃるのを見て感動していました。できるだけ邪魔にならないようにしつつ、雰囲気を堪能させてもらいました。
坂口さんが演じた速水は、純粋にかっこよかったです。小説では、読者の方が主人公に自分を投影できるようにニュートラルな存在として描くことが多いので、映画の速水はかっこよすぎるくらいかもしれません(笑)。
あと、注射や縫合をする時の手つきが本物の医者そっくりだったんですよ。
坂口: 縫合はかなり練習しましたね……。
知念: 縫合って、手首の返しが特に難しいんです。注射も、薬液が入った注射器の空気を抜くところまでしっかり手順を踏んでいて。僕から見てもすごくリアルでした。
―― 最後に、小説原作の映画ということで、読書について伺います。まずは坂口さん、知念さんは原作者であり現役のお医者さんでもあるわけですが、何か聞いてみたいことはありますか?
坂口: 軽く聞こえちゃうかもしれないんですけど、やっぱりお医者さんってすごく大変な仕事じゃないですか。一方で作家さんも「無から物語という“有”を生み出す」存在で、どちらか1つでも大変なのに、知念さんの頭の中はいったいどういう状態になってるんだろう?と思います。
知念: 僕はもともとは作家になりたかったんですけど、それだけで食べていけるわけじゃないので、代々医者の家系だったこともあって医者になったんです。医者というのは職人のようなもので、僕は医者になったことで、技術と医学知識を手に入れた。それを、もともと好きだった映画や小説にうまく昇華できないかなと考えたんです。
―― ちなみに『仮面病棟』は、わずか40日間で書き上げられた作品なんですよね。
坂口: えっ!? そうなんですか?
知念: 40日で書けたんじゃなくて、執筆期間が40日間しかなかったんです(笑)。だから“ソリッド・シチュエーション”といって、密室空間での一晩の話にしようと思いました。短期間で書かなければならなかったことでよりスピード感が出たので、かえってよかったのかもしれません。
―― 坂口さんは読書がお好きだそうですが、推理小説は読みますか?
坂口: すごくたくさん読んできたわけじゃないですけど、読みますね。
―― 先ほど「密室が苦手」とおっしゃっていましたが、読むぶんには大丈夫でしたか?
坂口: 読むぶんには、もちろん(笑)。でもやっぱり、想像はしましたね。お芝居を始めてから、職業病というわけじゃないですけど、本を読んでいてもなんとなく「もしこの人だったら……」というのを想像して、キャラクターを解釈しようとしてしまうんです。読書なんだけれど、どこか台本のように読んでいる部分があるというか。
―― 実は以前ほんのひきだしで、知念さんに「“夜読書”のすすめ」というエッセイを書いていただいたことがあるんです。坂口さんにも、読書がどんな存在なのかもう少しくわしく伺いたいです。
坂口: 今はなかなかできていないんですけど、重い作品を読む時に、並行してエッセイを読むのが好きですね。心がずーんと疲れたら、休憩みたいな感じで別の本を読む。それで「ああ、面白いなあ」と少し気持ちが軽くなったら、また戻る……というふうに。そういう読み方にハマっていました。
でもお芝居をするようになって、昔とは本の読み方が変わったかもしれないです。ちょっとキザなことを言うと、1冊の本はいわば“1つの人生”で、そこに書かれていること、出てくる登場人物は、確実にそこに存在していると僕は思っています。それでお芝居をする時には、その物語のキャラクターとして、僕がそこに存在する。俳優の仕事に「本」や「物語」って欠かせないものなので、今の僕にとって本は、味方のような、仲間のような存在ですね。
スタイリスト:檜垣 健太郎 KENTARO HIGAKI(littlefriends management所属)
ヘアメイク:廣瀬 瑠美 RUMI HIROSE
撮影:家老芳美
映画「仮面病棟」作品情報
坂口健太郎 永野芽郁
内田理央 江口のりこ 朝倉あき 丸山智己
笠松将 永井大 佐野岳 藤本泉
小野武彦 / 鈴木浩介 大谷亮平 / 高嶋政伸
原作:知念実希人『仮面病棟』(実業之日本社文庫)
主題歌:UVERworld「AS ONE」(ソニー・ミュージックレコーズ)
監督:木村ひさし
脚本:知念実希人 木村ひさし
脚本協力:小山正太 江良至
音楽:やまだ豊
製作:映画「仮面病棟」製作委員会
制作プロダクション:ファインエンターテイメント
配給:ワーナー・ブラザース映画
http://wwws.warnerbros.co.jp/kamen-byoto.jp/
©2020映画「仮面病棟」製作委員会