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無人島に3つ持っていくとしたら?限られたアイテムのみを手に生き残るのは誰だ?|秋吉理香子『無人島ロワイヤル』

秋吉理香子さん『無人島ロワイヤル』書影

「無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく?」──。バーの常連客同士がする他愛ない会話が、本当に命がけのサバイバル・ゲームに発展する!

無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく? 常識的に考えれば、ナイフとテントは必須として……「小説推理」を手に取るくらいのミステリーファンなら、残るひとつは本を一冊チョイスして己(おの)がセンスを見せたくなるもの。うーん、僕だったら、クリスチアナ・ブランドの地中海の島を舞台にした『はなれわざ』かなあ。

なんてことを気楽に考えられるのも、自分が無人島に行く機会などありはしないという確信から。東京郊外のとある町にある〈バー・アイランド〉にて、初夏の夜に常連客同士がその話題でひとしきり盛り上がったのも、いい時間つぶしで終わるはずだった。が、バーのマスターが「俺、無人島、持ってるよ」とぽつりと漏らしたことから一転、非現実的だった無人島バカンスにみんなで出かけることに。いざ、マスターが相続した名も無き島に、それぞれ3つのアイテムだけ持参し上陸した8人の常連客だったが──このマスター、およそ正気の沙汰ではない“王様の遊び”を企画していた。なんと賞金10億円を懸けた、本物の血が流れるサバイバル・ゲームの開幕を告げるのだ……!

複数の登場人物が一所に隔離され、何かの目的のために殺し合いをしろと迫られる物語形式を、一般にデス・ゲーム物と呼ぶ。いまや小説にとどまらず、広く創作ジャンルのひとつとして認められる当代デス・ゲーム物の火付け役となったのは、ミステリーファンならご存じ、高見広春(たかみこうしゆん)の『バトル・ロワイアル』(1999年)である。秋吉理香子(あきよしりかこ)の新刊『無人島ロワイヤル』では、本家バトロワと同様、登場人物たちは〈ゲームマスター〉の定めた人数になるまで殺し合うことを求められるのだ。

無人島に上陸した常連客の中には、頼れる医師がいる。バーのマスターの監視の目をあざむき、8人全員が助かる方策を医師は提案するのだけれど、残念ながら複数の常連客がマスターのお望みどおりの行動に走ってしまう。注目すべきは、それが決してお金目当てではなく、普段は抑えつけていた殺人衝動や、あるいは過度な承認欲求から仲間の命を平気で奪いだすところだ。やはり人間の本性は、極限状況においてこそ真(しん)にあらわになってくる。

作者の秋吉理香子は、しばしば“イヤミスの新旗手”と称されるが、本書の読後の印象はそれとは逆。とんでもなく悲惨な話なのに、意外にもカラッと明るい、いちおうの【ハッピーエンド】が待ちかまえているのですよ。まことユニークでポップなデス・ゲーム小説だ。

無人島ロワイヤル
著者:秋吉理香子
発売日:2023年10月
発行所:双葉社
価格:1,815円(税込)
ISBNコード:9784575246834

『小説推理』(双葉社)2023年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載