ほんのひきだしでは、この年末年始も13日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2024年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
文藝春秋編集者 川田未穂さんの注目作家は「伊与原新」
伊与原 新(いよはら しん)
1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て、2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞して作家デビュー。2019年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。2020年刊行の『八月の銀の雪』は直木賞候補、山本周五郎賞候補となり、2021年本屋大賞で6位に入賞した。
多くのファンを魅了する、理系の知識を活かした小説作り
著者の伊与原新さんは、これまで『月まで三キロ』『八月の銀の雪』など、ご自身の専門とする科学知識を活かした作品で、多くのファンを魅了してきました。私自身は化学や物理、数学も大の苦手で、根っからの文系なのですが、伊与原さんが地球や星空の真理を題材にされた作品からは、いつも新しい扉が開かれるような爽快感を覚えるから不思議です。
『宙(そら)わたる教室』の舞台は、東京の新宿にある定時制高校。そこには育ってきた家庭環境も、年代も異なる生徒たちが通っています。授業についていけず退学を考える21歳の岳人、フィリピン料理店を営む40代のアンジェラ、保健室が居場所の佳純、中学を出てすぐ東京で集団就職した70代の長嶺……彼らが理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成し、「火星のクレーター」の再現実験を開始したことで、次々に起こる化学反応が大きな読みどころとなっています。
火星の夕日が青い理由、惑星探査機が描いた轍、無重力空間での衝突実験など、登場人物たちが目にするワクワクやドキドキを、一緒に体感しながら読み進めていくと、人は学ぶ意欲さえあれば何歳になっても学べることや、改めて学ぶことの楽しさを、皆さんもきっと気付くことでしょう。そして時にはぶつかりながらも、同じ目標を目指す仲間がいる心強さに、胸を熱くするに違いありません。
「青春科学小説」と銘打っていますが、著者の伊与原さんはもともと大人向けに書いたつもりで、あまり「青春」という言葉は意識したことがなかったそうです。しかし好きなことに熱中した時期、希望を燃やせる時期を青春というなら、すべての人に青春は永遠に宿るはず! 若い方にはもちろん、あらゆる世代に愉しんでいただきたい一冊です。
(文藝春秋 出版局第二文藝部 川田未穂)
- 宙わたる教室
- 著者:伊与原新
- 発売日:2023年10月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784163917658