おすすめ戦争漫画6選
8月15日(水)、日本は73回目となる終戦の日を迎えます。
戦後70年あまりが経過し、戦争経験者も高齢化が進み、実際の戦争体験を語ることができる人は年々減り続けています。戦争の経験を伝える世代がいなくなることで戦争の記憶が次の世代に引き継がれず、風化してしまうのではないかと危惧されています。
そんな中、戦争を直接経験していない世代の中から、漫画という表現方法で戦争を描く作品が生まれてきています。その作品の多くが、戦争体験者へのインタビューや文献調査などの綿密な取材を行い、庶民を主人公に描かれているのが特徴です。
これまで戦争がテーマの作品というと「古臭くてとっつきにくい」などと言われ敬遠されがちでしたが、現役の若い漫画家たちによる、より身近な主人公による物語は、戦争を知らない若い年代にも広く受け入れられています。アニメ映画化をきっかけに漫画も大ヒットした、こうの史代さんの『この世界の片隅に』などが記憶に新しいところです。
終戦の日を迎えるにあたり、あらためて戦争について考えるきっかけになる漫画を6作選んでみました。この機会に、漫画を通して戦争について考えてみてはいかがでしょうか。
『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』
- ペリリュー ー楽園のゲルニカー 1
- 著者:武田一義 平塚柾緒
- 発売日:2016年07月
- 発行所:白泉社
- 価格:660円(税込)
- ISBNコード:9784592141877
昭和19年、夏。太平洋戦争末期のペリリュー島に漫画家志望の兵士、田丸はいた。そこはサンゴ礁の海に囲まれ、美しい森に覆われた楽園。そして日米合わせて5万人の兵士が殺し合う狂気の戦場。当時、東洋一と謳われた飛行場奪取を目的に襲い掛かる米軍の精鋭4万。迎え撃つは『徹底持久』を命じられた日本軍守備隊1万。祖国から遠く離れた小さな島で、彼らは何のために戦い、何を思い生きたのか──!?『戦争』の時代に生きた若者の長く忘れ去られた真実の記録!
『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』は、1万人以上の日本軍の戦死者を出し、太平洋戦争においてもっとも凄惨だったとされる「ペリリュー島の戦い」を描いた戦争漫画。著者は『さよならタマちゃん』『おやこっこ』で知られる武田一義さんです。
作中に登場する軍人たちは、武田一義さんの漫画ではおなじみの、3頭身のかわいらしい造形で描かれています。また、主人公も、体が特段強いわけでもない、漫画化志望のごく普通の青年です。
ペリリュー島に来たばかりの若い隊員たちは、まだ太平洋戦争の最前線にいる実感もなく、普段の私たちと変わらないような他愛もない会話を交わしています。3頭身のキャラクターとして描かれチョコチョコ動く彼らのさまは、一見かわいらしくコミカルです。しかしそんな彼らにも爆弾や銃弾は容赦なく降り注ぎ、隊員たちは次々に命を落としていきます。
かわいらしい絵柄と悲惨な現実とのギャップが戦争の残虐さを一層際立たせるとともに、どこにでもいるような普通の若者が主人公だからこそ、「もし自分が戦場にいたらどうなるだろう……」と想像させられる作品です。
『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』は、現在第5巻まで発売されています。
『あとかたの街』
- あとかたの街 1
- 著者:おざわゆき
- 発売日:2014年06月
- 発行所:講談社
- 価格:748円(税込)
- ISBNコード:9784063769999
太平洋戦争末期の昭和19年、名古屋。木村家次女・あいは、国民学校高等科1年生。青春真っ只中にいるあいの関心は、かっこいい車掌さんに出会ったことや、今日の献立のこと。自分が戦争に参加しているなんて気持ちは、これっぽっちもなかった――。しかし、米軍にとって名古屋は、東京や大阪と並んで重要攻撃目標だった。少女・あいにとって、戦争とは、空襲とは、空から降り注いだ焼夷弾の雨とは、一体何だったのだろうか。
『あとかたの街』は、『傘寿まり子』の著者でもあるおざわゆきさんが、昭和20年(1945年)3月19日の名古屋大空襲を描いた戦争漫画。おざわさんの実母の体験がもとになっており、主人公である12歳の少女・あいも、お母さんをモデルにしています。
『あとかたの街』は全5巻の作品なのですが、たった1日の空襲がそのうちの4巻をまるまる使って描かれており、その様子は圧巻の一言。あいの生活に突如戦争が入り込んでくる……という過程自体も非常にリアルなのですが、空襲のさなかの迫りくる炎の描写、立て続けに起こるショッキングな出来事には、読んでいて息をするのも忘れるほどです。
戦争のおそろしさ、残酷さを、今まさに自分が体験しているかのように感じる作品です。
『凍りの掌 シベリア抑留記』
- 凍りの掌シベリア抑留記 新装版
- 著者:おざわゆき
- 発売日:2015年07月
- 発行所:講談社
- 価格:968円(税込)
- ISBNコード:9784063773033
小澤昌一は東洋大学予科生。東京・本郷の下宿先で銃後の暮らしの中にいた。戦況が悪化する昭和20年1月末、突然名古屋から父が上京し、直接手渡された臨時召集令状。北満州へ送られた後、上官から停戦命令の通達、すなわち終戦を知らされる。実弾を撃つことなく終わった戦争だったが、その後ソ連領の大地を北に向かわされ、ついにシベリアの荒野へ。待っていたのは粗末な収容所と、地獄のような重労働だった。
『凍りの掌 シベリア抑留記』も、『あとかたの街』のおざわゆきさんによる戦争漫画。こちらはおざわさんの実父の体験がもとになっており、北満州に出兵した直後に終戦を迎え、その後捕虜としてシベリアの収容所に送られた、いわゆる「シベリア抑留」の話が描かれています。
「シベリア抑留」という言葉を聞いたことはあっても、その内容をくわしく正確に覚えている方は多くないかもしれません。
終戦を迎えているにもかかわらず、捕虜として極寒の地で十分な食事も与えられずに過酷な労働を強いられた多くの若者たち。そのエピソードの数々は、戦争のさなかとはまた異なる悲惨さや苦しみを浮かび上がらせます。
『あとかたの街』と『凍りの掌 シベリア抑留記』をあわせて読むと、こんな凄まじい戦争を生き延びた両親からおざわさんが生まれ、今漫画を描いていることが、ほんとうに奇跡としか思えません。
なお『凍りの掌 シベリア抑留記』は、全1巻の作品です。
『夕凪の街 桜の国』
- 夕凪の街 桜の国
- 著者:こうの史代
- 発売日:2004年10月
- 発行所:双葉社
- 価格:880円(税込)
- ISBNコード:9784575297447
昭和30年、灼熱の閃光が放たれた時から10年。ヒロシマを舞台に、1人の女性の小さな魂が大きく揺れる。最もか弱き者たちにとって、戦争とは何だったのか……、原爆とは何だったのか……。漫画アクション掲載時に大反響を呼んだ気鋭、こうの史代が描く渾身の問題作。
こうの史代さんが『この世界の片隅に』以前に描いた、もう1つの戦争漫画。『夕凪の街 桜の国』は、広島への原爆投下から10年後を描いた「夕凪の街」、40年後を描いた「桜の国(1)」、60年後を描いた「桜の国(2)」を1冊にまとめた短編集です。
2007年に田中麗奈さん主演で映画化されましたが、このたびNHK広島放送局が開局90年を記念して、常盤貴子さん・川栄李奈さん出演によるTVドラマを制作。8月6日(月)に放送されました。
「夕凪の街」では、広島での被爆から10年経っても、原爆投下直後の風景を思い出し、生き残ったことへの罪悪感に苛まれながら生きる女性・皆実の人生が、「桜の国」では、被爆者2世として生まれ、偏見を受けながらも力強く生きる、皆実の姪・七波の人生が、過去の回想とともに描かれます。
本作でも『この世界の片隅に』と同様に、戦争に翻弄されながらも、日々の幸せを大切に淡々と生きていく普通の人々の姿が、こうのさんのやさしく温かいタッチで描写されています。
『夕凪の街 桜の国』は、全1巻の作品です。
『戦争めし』
- 漫画戦争めし
- 著者:魚乃目三太
- 発売日:2018年08月
- 発行所:秋田書店
- 価格:1,320円(税込)
- ISBNコード:9784253107877
兵隊さんと戦地ゴハン。戦時下のお寿司屋さん。餃子と引き揚げ兵。激動の時代の中で生まれた感動の“食エピソードたち”。
昭和初期の“グルメ”を“食漫画マスター”の魚乃目三太がほんわか温か〜く描く珠玉のオール短編物語。(秋田書店公式HP『戦争めし』より)
『戦争めし』は、戦時中の兵士や庶民の食にまつわる人情味あふれるエピソードを、各話読み切りの形式で温かくユーモラスに描いたグルメ漫画。こちらも駿河太郎さん・壇蜜さん出演でドラマ化され、NHK BSプレミアムで8月11日(土)に放送されました。
本作で描かれているのは、過酷な時代を前向きに生きた日本人の姿。戦争体験者への取材や残された手紙などがもとになっており、つらい状況にあっても、ささやかなことに楽しみや幸せを見出そうとする人間のたくましさが感じられる作品です。
著者は『しあわせゴハン』『噺めし』の魚乃目三太さんで、単行本は現在第4巻まで発売中。また今回のドラマ化を記念して、単行本未収録作5本と「幻のカツ丼」などの名作を収録した290ページの豪華本『漫画 戦争めし~命を繋いだ昭和食べ物語~』が発売されました。
『あれよ星屑』
- あれよ星屑 1
- 著者:山田参助
- 発売日:2014年04月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:704円(税込)
- ISBNコード:9784047295919
敗戦から1年あまり。ぼろぼろに焼け落ちた東京で、酒浸りの暮らしをしていた川島徳太郎は、かつて死線を共にした戦友・黒田門松に再会し……。その非凡なる画力に、同業者からも熱烈な賛辞を受ける、異色の漫画家・山田参助が挑む初の長編作。闇市、パンパンガール、戦災孤児、進駐軍用慰安施設など、戦後日本のアンダーワールドの日常を、匂い立つような筆致で生々しく猥雑に描き出す、東京焼け跡ブロマンス。
(コミックウォーカー『あれよ星屑』より)
山田参助さんによる漫画『あれよ星屑』は、敗戦直後の東京を舞台にした作品。焼け野原となった東京で再会した元軍人2人の友情を軸に、命からがら帰国したもののろくに仕事も食べるものもなく、周囲からも煙たがられる復員兵たちの哀しい日常や、戦争孤児・進駐軍・慰安婦などがあふれる混沌とした街の様子を、ユーモアを交えながらもリアルに描いています。
戦後の日本を人間臭さたっぷりに描いた本作は漫画好きたちからも高く評価され、「このマンガがすごい!2015」オトコ編では第5位を獲得。単行本は全7巻で発売されています。