なんてかわいいんだ!
「恵体(けいたい)の女の子は好きですか?」なるメッセージを単行本の帯に刻んだ『バウトな彼女』。「恵体」とは「恵まれた体」のこと。ぶあつい筋肉に覆われた太い骨と、圧倒的な存在感。薄着でも厚着でもデカい。そんな肉体をイメージするとよさそうです(ネットスラング由来の言葉なのだそうで、調べるといろいろおもしろい)。
さて、骨太で、みっしりと筋肉につつまれ、肌がピカピカ光る、元気な女の子。どうですか、好きですか? 私はこのマンガを読んでますます大好きになりました。
制服姿でもわかる恵体っぷり。これは、強くて大きな“山田”のかわいらしさに降参するマンガです。そしてそんな彼女に恋する“新田”の奮闘ぶり(文字通りの奮闘をかますのだ)をニッコニコしながら応援したくなる。
いろんな場面から「君のことが好きなんだよ」がひしひし伝わってくる。そして本作の「好きなんだよ」は、ことごとく「バウト(勝負)」に結びつきます。
好きなあの子はプロレス部
山田と新田は同じ高校に通う1年生。
「遅刻遅刻~」と言わんばかりに食パンくわえて走る新田と、反対側からは同じく遅刻気味で慌てて学校へ向かう山田……こんな古き良きラブコメの伝統的風景も『バウトな彼女』ではこうなります。
ヒロイン・山田のガタイが優良すぎて食パンもろとも吹っ飛ばされる新田。これは新田が弱いというより、山田が強すぎるんだと思う。山田だけちゃんと受け身の姿勢だし。実は彼女はプロレス部に所属しています。しかもまだ1年生なのに部内最強と謳(うた)われる逸材。
練習着から覗く脇腹やたくましい二の腕が美しい。本物だ。ちなみに新田は野球部に所属しています。だから彼だって決してフィジカルが弱いわけではないし、クラスでは強い方なのに、とにかく山田がすべてを凌駕しまくっているわけです。
そんな圧倒的存在である山田への恋心は、他のクラスメイトからは「え?」って感じのようで……。
こんなふうに雑に冷やかされているけれど、彼らは知らないだけ。新田には、山田のかわいらしいところがちゃんと見えています。
いい表情だよね。
好きだからぶっ飛ばす!
出会い頭でぶっ飛ばされ、教室での腕相撲大会でも完敗。新田にとって山田は強すぎる。でも好き! で、「もっと強くならなくちゃ!」と新田は奮い立ち、ついにプロレス部へ向かうことに。
「倒しにきました」と赤面する新田が微笑ましいけれど、そのお相手は両手に15kgのダンベル持ってアームカールやってるよ!
こうしてプロレス部のみなさんのご厚意によって急きょ決まった山田vs.新田戦。
プロレス特有のフンワリかつ奥深い世界も味わえます。
エグいエルボーを涼しい顔して決めてくる山田。
意味わかんないよねえ。でもこのまま引き下がったら山田に告白できない! だから新田も本気で蹴りを入れるも……、
山田の闘魂に火がついてしまう。恋愛としてはカオスな印象だし、「ドゴォ」なんて効果音が鳴り響くラブコメはそうそうないけれど、いい試合! それに山田のセリフがかわいい。
初めてのプロレス対決は、新田のラブパワーによる善戦もむなしく、予想通り山田の圧勝となりました。でも新田は懲りることなく山田を追い続けます。教室でつい見てしまうし、山田のことばかり考えちゃう。
体重で勝ちたいなあ、とか。
山田ってどんなお弁当食べるのかなあ、俺より食べるのかなあ、とか。これ私も知りたい! プロレスのスターに憧れるファンみたい。
「天井の蛍光灯を替えるのに肩車しよう」からの「どっちが上になる?」で勝負が勃発したり。もはや二人が触れ合えば戦いが始まる。
山田速い! なお、このあとホッコリかつ手に汗握る展開が待っています。神回。
負けても負けても健気にアプローチを重ねる新田が非常に好ましいんです。
放課後ずっと練習していた山田と正門で鉢合わせ! タオルで汗を拭く山田の顔がかわいい。そしてついに……!
言った! 山田は「え、いいけど……」という反応。いいけど、何?
なるほど。筋肉を酷使したあとの有酸素運動ってスッキリするもんね。新田、ついて行けるか!?
*
(レビュアー:花森リド)
- バウトな彼女 01
- 著者:貝遼太郎
- 発売日:2023年09月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065324592
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年10月4日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。