読んでる人のリアクションをTikTokで見たい!
ことあるごとに「ちょっと待って!?」って休憩をはさまないとハートが限界を迎えてしまいそう。これが、よい少女マンガの証拠です。
休憩して何をするかというと、「すんごいロマンチックな海に飛び込んじゃうよ? いい?」と目を閉じて自問自答してみたり、前のページに戻ってリプレイを試したり、いわゆる「味わう」ってやつを繰り返すわけです。とびきりのアイスクリームを口に運んだ直後とやることが一緒。「デザート」とはよく言ったものだなあと思います。
そんなデザートの作品『ふたりじめロマンチック』で、私は何回「待って!?」って言ったかな。数えておけばよかった。
思わず手が止まる。それで天井とか見ちゃう。しかも次のページでまた降参する。
顔にペタッと張りついた前髪、汗、校庭の砂埃。いつもなら最悪なものたちがロマンチックなスパイスに変わるなんて。たまらないよね。オセロの白と黒が一気にひっくり返るような勢いがある。
だから本作を読んだ他の人の反応も知りたい。いいリアクション動画になる気がします。私の場合、1話目の段階で複数回クラクラしてます。
そうそう、「まだエピソード1だよ? なのにこの濃度?」と腰を抜かすのも、よい少女マンガの証拠です。
私のファーストキスを奪ったのはあなた?
“熊森”は、幼稚園時代のファーストキスの思い出を高校生になった今でも大切に覚えています。相手は“たじまきょうへい”くん。彼は今どこで何をしているんだろう……と思ったら、高2のクラス替えで“田島京平”なる名前が!
まさかまさか、あの“たじま”くん? とっさに教室へ向かって駆け出す熊森。頭の中は少女マンガ的展開でいっぱい。きっと音楽も鳴ってただろう。
田島くんはどこ!? アナタなの!?
田島くんだ~~~~~! 幼稚園の頃の面影はないかも? というか当時のお顔なんて思い出せないよ。熊森が覚えているのは、あのロマンチックでまぶしい瞬間。
運命を確かめたくてしょうがない熊森が、田島くんにファーストキスの件をドキドキしながら告げると……?
完全なる人違いだった模様。しかも「キスごときで」なんて言われちゃう。熊森のドキドキに冷や水を浴びせるようなキッツい顔してるし!
塩対応が服着て歩いてるような田島くん(偽者)は、運命の人なんかじゃないと思うのに、頬杖ついて彼を目で追う熊森がかわいい。見ちゃうんですよ、田島くん(偽者)を。そしたら実は優しい人なのだと気がつきます。やがて消える「(偽者)」のラベル。ここでもオセロの白黒が反転して、熊森はしっかり恋に落ちてしまうのです。
熊森は田島くんと少しずつ打ち解けて、ファーストキス確認事件のことも謝ります。みんなの前で言っちゃってごめんね、恥ずかしかったよね、って(田島くんが塩なのは恥ずかしいとき)。
人生で一番ロマンチックなものを熊森はすでに知っている? ここで私たちはこのマンガの得意技を思い出します。想定は必ずひっくり返されます。
ロマンチックが更新されていく
熊森は、田島くんへの淡い恋心を抱えたまま、体育祭でピンチを迎えます。「借り人競走」で熊森が引き当てたのは、まさかの「好きな人」というお題。
タスキを握りしめたまま田島くんを見つめる熊森の表情が切ない。そりゃ好きな人だけど、そんなこと全校生徒の前で披露できないよ。いっそごまかしちゃう?
そしたら。
待って!? いいのーッ?
こうして冒頭で紹介した「“好きな人タスキ”を引っさげた彼と校庭を走る」なんていう、この世で一番キラキラした時間が流れるわけです。幼稚園のころのファーストキスなんて余裕で更新してる。
ここも巧みだなあ。かつての熊森は、田島くんと目が合っても「田島くん意外の男子だったら秒で恋始まってたな」って思っていたのに。今は真逆。
さあ、日常の何もかもがきらめき始めます。体育祭の打ち上げ、放課後の海、七夕、ボウリングWデート……。
着信だってすぐには取れない。ロマンスだなあ。「遅ぇよ」って無限に言われたい。
と、熊森のロマンチック記録が更新されまくる話ばかりをしてきましたが、田島くんはどう思っているのでしょう。
実にマイペースで好感が持てる。「くだらねー」って言われてもロマンチックが止まらない熊森もかわいい。そして……?
「キスごときで」と言っていた人がロマンチックを? 待って、こんな接近のしかたってあるの!? 果たし合いみたいだけども最高だよ。もっともっと予想外なことが待っていそう。10月に出る2巻を待ちながら100回くらい読み返します!
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(レビュアー:花森リド)
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年9月30日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。