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「自己責任」で抱え込まないで。対話を通して気づきを促す、優しい医療ミステリ&ドラマ|『お医者くんカフェ』仙川環

対話を通して本人の気づきを促す風変わりな「お医者くん」とカフェ店主の〝歩み〟

昔から〝病院〟という場所が苦手だ。いつも混んでいるし、不機嫌な医師相手に疑問点を差し挟む余地はない。中には丁寧に診てくれる医師もいるが、そういう病院は例外なく待ち時間が長い。仙川環氏が紡ぐ連作短編集『お医者くんカフェ』には、後者のタイプの「お医者くん」が登場する。

水島めぐみが店主として切り盛りするカフェ「カミナーレ」は、火、木、土の14時から17時の間、「お医者くんのカフェタイム」となる。好きなドリンクを楽しみながら、カウンターの中にいる「お医者くん」に健康相談ができるサービスだ。別料金を支払えば、個別相談にも対応してもらえる。このカフェタイムを担うのは、丸山賢太。かつて、めぐみの主治医だった丸山は、診療方針の違いで勤務先の病院を辞めた。

頻尿に悩む商品企画部のエース、義母から「潔癖すぎて病的だ」と指摘され憤る嫁、なんでも一人で抱え込んでしまうサラリーマン。さまざまな人々が、「お医者くん」との対話を通して自身を見つめ直す。店主のめぐみ本人もまた、苦い過去を持つ。めぐみが抱く悔恨と、愛する者への惜別の思い。丸山が望む、患者一人ひとりとじっくり向き合う余白。両者がカチリと嚙み合ったことから、「お医者くんカフェ」は生まれた。

丸山は、特段目新しいアドバイスをするわけではない。ただ、じっと相手の話を聴き、共感した上で最低限の助言をする。そんな丸山にも「許せない」ポイントがあり、一度だけ声を荒らげる場面があったが、彼の怒りはどこまでも優しかった。他者のために怒れる人の言葉は、どれほど厳しくとも胸に響く。

小石に躓く程度の段階で悩みを打ち明けられる「お医者くん」の存在は、対話の大切さを私たちに教えてくれる。「自己責任」という冷淡な言葉で切り捨てず、親身になってくれる相手とじっくり話し合う。それだけで見えてくるものがあるのだと語りかける本書は、ある意味で私たちにとっての「カミナーレ」に繫がるだろう。カミナーレの意味は、ぜひ物語の中で紐解いてもらいたい。

 

書誌情報

お医者くんカフェ
著者:仙川環
発売日:2026年08月
発行所:双葉社
価格:880円(税込)
ISBNコード:9784575529388

 

試し読み、インタビュー

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて、『お医者くんカフェ』の試し読み、著者・仙川環さんのインタビューが公開されています。

▶『お医者くんカフェ』の試し読みはこちら

▶著者・仙川環さんのインタビューはこちら

 

著者プロフィール

仙川環(せんかわ・たまき)

1968年東京都生まれ。大阪大学大学院医学系研究科修士課程修了。大手新聞社在籍中の2002年に執筆した『感染』で「第1回小学館文庫小説賞」を受賞し、作家デビュー。他の著書に『再発』『無言の旅人』『カナリア外来へようこそ』『食べてはダメとはいいません』、シリーズ作品に「お医者くんカフェ」「処方箋のないクリニック」などがある。

『小説推理』(双葉社)2026年10月号より転載