「体にいいこと」を知っているのに、なぜ行動に移せないのか? 食事、運動、睡眠――健康のために必要な知識は、すでに世の中にあふれています。それでも生活習慣を変えるのは簡単ではありません。
本書は、リウマチ・膠原病内科医として20年以上、診療の現場で患者と向き合ってきた著者が、体の中で起きていることと、その「知識」を「行動」に変えて「自分の体を守る」を実践するための技術を伝える一冊です。
※本稿は『わかっているのに、なぜ体にいいことが続かないのか』(かんき出版)の一部を再編集したものです
医師である私自身が、加工食品の罠にはまっていた
実は、かつての私自身が、この章で書いたメカニズムを地で行っていた人間でした。
大学病院に勤務していた頃、患者さんの診療に加えて、研究や教育などにも追われ、とにかくデスクワークの時間が長い生活を送っていました。
深夜まで座りっぱなしで、その日のうちに家に帰れることは滅多にありません。
当直(病院に泊まり込んで夜間の急患に対応する勤務)も頻繁にあります。
食事はコンビニ弁当か出前。睡眠は4~5時間取れれば十分だと本気で信じていて、残りの時間はすべて仕事に捧げていました。
そして問題はデスクワーク中の「口さみしさ」です。集中力が切れるたびに、つい手が伸びてしまいます。お菓子、飴玉、ガム。飲み物は「せめてカロリーゼロを」と選んだ人工甘味料入りのドリンク。
空腹でお腹が鳴りそうになると「何か食べなければ」と焦って、すぐ何かを口に入れていました。空腹を悪者のように捉えていました。
今振り返ると、この章で解説したメカニズムに、私自身がすっかりはまっていたわけです。そしてカロリーゼロの飲料を「健康的な選択」だと思い込んでいたのですから、人工甘味料のオオカミ少年効果にも無防備でした。
当時の体は、はっきりとSOSを出していました。
子どもの頃から花粉症だったのですが、それが悪化し、毎朝起きると鼻水が固まり、鼻がつまっている状態が当たり前でした。風邪をしょっちゅうひき、皮膚は荒れ、口唇ヘルペスが繰り返し出ていました。
便秘もずっと続いていました。ストレスのひどい時期には、慢性的な胃のむかつきに悩まされ、ある時は急な激しい腹痛で夜中にもがき苦しんだこともあります。
消化管内視鏡を受けましたが「異常なし」。
動悸が繰り返し出るようになり、不整脈の検査を受けたこともありました。こちらも「異常なし」。
帯状疱疹にもかかりました。
慢性炎症と機能性障害が絡み合った、まさに本書で解説してきた「ボヤとバグ」の合わせ技です。
医学の知識はありました。食事が体に及ぼす影響について、教科書的には理解していました。けれど、「知識」だけでした。そのため行動は変わらなかったのです。理性は「これではいけない」と警告していたのに、直感がまったく動いていませんでした。
変わり始めたのは、自分自身の体の中で何が起きているかを、イメージとして捉えられるようになってからでした。
いつも手を伸ばしていた飴玉の先に糖のヤスリが見えるようになり、人工甘味料入りの飲料の向こうに腸内細菌が攪乱される光景が浮かぶようになりました。
そうすると、以前ほど欲しくなくなりました。
今の私の習慣はこうです。口さみしい時はブラックコーヒーかお茶。どうしても小腹が空く時は素焼きのミックスナッツ。そして何より、空腹の時間を「つらい我慢」ではなく、「体が大掃除をしている時間」として楽しめるようになりました。
お菓子を完全に断っているわけではありません。おみやげでいただいたものは喜んで食べます。自分から買うことがなくなっただけです。
たまに質の悪いものを食べると、皮膚が荒れるなど、体が正直に反応してくれます。
以前は気づかなかった体の声が、はっきり聞こえるようになった気がします。
あの頃のSOSはほぼすべて消えました。花粉症だけは残っていますが、かつてとは比べものにならないほど軽くなっています。
あなたと同じように「わかっちゃいるけど」の沼にはまっていた一人の人間が、体内イメージを通して少しずつ変わっていくことができました。
だからこそ、あなたにも変われると、自信を持って言えます。
『わかっているのに、なぜ体にいいことが続かないのか』

発売日:2026年7月
発行所:かんき出版
定価:1,980円(税込)
ISBN:9784761278823
「ほんのひとふし」とは
「ほんのひとふし」は、話題の書籍から特に関心の高いトピックや、今こそ読みたい一節をピックアップしてご紹介する「ほんのひきだし」の連載企画です。
