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「嵐の後」を生きる人々を描く渾身の青春小説——住野よるデビュー10周年記念作|『夜想い』住野よる

書かれたことのない「嵐」と「嵐の後」を生きる人々の姿から始まるポジティブな連鎖

住野よるのデビュー10周年記念作品のタイトルには、ペンネームのよる(夜)が入っている。何度もやれることじゃない。もしかしたら、キャリアで一度っきり。ロックバンドが、バンド名をアルバムタイトルに付ける時と近い感覚なのかもしれない。これこそが自分が生み出したいものなのだ、と宣言するような。

中高一貫校に通う少年・始は、一年間の不登校生活を終え、中学二年生の春から登校を始めた。その二週間後に〈ボーイミーツガール〉。廊下で倒れている女子に遭遇する。彼女は高校三年生の遠山先輩ことケイティで、「星空中毒」という未知の病にかかっていた。夜空で輝く星の光には毒がある。その光を目から吸収することによって発症し、星が出ている夜は高揚し、昼間は二日酔いのような状態が続く。

始はケイティの親友に誘われ、「空想研究会」のメンバー入りを果たす。ケイティを交えたその活動は、始が学園生活に復帰した目的を叶えるのにうってつけで──。病を抱えた少女と、心をこじらせた少年の物語。そう聞くと著者のデビュー作『君の膵臓をたべたい』を連想するが、大きく異なるのは死者の存在だ。一年前に亡くなったツグミという名の男子高校生が、二人の運命と絡み合う。

青春小説と呼ばれる物語が紡ぐのは、「コップの中の嵐」だ。第三者にとっては、あるいは「大人」たちにとってはそうと感じられないが、当事者にとってはとびきり切実な痛み。住野よるはこれまで「コップの中」をリアリティたっぷりに描出しながら、独創的な「嵐」を創出してきた。本作でも、ここにしかない、まだ書かれたことのない「嵐」が登場する。ただ、著者が本作において最も腐心し、文字数や技芸を尽くして表現しようとしているのは、「嵐の後」を生きる人々の姿だ。そこに、空想の力、フィクションの力が関わってくる。

勇気と希望の連鎖は、一冊の本を読む、という経験からだって起こる。ここから、あなたの中で始まる。たぶんこれこそが、住野よるが小説を通して生み出したいものなのだ。

 

書誌情報

夜想い
著者:住野よる
発売日:2026年07月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575249040

 

試し読みが公開中

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて、『夜想い』の試し読みが公開されています。

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著者プロフィール

住野よる(すみの・よる)
高校時代より執筆活動を開始。2015年のデビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、累計部数は300万部を突破。23年『恋とそれとあと全部』で第72回小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に「麦本三歩の好きなもの」シリーズ、『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』『この気持ちもいつか忘れる』『腹を割ったら血が出るだけさ』『告白撃』『歪曲済アイラービュ』がある。平和が好き。

『小説推理』(双葉社)2026年8月号より転載