一見華やかに見える世界でも裏側は魑魅魍魎(ちみもうりょう)がうごめく恐ろしい場所、というのはショービジネスあるあるかもしれません。そしてそれは、メジャーなシーンだけでなく、アンダーグラウンド、たとえば地下アイドルにも当てはまります。むしろ地下は、杜撰な運営による過酷な実態やアイドルとファンの繋がり発覚→契約解除、といったネガティブな話題もたびたび話題になる世界。
『シン地下アイドル』は、そんな地下で活動するアイドルグループの、あるゴシップから始まる物語です。
主人公は、加護華子(かごかこ)。
ヤバそうなネタを見つけては配信し、いつかバズりたいと願う15歳の女子高生です。彼女が見つけた、気になる存在。それがとある地下アイドルでした。
彼女を知るべく、さっそくライブへと向かった加護は、そこで地下アイドルの現場を目撃。
若い男性、あるいは女性ファンもついているアイドルもいますが、加護が気になった女の子が所属するアイドルグループのファン層は、中年男性が大多数を占めている模様。初めて見るこの景色、15歳の少女には刺激が強すぎますね。ちなみにこういった接触ナシでファンとの交流を行うグループもたくさんいますし、全力で推しを応援しながら純粋にライブを楽しむ中年男性の姿は、美しいとすら感じる瞬間もあります。
ここで、加護がチェックしていたアイドルを紹介しましょう。
「ワンフェス」というアイドルグループのリーダ&銀色担当・未来未来(みらいみく)。そのファンサ(ファンサービス)ぶりや性格の良さにすっかりやられた加護は、あっという間に未来推しに。
未来にハマる加護の様子を見ていたオタクに、彼女のことをもっと知りたいならメンバーになってはどうか、と勧められます。メジャーなアイドルならあり得ませんが、そこは地下アイドル。軽い面接を経て、あっさり合格。加護は調査対象兼推しが所属するグループへと潜入することに成功しました。
しかし、ファンと相対する姿と全く異なる、楽屋での態度に衝撃を受ける加護。
そんな未来の態度を諫めつつ、楽屋の様子を音声配信して晒すメンバーに対し辛辣な言葉を投げかける未来。
アイドルに限らずですが、表舞台に立つ人たちの、舞台裏での姿というのは、結果的に目にしないほうがファンにとって幸せなケースも多々あるのではないでしょうか。ファンに見せる顔とは違う一面があるのは当然。人間だもの。裏側を見せないよう努めるのが、ステージに立つ者としてのプロフェッショナル。組織内に潜入した加護は、本来目にするハズのなかった、このようなプチ修羅場を目撃してしまったわけです。
しかし、加護は新規ファンである前に、暴露系配信者。妙な違和感を見逃しません。
ファンたちの声を拾いながら、加護はある一つのとんでもない結論にたどり着きます。
それが、未来別人説。休養前と後で、人が入れ替わっているのでは、と加護は考えます。そんなタイミングで、事務所社長の大橋が未来とホテルへ入っていく場面を目撃!
スキャンダルの臭いに、しっかり動画も回してぬかりない加護は、バズりを予感してワクワクが止まりません。しかしそんな彼女の知らぬところで、ひとつの大きな闇が顔を覗かせていたのです。
そう。やはり未来は別人だったのです。では今ここにいない本物の未来は、いったいどこに行ってしまったのか。
キュートなアイドルの思わぬ二面性が暴かれる、そんな筋書きを想定しながら読み進めた1話のラストで衝撃展開が待ち受けていました。これはゴシップのたぐいを超えた、地下アイドルサスペンス。
未来の失踪に関わっているのは誰なのか。そもそも未来は今、無事なのか。秘密を抱えているメンバーは他にもいる……?
大橋も、ただの凡庸なアイドル事務所社長ではなさそう。
自分の正体がバレかけているにもかかわらず、ちゃっかり音声録音も成功し、ワクワクが止まらない。そんな度胸と大胆な行動力を駆使して加護がたどり着く真実の先に何があるのか、目が離せません!
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(レビュアー:ほしのん)
- シン地下アイドル 1
- 著者:木村大介(漫画家)
- 発売日:2023年08月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065327395
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年8月29日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。