全国の書店員さんが、もっともおすすめの本を紹介する連載「わが店のイチオシ本」。
第57回は、福島県郡山市にある、みどり書房桑野店の文芸書担当・内藤昭二さんのご登場です。
今回、内藤さんが紹介してくださるのは、日本を代表する名酒「廣戸川(ひろとがわ)」や「一歩己(いぶき)」を誕生させた蔵人たちの青春群像に迫る『世界でいちばん熱い日本酒』です。
聞き覚えのある日本酒の銘柄が気になり、本書を手に取ったという内藤さんに、作品の魅力について綴っていただきました。
- 世界でいちばん熱い日本酒
- 著者:岡本進
- 発売日:2023年02月
- 発行所:朝日新聞出版
- 価格:1,650円(税込)
- ISBNコード:9784022518750
ネット社会の中でも忘れてはならない、人との信頼関係
出版社さんからの書籍案内で、聞いたことがある日本酒の銘柄が目につきました。気になり、読んでみると、福島の若い蔵元の熱い思いが込められた作品で、ぜひ皆さまに読んでいただきたいと思い、店頭で展開しています。
本書は、経験と勘がものを言う酒造りの世界で、大学を出たばかりの若者たちが、その道何十年という熟練の杜氏(とうじ)をも唸らせる日本酒を造ってしまう“事件”を描くノンフィクションです。それは、単なる偶然でも、まぐれ当たりでもありません。どうして彼らは、全国に名を馳せる日本酒に肩を並べ、全国新酒鑑評会でも金賞を連発する酒を造れたのでしょうか? 孤立無援の中で業界の常識を打ち破り、東日本大震災・原発事故という状況の中で、自分の目指す「酒造り」を貫く人々の物語が描かれています。
昔から受け継がれた杜氏の経験値と現代の技術革新が、ワインに引けを取らない日本酒を造り上げました。試行錯誤の繰り返しで、良きライバル・助言者など、同じ志のある仲間たちが自然と集まり、お互いが切磋琢磨して、今静かな日本酒ブームという波が起きています。
インターネットが主流となっている社会で、直接人が対面し、お互いの考えをぶつけ合い、本音で話し合うのは「泥臭い」「スマートじゃない」と言う人もいるかもしれません。でも、人との信頼関係を構築するのには、一つの事を熱く語り合うことが必要ではないかと考えます。
この作品の中に登場する蔵元たちや、それを取り巻く蔵人・杜氏・酒屋の人たちは常に現状に満足せず、向上心を持って仕事と向き合っています。その姿勢は、今の日本や企業の未来に求められていることに、通じるものがあるのではないでしょうか。
日々与えられた仕事を消化し、進化・変化・改善を余計なこと、面倒なこととして避け、波風の立たない生活を送る。そんな考え方もあるかもしれません。しかし私は、同じ時間を過ごすなら、振り返った時に納得できる自分でありたいと思っています。
この本が、少しでも日本の、読んだ方の未来を明るくすることを願っております。
◆作り手からのメッセージ◆
「斜陽産業」と言われて久しい日本酒業界ですが、この本の主人公である2人の若者は、胸を張って、まったくそう思わないこと、5年後、10年後の自分を想像すると、わくわくすると答えてくれました。この本には、新しい「モノ作り王国ニッポン」が誕生するヒントが、たくさんあります。
(朝日新聞出版 書籍編集部 斎藤順一さんより)
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