「あなして」作者の最新作!
4月クールの連続ドラマとして放送され、セックスレスというセンセーショナルなテーマで話題となった『あなたがしてくれなくても』。原作コミックスも多くの女性から「その気持ちがわかる!」と共感を呼んだ人気作です。そのハルノ晴先生が次に描くのは、ある日突然離婚を突きつけられ、ひとりで生きていくことを迫られる専業主婦が主人公の『私がひとりで生きてくなんて』。
仕事も家もない、心の拠り所さえも失った女性が自分と向き合い、世の中と向き合いながらひとりで歩き出す姿に注目です!
自分の小さな世界を守りたいだけだったのに……!?
就職活動を経験した人ならば、企業からの不採用通知である通称「お祈りメール」を受け取った数は1度や2度じゃないはず。縁がなかったと割り切ったつもりでも、お祈りが続くと「私って社会から必要とされてないのでは……!?」と落ち込んだもんです。
そんなとき、お付き合いをしている方から「地方転勤になったから専業主婦でいいので付いてきてほしい」とプロポーズをされたらどうでしょうか。「私を必要としてくれてる人がいる!」と主人公・愛菜が思ってしまう気持ちもわかります。
それから6年、愛菜はすっかり専業主婦の暮らしを「ぬるま湯」のように自分にとって心地良いものにしていました。
そんなある日、夫の宏之から突きつけられた突然の離婚。宏之に対して手を抜きすぎな愛菜の日々の生活に、「ニートを養ってるような気になった」と言われてしまいます。
崖っぷちに立たされた愛菜は、離婚を阻止すべく「ぬるま湯」から出て、仕事(バイト)に取り組みますが社会は厳しい。泣いたって誰かが助けてくれるわけでもなく、むしろ偶然知り合った税理士事務所の岸本に追い打ちをかけられる日々……。
キレッキレのストレートパンチを入れてくる描写はさすがハルノ晴先生です。リアルすぎてまるで自分がダメージを食らったような感覚になります。
ひとりで生きていく覚悟なんて、どれだけの人が持って日々を過ごしているのでしょうか。独身であろうと、結婚していようと、先のことは見ないフリして今を過ごしていませんか。今の居心地が良ければあえて抜け出そうとする人は少ないはず。むしろ今を守ろうとする愛菜の気持ちは分からなくもないのでは?
冷血な岸本の助言もあり、宏之が離婚を申し出た本当の理由を愛菜は知ることとなります。それまで何とか宏之との生活を繋ぎ止めようと行動していた愛菜ですが、その出来事を通して己がひとりで立つ覚悟を決めるのでした。
自分を変えたい人に読んで欲しい
厚生労働省『令和2年版厚生労働白書』によると、共働き世帯の割合は66.2%まで上昇しているそうです。なので実際には、愛菜のような専業主婦は少ないのかもしれません。では大半の読者は本作で「共感」を得られないのかというと、それは違います。
誰しもが自分なりの「ぬるま湯」を持っていると思いませんか。自分にとっての「ぬるま湯」な状況は何か考えてみてください。そこから強制的に出されたら不安と恐怖で足がすくんでしまいそうです。
でも私たちは、時にそのような状況のままではダメだと気づいているはず。変わりたい、1度でもそう思ったことがある人には必ず刺さる何かがある作品です。
覚悟を決めた愛菜の進む道を一緒に見届けていきましょう。
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(レビュアー:Micha)
- 私がひとりで生きてくなんて 1
- 著者:ハルノ晴
- 発売日:2023年06月
- 発行所:講談社
- 価格:748円(税込)
- ISBNコード:9784065319826
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年7月24日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。