Ⓒ「来世ではちゃんとします3」製作委員会
5人のセックスフレンド(セフレ)がいながらも「本命」にはなれない大森桃江、イケメンでセフレを複数抱える松田健、BL好き隠れ処女の高杉梅、さらにセカンド童貞の林勝やソープ嬢に真剣片思いをしている檜山トヲル――。CG制作会社「スタジオデルタ」のメンバーが織りなす恋愛や性態を描いたコメディ漫画『来世ではちゃんとします』(第1巻~第10巻、いつまちゃん、集英社)が、2020年にテレビ東京でテレビドラマ化され、2023年1月からはシーズン3に突入しました。セクシャリティやLGBTQなどの要素も描いて大きな反響を呼んだ本作品を手掛けたテレビ東京の祖父江里奈プロデューサーに、原作とドラマの魅力、そしてドラマを作るうえでの「思い」を伺いました。
【プロフィール】
祖父江里奈(そぶえ・りな)氏
テレビ東京 制作局 ドラマ室 プロデューサー
岐阜県出身、一橋大学社会学部卒。2008年入社、バラエティ番組担当を経て、2018年より制作局ドラマ室に異動。「来世ではちゃんとします」「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」「だから私はメイクする」「生きるとか死ぬとか父親とか」などを担当(すべて動画配信サービス「Paravi」ほかで配信中)。
女性が笑えるポップなセクシャル描写
――本作品を知ったのは、どのような経緯だったのでしょうか?
ⓒいつまちゃん/集英社
当時、集英社の編集担当の方が漫画の単行本を数作、私の上司宛に持ってこられたのがきっかけです。それらの作品の中から、漫画雑誌『グランドジャンプ』に連載されているこの作品が、私に向いているのではないかと上司が勧めてくれました。私も当時、女性向けコミックのドラマ化の企画書をたくさん提出していたので、上司も気にしてくれたのでしょう。実際に読んだら、これがめちゃくちゃ面白い。絶対にドラマ化したいと思って企画書を書きました。結果、「来世ではちゃんとします」が私の初プロデュース作になりました。
――本作品に魅力を感じたのはどのようなところですか?
ドラマでは内田理央さんが演じている主人公の大森桃江が、「まさに私と同じだな」と共感できたのが大きかったですね。エンターテインメントにもいろいろあると思うのですが、私の場合は描かれている物語が「自分と同じ」と共感できて、そこから元気をもらったり勇気が沸いたりするタイプの作品が好きなんです。自分自身でもそういう作品を作りたいと思っています。ただ、「自分の半径5m以内の世界」の作品ばかり作っていていいの?という気持ちもありますが(笑)。
――主人公のどの辺りに共感されたのでしょうか?
桃江のように5人のセフレと同時並行で付き合う女性は、さすがに現実にはなかなか存在しないと思います。ただ、好きな人の本命になれなくて、セカンドで甘んじて体の関係だけダラダラ続けているという人は、世の中にいっぱいいると思うんですよ。そうした経験は少なからず、私もありますし。桃江はとんでもない主人公に見えますけど、実は共感を呼ぶキャラクターではないかと思うんですね。
梅ちゃん(高杉梅)は桃江とは逆に、潔癖なキャラクターですが、こちらも共感できるところがあります。梅ちゃんのように、私もアニメ・漫画オタクで昔から同人誌なども好きでした。また、ステレオタイプの女性の価値観を押し付けられることに苦しんでいるところも共感できます。親からの「あなた結婚しなさい」攻撃など、相当数の女性が経験しているのではないでしょうか。
――逆に、主人公の桃江が付き合っている5人のセフレ(作品中はA~Eくんと呼ばれている)の中で、お好きなキャラクターはいらっしゃいますか?
基本的に全員好きなんですけれど、私の心の成長とか、その時々のコンディションによって推しが変わっていますね(笑)。コミックの連載が始まった頃はダントツAくんでした。Aくんは圧倒的にイケメンでハイスペックなので普通に考えればファーストインプレッション的に良いですね。
ただドラマの現場が始まって忙しくなると、Dくんみたいな人が好みになります(笑)。Dくんは年下で明るいキャラだけど、フリーターでお金は持っていない。でも、一緒にいるだけで元気になれるタイプの人です。仕事に疲れているときは、私は絶対にDくんが欲しいんですよ(笑)。そして最近は自分に似ているところがあるEくんがお気に入りです。
▲主人公の桃江とその彼氏となった松田君のあるシーン(シーズン3より)
Ⓒ「来世ではちゃんとします3」製作委員会
――本作をドラマ化するにあたり、どの辺が難しかったでしょうか?
セクシャルがテーマのドラマなので、セクシャルなシーンをどこまで描写するかは難しい問題でした。女性の肌色の面積が多いと、テレビや配信媒体の放送基準に引っかかってしまいます。もう一つ、このドラマの視聴者の中心は女性ですから、セクシャルなシーンをどぎつくして女性に嫌悪されてはいけません。そのラインはどのあたりだろうと、常に試行錯誤していました。
――具体的にどのように工夫されたのでしょうか?
本作品のベースはコメディですので、そこを意識しました。面白く、ポップに、可愛くするわけですね。今の世の中、女性にとってのセクシャルなコンテンツは、男性にとってのそれよりも充実していません。セクシャルなコンテンツを手に取りづらい女性は確かにいます。そういう女性の皆さんに、少しでもこのドラマを見てもらえるようにするにはどうしたらいいだろうかと考えたとき、一つの方法として「笑い」があったわけです。
例えば、桃江がAくんに着衣のままSMのように両手を背中で縛られ、口だけでオムライスを食べるシーンがあります。その行為自体は、実はめちゃくちゃエロい(笑)。でも、その描写自体は笑える表現でもあります。その意味で、このオムライスのシーンは意識してドラマに入れました。
原作者公認のオリジナルストーリーでドラマチックに
――原作にはないシーンもありますね。シーズン1では「スタジオデルタ」のメンバーが鍋を囲んでいるとき、檜山がメンバーに内緒にしていたソープ嬢の心ちゃんが偶然参加するシーンがあります。
ストーリーの流れをもっとドラマチックにしたかったんです。原作は基本4コマ漫画で、ドラマのシーズン1の制作を始めた2019~2020年当時は、原作もまだ3巻ほどで、個々の4コマ漫画の話が独立したエピソードという印象が強かった。だからシーズン1を制作する際には「本来出会うはずのない2人が、出会うはずのない場所で出会うシーン」を意識して作りました。今は原作も10巻まで話が進んできて、個々の4コマ漫画が全体のストーリーを織りなすように、ドラマチックになっていますね。
――第2シーズンで、高杉梅が結婚を申し込まれる展開も、ドラマ独自ですね。
実はこの展開は、原作者のいつまちゃん先生と相談して決めました。先生はドラマに大変協力的な方で、私も頻繁に意見を伺って相談しながらこのドラマの脚本を書いています。「このキャラクターは実はこの先こうなる予定ですので、まだ漫画では描いていないけれど、ドラマでやっていただいて構いません」とおっしゃっていただけるケースもありました。
最新のシーズン3では、梅ちゃんの前に彼女と同じオタク趣味の男性「縄文杉虎」が現れるのですが、“2人の関係”は、漫画より先にシーズン3の第10話で決着しています。そのオリジナルのストーリーは、こちらで考えて先生に提案しました。実際、先生に喜んでいただけて、嬉しかったです。漫画ではまた別の形の決着になるかもしれないのですが、ドラマには最終回がある以上、視聴者に対しては中途半端に終わらないように、何かしら決着をつけなければなりませんからね。
――ドラマの原作本を探されるときは、どのような観点で探されているのですか?
まず第一は、その作品が映像化されたものを私が見たいと思うかどうかですね。最近、個人的に「映像にしたら絶対面白い」と思っている4コマ漫画があるのですが、おそらく多くの読者は一見しただけでは映像化に結び付かない。でも、作り手にとってはイマジネーションを掻き立てられる要素がある――そんなケースがあるんですよ。こういう工夫をしたらドラマ視聴者にとっても面白いはずだ、ということですね。
例えば、以前にテレビ東京で『きょうの猫村さん』(ほしよりこ、マガジンハウス)がドラマ化されたのですが、主人公の猫を松重豊さんに演じてもらったのは「発明」とさえ思っています。
――プライベートでも、漫画はかなり読まれますか?
残念ながら、純粋な気持ちで漫画や小説を読むことができない身体になってしまいました(笑)。これは映像化できるか?という目線が常にどこかに入ってしまう。職業病を通り越して、自分が可哀想とすら思っています(笑)。
企画書を吟味するために読む漫画以外で、読んでいると言えそうなのは、Twitterで連載されているコミックですね。Twitter漫画が単行本化されるケースも増えていますよね。
「あなたは悪くない」というメッセージを大切に
――本作品の中で、個人的にお好きなエピソードはありますか?
高杉梅の同人作家仲間である「リンゴちゃん」のエピソードですね。世間に公表できないような特殊な性癖を持ってしまったリンゴちゃんは、それと折り合いをつけながらこの世の中を生きているのですが、そこが愛おしい。さらに、本作品ではそれを受け入れてくれる素敵な恋人が見つかるわけですから、輪をかけて愛おしいエピソードです。
――そういう意味では、このドラマにはLGBTQの要素もあります。実際、最近はLGBTQを扱ったドラマも多いですね。
私は大学時代にジェンダー論を学んで以降、ジェンダーやLGBTQは、私が追求している分野のひとつとなりました。LGBTQもそうですが、女性である自分がいかに健やかに生きられるか、そんな観点でドラマというものを考えています。世の中の女性はみな、幸せになってほしいんです。
――幸せになってほしい、というメッセージを込めて制作されているわけですね。
「あなたはあなたのままでいい」とか「あなたは悪くない」というメッセージを、私はずっと大切にしています。女性って、「こんなものが好きな私はふしだらな女じゃないだろうか」などとやましい気持ちになるときがあるんですよ。でも大丈夫だよ、そんなことないよ、あなただけじゃないよ――と女性に言ってあげるドラマを私は作りたいんです。
そして、私のドラマを見た人には元気になってほしい。ドラマに対してさまざまな意見もありますが、なにより当事者の人たちが救われることが大事だと思っています。ですから、当事者ではないアンチの意見は気にしないようにしています。
――今はネットに対応したドラマもたくさん作らないといけないので、いろいろな意見が届きやすくなっていますね。
Twitterの「いいね」の数を、ドラマ制作者は意識しすぎているかもしれませんね。何かしら判断する基準がないといけないとは思いますが。
ネットで再生数を稼いでいるものはアダルト要素があるものも少なくなく、それでいいのかなという感覚はありますね。かつて私が死ぬほど嫌いだった視聴率競争と同じことが、配信の世界でも起こったら嫌だなと思います。もしかしたら視聴率競争より残酷なことが起こるのかもしれません。
――検索数や「いいね」の数などに捕らわれすぎてはいけないということですね。
その意味では、もうしばらくドラマ作りに関しては、「自分が見たいものを作る」という基準でよいのではないかと思うんですよね。私が年齢を重ねたとき、その私と同世代の人たちが見たいものを作っていけばいいのではないかと。変に若者に迎合する作り方は、私にはできませんし。
もちろんZ世代は意識します。これから先、ドラマを見てくれるのは彼らですからね。ただ、Z世代の流行をそのまま取り入れればいいわけではないと考えています。世代を問わず普遍的に求められるもの、心揺さぶられるものがあるはずです。だから、若い世代にとっても、私たちの世代にとっても、面白いドラマはできると思うんですよ。
――祖父江さんにとって、今「自分が見たい」と思えるテーマはありますか?
自分にとって恋愛や結婚といったテーマは、落ち着いてきた感がありますね。関心が高いのは、むしろ終活や介護の話です。自分はまだアラフォーですが、女性は男性より意識するのが早いんですよ。更年期を迎えるのも早いじゃないですか。女性は人生のライフプランを先取りして考えていくんですね。だから面白いテーマになるはず。もちろん、ドラマにするときはハッピーな老後の話がいいですね。自分が歳をとっていくことと向き合うことを、明るく楽しくポップに表現できないかとずっと思っています。
2021年にジェーン・スーさんの原作『生きるとか死ぬとか父親とか』をドラマ化したのですが、このときも40代女性の「あるある」エピソードをオリジナルで織り込んで作りました。こういうドラマをもっと作りたいですね。
――ありがとうございました。