人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

  1. HOME
  2. 本屋を楽しむ
  3. 本屋のあれこれ
  4. 「死にゆく人間が一番生命力に溢れている」劇作家・芥川賞作家の本谷有希子の人生を変えた本とは?「#木曜日は本曜日」プロジェクト第16弾

「死にゆく人間が一番生命力に溢れている」劇作家・芥川賞作家の本谷有希子の人生を変えた本とは?「#木曜日は本曜日」プロジェクト第16弾

「#木曜日は本曜日」プロジェクト

2022年10月に始動した、週に1回本屋へ足を運ぶ習慣づくりを目指すプロジェクト「#木曜日は本曜日」(主催:東京都書店商業組合)。毎週木曜日に本屋と本を愛する著名人やインフルエンサー、作家などの十数人が、「人生を変えた本」をテーマに実際に本屋で語るインタビュー動画を公開するとともに、彼らが選んだ人生を変えた本10冊を東京都内の約180店舗で販売するという試みです。

第1弾となる俳優・歌手の上白石萌音さんから、第15弾の放送作家・鈴木おさむさんが紹介する人生を変えた本については、特設サイトおよび東京都書店商業組合公式YouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」にて動画を公開中です。

1月26日(木)からの第16弾は、劇作家・小説家の本谷有希子さんが担当します。

本谷有希子さんプロフィール
劇作家・小説家。2000年「劇団、本谷有希子」を旗揚げし、主宰として作・演出を手がける。
2006年上演の戯曲「遭難、」で第10回鶴屋南北戯曲賞を、2008年上演の戯曲「幸せ最高ありがとうマジで!」で第53回岸田國士戯曲賞受賞。
小説では2011年に『ぬるい毒』で第33回野間文芸新人賞、2014年に『自分を好きになる方法』で第27回三島由紀夫賞、2016年に『異類婚姻譚』で第154回芥川龍之介賞を受賞。その他の著書に『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』『あの子の考えることは変』『生きてるだけで、愛。』『静かに、ねぇ、静かに』『あなたにオススメの』など多数。



 

 

本谷有希子さんの人生を変えた10冊

「劇団、本谷有希子」の主宰であり、小説『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞するなど、幅広く活躍する本谷有希子さん。そんな本谷さんの「人生を変えた10冊」の中から、選書コメント(動画より抜粋)とともに3冊を紹介します。本棚のデザインをあしらった限定しおり(写真)も開催書店で配布しています。
※全10冊および書棚設置&オリジナルしおり配布店舗は「#木曜日は本曜日」特設サイトをご覧ください。

 

『母の発達』(笙野頼子)

母の発達
著者:笙野頼子
発売日:1999年05月
発行所:河出書房新社
価格:660円(税込)
ISBNコード:9784309405773

娘の怨念によって殺されたお母さんは〈新種の母〉として、解体しながら、発達した。五十音の母として。空前絶後の着想で抱腹絶倒の世界をつくる、芥川賞作家の話題の超力作長篇小説。

(河出書房新社公式サイト『母の発達』より)

選書コメント:母がテーマにされた本は苦手で、普段は手に取らないのですが、この本はそういうイメージを根底から覆す、めちゃくちゃな本です。例えば、「母の縮小」という1話から始まるんですけど、「縮む前は世の中を怨み私を責めてばかりいたはずなのだが、縮んでからは急に超能力を発揮し始めたり、活発になったりして、性格もトリックスターのようで、むしろ楽しそうだった。名前も律子からチャーリーに変わっていた」と、もうよくわからないんですよ(笑)。本当にチャーリーに変わっているわけではなく、娘が現実直視できなくて自分の中で母をそういう風に縮小させていくということなのですが、誰も描いたことのないような描き方で圧倒的に描き切った作品です。

 

『楢山節考』(深沢七郎)

楢山節考 改版
著者:深沢七郎
発売日:2010年12月
発行所:新潮社
価格:649円(税込)
ISBNコード:9784101136011

「お姥(んば)捨てるか裏山へ 裏じゃ蟹でも這って来る」雪の楢山へ欣然と死に赴く老母おりんを、孝行息子辰平は胸のはりさける思いで背板に乗せて捨てにゆく。残酷であってもそれは貧しい部落の掟なのだ――因習に閉ざされた棄老伝説を、近代的な小説にまで昇華させた「楢山節考」。ほかに「月のアペニン山」「東京のプリンスたち」「白鳥の死」の3編を収める。

(新潮社公式サイト『楢山節考』より)

選書コメント:勝手なイメージで、親子愛について書かれた、じめっとした感傷的な物語だと思っていたんです。泣かせに来るのかなっていう。でも読んでみると、「おりん」という人の描かれ方が異質というか潔すぎて。(自分が)捨てられに行く時に座る下にひく“むしろ”を3年ぐらい前から準備していて、捨てられに行くことに対してめちゃくちゃノリノリなんです(笑)。死にゆく人間が一番生命力に溢れているんですよ。私自身も、感傷的なものをなるべく寄せ付けない人間でありたいので、このおりんさんから人生というか、人格に影響を受けたなと思います。

 

『愛』(ウラジーミル・ソローキン、訳:亀山郁夫)

著者:ウラジーミル・ソローキン 亀山郁夫
発売日:1999年01月
発行所:国書刊行会
価格:2,750円(税込)
ISBNコード:9784336039606

唐突に開始される殺戮、あまりにもグロテスクな描写、簡単に切り離される身体……。「現代ロシア文学のモンスター」と異名をとる過激な作家が、日常と狂気の境界を破壊して造形する乾いた「愛」のかたち。

(国書刊行会公式サイト『愛』より)

選書コメント:ウラジーミル・ソローキンさんは「ゲテモノ作家」や「天才」とか、「アーティスト」「変態」「怪物」「キワモノ」など、たくさんの異名を持っている作家で、『愛』は17篇からなる短編集です。この17篇が、どれ1つとってもまともじゃない。どれも正気の沙汰じゃないんです。「可能性」という短編があるんですけど、男が「人間とはいったい何ができるんだろうか?」という深い問いから始まって読んでいくと、後半はおしっこのことしか書かれていないんですよ。「おしっこを柔らかくする」「おしっこを甘ったるくする」など、延々とおしっこのことしか書かれていなかったりして。ソローキンが真剣に書いているのか、ふざけて書いているのか全くわからないんですよね。おそらく、頭が良すぎて狂人になった人で、普通の感覚の人間からしたら理解できないんですよ。だから、小説ってこういうものだよね、こういう風に書かれているよねと思いながら読み進んでいくと、いつの間にか自分がこれまで信じてきたことや価値観が全く通用しない場所に放置されて、ただただ呆然とするしかなくなります。

 

動画の紹介

 

プロジェクトの背景

近年、電子書籍の台頭・書籍のネット購入率の増加などを受け全国の本屋の数が激減しています。2000年には21,495店舗存在した本屋が2020年には11,024店舗(出版科学研究所調べ)と約半数にまで落ち込み、東京都にある中小書店(街の本屋)を中心に組織する東京都書店商業組合の加盟店舗数もまた、2022年1月時点で287店とピークだった1984年の1,426店から8割程度減少しています。

こうした苦境を受け同組合では、お客様の忙しい日々の中でゆっくり本と向き合う時間として、週の真ん中に位置する“木曜日”に目を向け、週に1回本屋へ足を運ぶ習慣づくりを目指して「#木曜日は本曜日」プロジェクトを開始しました。

同プロジェクトは東京都中小企業団体中央会の特別支援「デジタル技術活用による業界活性化プロジェクト」として、同中央会より委託を受け、東京都書店商業組合が運営しています。

 

〉〉〉「#木曜日は本曜日」関連ほんのひきだし記事はこちら

〉〉〉「#木曜日は本曜日」特設サイトはこちら