トンネルを抜けた先の「呪いのビデオ」
「のどかな田舎」は今でも実在するが、365日24時間ずっとのどかなのかといえば、実はそんなでもない気がしている。特に夜はおそろしく無音になり、それなのに正体不明の音が家のどこかからふいに聞こえたりする。

のどかなハズが急に怖くなったり、昼間と真夜中の境目がなんだか曖昧に思えたり、人間の濃度が低くなったり妙に高くなったり、とにかくいろいろと揺らいでいる。『とりまとります』は、揺らぎの緩急が非常に巧みで美しいマンガだ。オカルトであり、痛快なジュブナイルであり、さらに他にも秘密がたくさん隠されていそうで胸が騒ぐ。
“牧野ジュン”は、のどかな田舎の三栗村(めぐりむら)に越してきた痩せっぽっちの女の子。ジュンのお父さんはお医者さんで、三栗村に残っていた古い診療所を引き継ぎ、開業するらしい。

長くて暗いトンネルを抜けた先に広がっていたのは美しい里山だった。セミがいっぱいいて、清らかな沢があって、村の人は「何もない」なんて言うけれど、こんな土地で夏休みを過ごせたら最高だ。さあ、お父さんと“ポチ王(名の由来がたいへんすばらしいワンワン)”と一緒に、ノンビリ新生活を楽しむぞ~となるハズだったのだが……。

ヒマをもてあましていたジュンは、前の住人が残していった古いビデオテープを見つけてしまう。ああもう絶対怖いやつだよそれ! 悪いことは言わないから、触らないほうがいいよ……なーんていう90年代ホラーブームで散々怖い目に遭った私の声もむなしく、ジュンはビデオを見てしまい、怪異が始まる。まあ、夏休みだし、そりゃ見ちゃうよね。
「君達は呪いのビデオの中にいる」
そのビデオテープがどうして診療所に残されていたのかはよくわからない。
なにしろ診療所には古めかしいビーカーや薬品まで残されたままで、まるで持ち主だけが急に消えてしまったような奇妙な場所なのだ。探検しがいがある。
ジュンはモリモリと探索し、ビデオテープと一緒に古いカメラも発見する。

オトナなら、もしかしたらここで「気味が悪いな」と思うかもしれないが、なにせジュンは恐れを知らぬ元気いっぱいの小学生。健やかにオカルトの世界へ突入していく。
ついさっきまで家にはお父さんもいたはずなのに、ジュンがビデオを再生してから家の様子がちょっとおかしい。

誰だろうねえ……。
で、案の定、むちゃくちゃ怖いものがジュンの目の前に現れる。本作は怖い描写はガッツリ怖い。しかもヌルッといきなり怖くなる。すばらしい。
もうひとつ、本作にはすばらしい魅力がある。ジュンたちは恐れを知らぬ小学生であるという点だ。

私だったら泡を吹いてぶっ倒れるような場面でもこの調子。三栗村で仲良くなった友達・一富士仁貴(いちふじにたか、こういう不気味なシチュエーションで非常に心強い名前だ)と共に元気よくオカルト大冒険に巻き込まれていく。

2人は呪いのビデオの中に迷い込んでしまったのだという。だからお父さんもいないし、村の様子もちょっと変だったのか。
その不思議な世界では、ジュンが診療所で見つけた古いカメラが言葉をしゃべり、ジュンと一富士のよき仲間(?)となる。

呪いのビデオからあふれた怪異を再び封じ込めるには、とりあえず撮影すればいいらしい。
こうして怪異と小学生2名の追いかけっこが始まる。知恵と勇気とで大捕物を繰り広げ、いよいよカメラを向けるが……?

はたしてちゃんと撮れるだろうか。
毎話、ジュンと一富士はさまざまな怪異に見舞われる。

呪いのビデオは無数にあるのだ。「何もない」なんて大嘘じゃないか~と思うくらい、夏休みの三栗村には不気味な事件や不思議なことがいっぱい待っている。
そして怪異に包まれるのはジュンや一富士だけではなく、実は私のような大人たちのすぐ後ろにも、何かがじっと控えていたりする気がしてならない。「あれ?」と気になるサインがたくさんちりばめられているのだ。かすかに聞こえるラジオの音声や村の風景、そしてお父さんのちょっとした動き……ぜひ注意深く観察して、何度も読んで、「気配」を見つけてほしい。
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(レビュアー:花森リド)
- とりまとります 1
- 著者:TNSK
- 発売日:2026年03月
- 発行所:講談社
- 価格:869円(税込)
- ISBNコード:9784065423202
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※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2026年4月2日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。

