ロンホワンと水鳥川亜沙美。殺し屋コンビが、法で裁けなかった悪党を始末する。柴田哲孝の連作短篇集は、現代の東京を舞台にした、ハードな物語だ。
本書『殺し屋商会』は、「小説推理」に掲載された4話に、書き下ろしの完結篇を加えた文庫オリジナル連作集だ。ハードボイルド・冒険小説・警察小説を中心に、ハードな物語を書き続けてきた柴田哲孝ならではの内容が堪能できる。そこが本書の読みどころだろう。
主人公は、ロンホワンと水鳥川亜沙美の殺し屋コンビだ。ロンホワンが実行役。主にS&W・M36リボルバーを使用して殺しを行う。亜沙美は、依頼人との折衝や、下調べなど、殺人以外の諸々を引き受けている。2人は恋人関係にあるが、亜沙美は仕事のために体を使うことも厭わない。ロンホワンも黙認している。
第1話のターゲットは、車の事故で母娘を殺してしまった、高齢の元エリート官僚だ。依頼人は死んだ母娘の父親。事故の後、妻が自殺してしまい、ひとりぼっちになった。彼が許せないのは事故そのものよりも、元エリート官僚が、自分の罪を認めないことであった。だから「殺し屋商会 復讐代行相談所」という、うさん臭い名刺を差し出した亜沙美を疑いながらも、殺人を依頼したのである。
という粗筋を見れば分かるように、物語は実在の事故をモデルにしている。事故の加害者に対する警察や司法の態度が、まるで“上級国民”に忖度しているように思え、なんともいえない気持ちになった人も多いだろう。だからロンホワンの殺しに、すっきりしてしまうのだ。
続く第2話は、恋人の俳優に裏切られ、追い詰められた歌手が自殺。歌手の両親から、亜沙美が依頼を受ける。歌手の母親から亜沙美が貰った、バーキンのハンドバッグの扱いが巧み。これによりストーリーの味わいが深まっている。
第3話のターゲットは、自分の子供を愛人と一緒になって虐待死させた母親だ。依頼人の意外な正体にはビックリした。第4話は、闇AVの現場から逃げ出した女性が依頼人となる。現実を無視したAV新法の問題点や、依頼人のしたたかな立ち回りなど、注目すべきポイントは多い。なお、第3話から第5話のタイトルは、萩原健一と水谷豊主演の探偵ドラマ『傷だらけの天使』のサブタイトルを意識したものだろう。
ところで本書は、2015年の長篇『クズリ』の続篇である。ラストの第5話で、そのことが明確に示される。また『クズリ』のキャラクターたちと会えるとは、嬉しい驚きであった。
殺し屋商会
著者:柴田哲孝
発売日:2023年5月
発行所:双葉社
価格:715円(税込)
ISBN:9784575526615
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『殺し屋商会』の試し読みが公開されています。
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『小説推理』(双葉社)2023年7月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載