鬼太郎の生みの親“水木サン”が人生の杖とした、痛快無類な「ゲーテ的な生き方」とは?
この本は、何と言っても、そのタイトルが抜群に素晴らしい。
現代日本において、「ゲゲゲの」と言われたら、まず百人中九十九人の日本人は、大きな声で「鬼太郎!」と答えることだろう。
残りの若干名は「……女房」と、小さな声で答えるかも知れないが、そうした少数意見は、圧倒的多数の「鬼太郎」ファンの大合唱の前にかき消されそうである。
それくらい「ゲゲゲ」という言葉は、いまや「鬼太郎」を指す代名詞として、広く普及していると言っても過言ではない。
そこへ、いきなり「ゲーテ」と来た。「ゲゲゲのゲーテ」……これは、たんなる言葉遊びや語呂合わせの類ではない。真面目もマジメ、大真面目なのだ!
「鬼太郎」の生みの親である漫画家の水木しげるは、軍靴の響きが日に日に高まる昭和戦前期、いつ「赤紙」が自分のもとに届いて、兵役に召集されてもおかしくないという極限状況にあって、刻々と迫りくる「死」の恐怖に怯えながら、それを必死で克服するべく、数多くの書物(おもに哲学書や宗教書)を読みふけった。
その際、いちばん感銘を受け、共感を覚えたのが、ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテだった、というのだ。とりわけゲーテの秘書・エッカーマンが書き残した『ゲーテとの対話』の岩波文庫版を、暗唱出来るくらい愛読したと言い、雑嚢に入れて戦地にも持って行ったという。
大文豪ゲーテの言葉は、戦後、餓死寸前の「売れない貸本漫画家」だった水木にとって、「生きる指針」「人生の指南書」となってゆく。ゲーテの言葉を紙に書き写しては、仕事場の壁にペタペタ貼りまくっていたと、妻の武良布枝は証言している。
水木が携帯した文庫本の現物(読み古されてボロボロ……)は、鳥取県境港の水木しげる記念館に、いまも収蔵されている。
本書は、若き日の水木が熟読して傍線を引きまくった『ゲーテとの対話』のハイライト部分九十三編と、それらをめぐる水木自身の絶妙にしてユーモアあふれるコメントを中心に構成されており、要所に、著者や御夫妻のインタビュー、それに復員後、生き方に悩む御母堂に宛てた水木の貴重な書簡(抜粋)、ゲーテからの影響が歴然な短編自作漫画「剣豪とぼたもち」などが収録されている。
要するに本書を一読すれば、ドイツが生んだ大文豪にして「知の巨人」たるゲーテと、戦後日本が生んだ不世出の漫画家・水木しげるという両天才の真髄が、たちどころに会得できる仕組みなのだ!
「水木サン(自称)の80%はゲーテ的な生き方」「ゲーテはひとまわり人間が大きいから、読んでいると自然に自分も大きくなった気がする」「99%は馬鹿だから、話せる人間は100人に1人」等々、痛快無類な水木ブシを堪能できること請け合いの好著!
- ゲゲゲのゲーテ
- 著者:水木しげる
- 発売日:2025年11月
- 発行所:双葉社
- 価格:748円(税込)
- ISBNコード:9784575715194
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」2025年11月12日公開記事より転載

