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名コンビ爆誕!元犯罪者の捜査官×天才呪文クリエイターがトラブル解決!『おかけになった呪文は現在使われておりません』

物語の面白さを形作るものといえば、魅力的なキャラクターや、引き込まれるストーリーが思い浮かびます。これらに加えて、もう一つ、特に本作において重要な要素となるのが、世界観。いわゆる舞台設定というやつです。

本作は、2020年という西暦下にある現代日本が舞台。ただひとつ、私たちが暮らす現実と異なるのが、呪文の存在です。当たり前に呪文が使用されるこの世界にて、危険な呪文を探して封印する公的機関が、総務省スペル・セキュリティ統括室。この組織に所属する瀬川良星(せがわりょうせい)三等捜査官が、本作の主人公です。

 

「呪文サブスク」という設定の妙

呪文や魔法が存在する現代社会、いわゆるローファンタジーと呼ばれる設定はそこまで珍しいものではありません。そんななかで本作ならではと言えるのが、「呪文のサブスク化」です。音楽や映像コンテンツをはじめ、今や多くの人が当たり前に利用しているサブスクリプションサービス、通称「サブスク」。月額制や年額制などで商品やサービスを一定期間定額利用できるこのシステムにおいて、「呪文」も対象となっているという設定には俄然興味が湧いてきます。

この世界における呪文は、特殊な才能を持っていたり、修練を積んだりした魔法使いや呪術師による特殊な詠唱ではなく、スマホを使い、電話を掛ける要領で呪文申請すれば発動されるという、とても手軽なもの。

PCのデスクトップにあるファイルを送信する呪文や専用の高速道路を利用するための呪文など、仕事や生活に密着した内容も多く、定額制でのサービス提供にも納得です。

呪文が当たり前のように生活に馴染んだ、そんな世界で巻き起こる呪文関連の様々な犯罪を捜査するのが、総務省スペル・セキュリティ統括室の瀬川なのです。

 

名コンビ爆誕! 元犯罪者の捜査官と天才呪文クリエイター

本作では、瀬川に加えてもう一人、主役と言ってもいいキャラクターが登場します。それが、生天目潤見(なばためうるみ)という名の少女。ふたりが出会ったのは、とある呪文トラブルが発生した、千葉県某所。この問題のせいで廃村になってしまったという、その元凶となった呪文とは、なんと「婚活の呪文」。

ちなみに、喋っている謎のコートは瀬川の上司であるアベさんの使い魔です。

男女を捕獲し監禁する強制マッチング呪文「ザ・ハッピーエンド」。これと連動する完全自律稼働の使い魔に追われていた潤見を、瀬川が助けたことでふたりは出会います。

この出会いにおいて、ふたつの大きな事実が明かされます。ひとつは、この婚活呪文「ザ・ハッピーエンド」を作成したのが潤見だということ。

彼女は、本来の趣旨から外れて暴走しているこの呪文を回収するために現地へとやってきたのでした。そしてもうひとつの事実は、瀬川の過去です。呪文の発生源である村役場へ行きたいが、そこは自律稼働の使い魔たちが守っている、という話の中でそれは明かされます。

瀬川は元テロリスト――。彼はなぜテロ活動をしていたのか、そしてどういう経緯で捜査官に転身したのか。この件に関わっているらしい謎の上司アベの存在も気になるところ。

いざ役場へと突入したふたりは、今回の件の首謀者である国際的呪文テロ組織「まひとの家」の使い魔と対峙。「まひとの家」は瀬川たちが追い続けていた捜査対象であり、これが初めての交戦。軍用呪文を駆使する手ごわい相手にダメージを負いつつも、潤見との見事な連携によってこれを駆逐します。

潤見の父である生天目萬月(なばためまんげつ)が、かつて「まひとの家」の一員であったことも明かされ、今回の事件が、娘の潤見をおびき寄せるために組織が仕組んだことも発覚。組織のことを調べている瀬川は、捜査協力として潤見に東京まで来てほしいと告げます。

第1話のラスト、スマホで電話を掛けるように呪文申請する「呪文サブスク」システムだからこその、綺麗なタイトル回収。こうしてプロローグが終わり、ここから物語は大きく動いていくのです。

 

ユニークな呪文の数々にも注目

本作には、冒頭で紹介したファイル送信や高速利用、そして事件となった「婚活呪文」以外にも、様々なユニーク呪文が登場します。たとえば、こちら。

これは意外と便利かもしれない……。家のどこかにあるはずの探し物を、名前で検索かけて見つけられる、そんな呪文を作ってはくれませんか、潤見さん……!

呪文の名称が示すその効果や意義にピンとこないとき、「……なんて?」と聞き返すのは瀬川の癖。1巻の時点ですでに複数回登場するこのセリフ。微妙な呪文が出てくるたびに、瀬川の「……なんて?」待ちな自分がいました笑。ユニークな研究を表彰するイグ・ノーベル賞を思い浮かべてしまうような、独特の呪文たち。「婚活呪文」と「リモコン呪文」のどちらも潤見が作成者です。さすがは凄腕呪文クリエイター。

テロリストという過去をもつ、魔術捜査官・瀬川。若くして数々の呪文を作り出す天才・潤見。ふたりは「まひとの家」との初戦に勝利したものの、これは長い戦いの始まりに過ぎません。テロリストだった瀬川を救った上司・アベとはどんな人物なのか? 潤見の父・萬月と「まひとの家」との関わりとは? 瀬川の過去には何があったのか? 潤見は他にどんな楽しい(?)呪文を生み出しているのか?

様々な謎とアイデアに満ちていて、「こんな呪文あったらいいな」なんて想像も膨らみながら、続きが早く読みたい!と思わせてくれる作品です。

 

(レビュアー:ほしのん)

おかけになった呪文は現在使われておりません 1
著者:天宮ケイリ ロケット商会
発売日:2025年11月
発行所:講談社
価格:792円(税込)
ISBNコード:9784065412718

※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年12月19日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。