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  • 稲盛和夫著『心。』は意外にも45%が女性読者 “売れ方”をデータから読み解く

    2019年08月22日
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    古幡瑞穂(日販 マーケティング部)
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    経営者・政治家のインタビューを読むと、しばしば「尊敬する人」「目標にする人」として稲盛和夫の名が挙がっているのを目にします。稲盛和夫にはさまざま著作がありますが、なかでも『生き方』は、ビジネスパーソンだけでなく幅広い人に手に取られ、大ベストセラーとなりました。

    6月に発売された『心。』は、そんな『生き方』の続編。今回は、発売直後から話題になった、この『心。』を見ていきます。

    心。
    著者:稲盛和夫
    発売日:2019年06月
    発行所:サンマーク出版
    価格:1,870円(税込)
    ISBNコード:9784763132437

     

    発売前の告知で当日から売れ行き好調、JR広告ジャックで抜群の効果

    まずは、発売以降の売れ方から。

    発売前の6月上旬から告知が新聞広告として掲載されていたこともあり、書店店頭に並ぶと同時にハイペースで売れています。

    日経新聞6月29日(土)発行号の広告を皮切りに売上のペースが上がり、さらにその後新聞各紙に順次広告が掲載され、週末のたびに大きな山ができました。

    最も売れ行きがよかったのは、7月末頃から。首都圏でJRに乗った方はご覧になったと思いますが、この期間はサンマーク出版が広告ジャックをしていました。その結果、それ以前と比べて2倍程度の売れ行きとなっています(首都圏だけでこの影響が出ているところが、なんともすごい話です)。

    続いて、購買層を見てみましょう。

    『生き方』がベストセラーになっていることなどから、女性読者も一定数いるだろうとは思っていましたが、蓋を開けてみると「45%以上が女性読者」という、想像以上の比率となっていました。

    世代別に見ると、50代が最多。定年後世代にもよく手に取られているようです。

     

    『心。』の読者は、どんな本を読んでいる?

    この読者層は、ほかにどんな本を読んできたのでしょうか? 『心。』の購入者が過去1年に購入した上位10作がこちらです。

    すでによく売れている本ということもあって、上位にはベストセラーが多く並びました。集計期間内に発売された稲盛和夫の著作『誰にも負けない努力』『稲盛和夫 魂の言葉108』も上位にランクインしており、そのほか丹羽宇一郎の本もよく読まれています(どちらも人間性や心といった哲学的なテーマを扱っていることが関係しているのでしょうか)。

    今年4月には評伝『思い邪なし ―京セラ創業者 稲盛和夫』が出版されましたが、こちらは売れ行きはよいものの、トップ10には入っていません。著者が本人ではなかったこと、稲盛和夫の名前が副題になっていることなどが要因でしょうか。とはいえ、『心。』が売れている今がチャンスです。

    また、こちらもランク外となりましたが、雑誌「プレジデント」7/5号もよく売れています。

    特集は「稲盛和夫が教えてくれた『人間の器』の広げ方」。『心。』発売直前に発行されたこともあり、併売した書店も多かったのではないでしょうか。

    それでは最後に『心。』読者の最近の購読本から、気になる作品を紹介します。

    ジャニーズは努力が9割
    著者:霜田明寛
    発売日:2019年08月
    発行所:新潮社
    価格:924円(税込)
    ISBNコード:9784106108242

    16人のジャニーズアイドルは、どんな努力をして今の座を勝ち取ってきたのか。“日本一のエンタメ集団”の裏側に迫る人気連載が本にまとまりました。

    テレビや雑誌では決して見えてこない彼らの死にもの狂いの努力とは。何に苦労し、どうそれを乗り越えたのか。

    ジャニー喜多川社長の人材育成術も垣間見える、ヒントが盛りだくさんの一冊です!

    「人を動かす人」になれ!
    著者:永守重信
    発売日:2019年07月
    発行所:三笠書房
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784837927907

    最近「ビジネス書の名著の新装版」がちょっとした話題です。不朽の名作といわれる『道をひらく』は、有隣堂や啓文社といった書店で限定カバーがかけられて販売され、ジャケ買いが増えているとのこと。ハローキティバージョンなんていうものも発売されています。

    名言の輝きは鈍ることなく、売り手の工夫によって読み手を拡げています。『「人を動かす人」になれ!』も、20年以上前の本。新版として発売され、新たな読者の手に届いています。

    昭和天皇の声
    著者:中路啓太
    発売日:2019年08月
    発行所:文藝春秋
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784163910710

    毎年この時期は、戦争について考える本や、昭和史回顧の本の刊行が増える傾向にあります。

    こちらは「昭和史小説」。時代小説の書き手として注目されていた作家が、近現代史に取り組んだ一冊です。国民の声を昭和天皇はどう聞いていたのか。昭和という激動の時代を、天皇の姿を通じて描いた短編集となっています。

    老いる自分をゆるしてあげる。
    著者:上大岡トメ
    発売日:2019年07月
    発行所:幻冬舎
    価格:1,320円(税込)
    ISBNコード:9784344034808

    著者は、あのミリオンセラー『キッパリ!』で一大ムーブメントを作ったイラストレーター、上大岡トメ。

    その後、さまざまな人生のチャレンジを書籍で発表してきましたが、こちらの本は、50歳を超え「自分のカラダの老化に真っ正面に向き合い、いろいろ考えた」という内容です。

    健康に気をつけて生きてきたなかで、直面した老化。「ヒトの寿命は50歳までしか設定されていない」という説もあるそうですが、まだはっきりしない老化のメカニズムや体の変化を、トメさんは興味深く眺めていきます。体が疲れているなと感じた時に手に取ってみるのもおすすめ。

    本業転換
    著者:山田英夫 手嶋友希
    発売日:2019年07月
    発行所:KADOKAWA
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784046041937

    出版業界も、まさに「本業喪失」の可能性がある業界。その業界で働く者として気になることは多いのですが、同じ業界にいるとはいえ、生き残るかどうかは経営判断と戦略しだい。同業者の成功・失敗をわけた分水嶺がどこにあったのかを、比較しつつ読み解きます。

    本書で取り上げられているのは、「富士フイルムホールディングス vs. イーストマン・コダック」「ブラザー工業 vs. シルバー精工」「日清紡ホールディングス vs. カネボウ」「JVCケンウッド vs. 山水電気」など。

    樹木希林の名言ブームがまだまだ終わりを見せないなか、箴言を集めた本、メッセージを集めた本の人気が続いています。この『心。』が女性にも広く読まれているのは、ビジネスの枠を超えた「生き方指南」ともいえるからなのかもしれません。

    今回の各種データからは、名経営者の経営学は、宗教や哲学と通じるものが多く、またそういった本とあわせて読まれることが多いという印象を強く持ちました。働き方改革が進み、人材確保が大きな経営課題となるにつれ、人付き合いや会社の環境作り、働くことの本質に迫る本の需要は、ますます拡大していくかもしれません。

    そういう意味では、発売直後でまだデータが十分ないため本編では紹介できませんでしたが、出口治明の著書『哲学と宗教全史』は必読書だと思います。

    哲学と宗教全史
    著者:出口治明
    発売日:2019年08月
    発行所:ダイヤモンド社
    価格:2,640円(税込)
    ISBNコード:9784478101872

    ※記事内の売上推移は「日販 オープンネットワークWIN調べ」、購入者クラスタ分析および併読本に関する調査はすべて「日販 WIN+調べ」です。
    ※「HONZ」で2019年8月15日に公開された記事に、一部編集を加えています。




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