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梅雨明けが待たれるなか、早くも書店店頭では“夏商戦”が始まりました。
その代名詞ともいえるのが「夏の文庫フェア」。今回はKADOKAWA、集英社、新潮社によるフェアの傾向を見ていきます。
※対象作品のうち、文庫フェアのセットとして送品されたものを抽出して分析しています。
そもそも、「夏の文庫フェア」の商品はいつ売れているのでしょうか? 昨年の実績をもとに、3社のフェア対象商品の期間内売上をグラフにしてみました。
※日販POS調べ(集計期間:2018年6月15日~8月31日)
※(青)KADOKAWA、(赤)集英社、(緑)新潮社。折れ線グラフは、売上の「新刊比率」を表しています。
3社同時期に開催されている印象があるかもしれませんが、もっとも早くスタートするのは角川文庫の「カドフェス」です。その後、集英社文庫の「ナツイチ」、「新潮文庫の100冊」と続き、6月末にすべてが出揃います。
「夏の100冊」(夏100)と呼ばれることが多いので、7月末~8月の“夏休みシーズン”に売れるのかと思いきや、実はもっとも売上が大きいのは「7月1週目の週末」。昨年のこのタイミングでは『ユートピア』『過ぎ去りし王国の城』など、6月発売の新刊が大きく跳ねています。
その後夏休みに入ると、平日と土日の売上差が小さくなり、お盆期間にはその差がほとんどなくなります。そして8月末でフェア期間が終了し、その後は年末に向け「日記・手帳」へと売り場が替わっていく、というのが例年のスケジュールです。
それでは続いて、フェア期間中に、対象作品ではどんなものが売れていたのかを見てみましょう。
昨年の売上上位20タイトルは以下のとおり。新刊と、期間内に映像作品が公開されたタイトルに印を付けています。
※2018年6月15日~8月31日の実績を集計
先ほどのグラフの新刊比率からもわかるように、各社ともフェアにあわせて大型新刊が刊行される傾向が強く、そのためトップ3には各社イチオシのビッグタイトルが並んでいます。なお、文庫フェア対象商品のうち新刊が占める割合は7.2%ですが、売上への影響は大きく、6月期の対象商品売上における新刊比率は40%を超えています。
また第4位の『ペンギン・ハイウェイ』など、映画公開のタイミングがフェアの時期に重なっていることで、大きく売り伸ばした商品も多いです。
「夏の文庫フェア」というと“古典名作を売る”というイメージもありますが、上位にランクインしたのは『星の王子さま』のみ。古典に絞って売上を見てみると『人間失格』『こころ』などがこれに続きますが、いずれもランク外となりました。
もう一つ気になるのが、フェア売り場を実際に作っている書店からの声です。
ここ近年、「フェア規模が大きく、売り場づくりに苦戦している」という声が聞かれます。実態を紐解くために、フェア対象商品をもう少し分解してみましょう。
次の図は、フェア対象タイトルを「初回送品分の売上率」と「返品率」の2軸で4象限に分類したものです。それぞれ8月末まで、9月末までの実績を集計し、初回送品売上率は60%、返品率は32%を境界にしました。
この図から「夏の文庫フェア」の課題と、それぞれのプレイヤーが取り組むべきテーマが見えてきます。
【A】は初回送品売上率が高く、返品率も低かった商品群。フェアを牽引したタイトルです。点数シェアは22.7%と控えめながら、売上はフェア全体の半分以上を占めています。書店店頭においては、8月下旬以降はこの商品群に照準を合わせて、常設売り場をメンテナンスしていくべきでしょう。
逆に【B】は、対策が必要な商品群です。初回送品で一定の売上はあったものの、期間中に追加送品された分が消化できず、そのまま返品されていると推測できます。一定の期間が経過した後は追加注文せず、すでにある在庫分の消化を待つという選択肢が入ってきます。
そして、もっとも課題が多いのが【D】。初回送品分が消化できず、返品されてしまっている商品群です。フェア全体の4分の1の売上を占めていますが、点数シェアが50%を超えています。
具体的なタイトルを見てみると、“夏の文庫フェアの代名詞”ともいえる作品が多数見受けられました。これらは、フェアを展開するにあたって削りづらい商品群であるともいえるでしょう。この点については、これまでのフェアのあり方・やり方を根底から変えるような、大きな見直しが必要かもしれません。
「夏の文庫フェア」は読者プレゼントなどもあり、顧客誘引力の高い企画です。事実、この期間の文庫売上の8~10%は、このフェアによって作られています。
しかしその一方で点数が多いことから、個々の作品の魅力を訴求するには難しく、それゆえ売上率の低さが問題です。
9月に入れば、季節商材である「日記・手帳」の送品が始まります。短い夏の間にどれだけ効率のよい売り場が作れるか。出版業界全体のもうひと工夫が必要です。