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5月31日(金)、日販の2019年上半期ベストセラーが発表されました。
苦戦が続くといわれているなかで、改善の兆しが見えるジャンルもあり、あらためて「本」の重要性が話題になることが多かった上半期。
仕入担当者は、この半年と「これから先」をどうみているのか? ほんのひきだし編集部が、日販の書籍仕入係長に話を聞きました。
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―― 上半期ベストセラーが発表されました(ランキングの内容はこちら)。プレスリリースだけでは伝えきれないランキングの裏側や特徴を語ってもらおうということで、この機会を設けています。今回のランキング、一言で言うと?
奥田: なんといっても樹木希林さんですね。亡くなったのが2018年9月で、今回のベストセラー集計期間(2018年12月~2019年5月)に、書籍では新刊が4点発売されています。第1位の『一切なりゆき』は12月20日発売なんですが、3か月という短い期間で一気にミリオンセラーとなりました。第3位の『樹木希林 120の遺言』や、ランクインを逃した『樹木希林さんからの手紙』『心底惚れた 樹木希林の異性懇談』の2冊まで合計すると累計200万部規模になります。ほかにムックやCDブックも刊行されているので、出版業界にもたらした影響は本当に大きいです。
奥田直樹(写真左)
日本出版販売株式会社 仕入部 書籍仕入課所属。一般書担当。浅香 健(写真右)
日本出版販売株式会社 仕入部 書籍仕入課所属。専門書担当。
―― ビジネス書の躍進も話題になりました。
奥田: 『メモの魔力』『FACTFULNESS』『学びを結果に変えるアウトプット大全』と、総合ランキング上位20タイトルのうち、ビジネス書は3冊ランクインしました。いずれも30万部を超える大ベストセラーです。そのなかでも特筆すべきは、第7位の『メモの魔力』ですね。従来のビジネス書の売れ方と、傾向が大きく違います。20代購入者の比率がここまで高いビジネス書は見たことがないです。
浅香: 2018年度はビジネス書が全体的に好転したのですが、少なくとも12年ぶりの前年超えです。その理由も、こういうベストセラーの存在が大きいですね。
―― 児童書の売れ行きもよかったですね。
奥田: 児童書では「注目の新刊が、爆発的なヒットを記録する」という嬉しいニュースが続いています。『おしりたんてい』が600万部、『ざんねんないきもの事典』は290万部と、シリーズ累計発行部数がどれもすごい。『わけあって絶滅しました。』も話題になりましたね。少子化の時代だというのに、児童書がこんなふうに売れるのは、それ自体非常に価値があることだとみています。
―― 児童書は「シックスポケット」の傾向が強いという話をよく聞きますが、それ以外の理由もあるのでしょうか?
奥田: 今回のランキング発表にあたって出版社にヒアリングしたのですが、いずれの社からも「これ」といえるような明確な回答は得られていないんです。「“うんこ”や“ざんねん”のような、これまで使われてこなかったワードを使ったタイトルがインパクトがあった」「一見ふざけているようで、実は内容がとてもしっかりしているというギャップが受けた」「メインターゲットの子どもだけでなく、大人も買っている」などさまざまな要素が合わさっていて、出版社も一言では言い表せられないのが現状のようです。ただ、これまでの児童書ではあまり見られなかった売り方、たとえば、多くの書店さんが面白がって大規模に仕掛けてくださったり、謎解きイベントやコラボカフェを実施することで、本だけではない盛り上がりを作ったり。売り手の頑張りが、この結果に繋がった部分も大きいのではないかと思っています。
―― 一方で、“文芸書”というか、小説は苦戦したように見えます。
奥田: 仕入担当としてはあまり触れたくないのですが、小説がベスト10に1作も入っていないのは久しぶりのことです。いわゆる文芸書ジャンルはシェア自体が縮まってきていますね。しかし、そのなかで元気なのはいわゆる「新文芸」と呼ばれるジャンル。ここはまだまだ伸びていきそうです。今年の下半期は、池井戸潤さん、伊坂幸太郎さん、東野圭吾さん、宮部みゆきさん……といったベストセラー作家の新作が続々発売予定なので、期待がもてます。1年ぶりの新作となる池井戸潤さんの『ノーサイド・ゲーム』は、発売後すぐにドラマの放送も始まりますので。
浅香: でも、新しい作家が出てきて牽引してくれるといいよね。
奥田: そうですね。住野よるさんが出てきたときに業界が一丸となって盛り上げた、ああいう感じになれるといいですね。
―― 実用書ジャンルはどうでしょうか?
奥田: ミリオンセラー不在のなか、はっきり苦戦とはいわないまでも、ちょっと弱かった印象がありますね。そんななかで『医者が考案した「長生きみそ汁」』をはじめ、料理においては定番中の定番である“みそ汁”にスポットが当たって、ここまで売れたのがすごいです。
―― みそ汁については、ランクインを逃した本にも話題になったものが多かったですね。土井善晴さんの『一汁一菜でよいという提案』もそうですし、瀬尾幸子さんの『みそ汁はおかずです』もそうです。実用書は、テレビ番組に取り上げられることで大きな伸びを見せるジャンルですね。
浅香: 実用書、特に健康系のタイトルは、これまで女性をメインターゲットに企画される傾向がありました。しかし近年、それが男性ターゲットにシフトしてきています。腹筋の割れた男性が表紙にデザインされているような本が増えていて、この傾向は今後もしばらく続いていきそうです。
―― このブームに火をつけたのは何だったんでしょう?
浅香: いくつかありますが、『スタンフォード式 最高の睡眠』がその代表格ですね。男性をメインターゲットとした商品群の特徴としては、大学名や研究者名を冠にして、徹底したエビデンスを打ち出していることが挙げられます。
―― 推薦コメントとエビデンスとタイトルで埋め尽くされて、「メインタイトルはどれなの?」と一瞬考えてしまうような表紙の本も増えていますね(笑)。
浅香: その一方で『GAFA』のように、シンプルな装幀のものもあって。二極化しています(笑)。
―― ビジネス書はいずれにしても注目ジャンルですが、浅香さんは今後をどう見ていますか?
浅香: 今はまだ上半期ベストセラーにランクインしたタイトルが売れ筋の中心ですが、仕入担当としては“次の話題書”を打ち出して、書店店頭の盛り上げを継続していきたいと思っています。『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』『学びを結果に変えるアウトプット大全』などのようなベストセラーの続巻も発売予定なので、ある程度安定した推移が見込めますが、そこにどうやって“新しい売上”を作ってプラスしていくかが課題です。
―― そんな浅香さんが今売りたい一冊って何ですか?
浅香: うーん……。『Think clearly』でしょうか。
簡単に揺らぐことのない 幸せな人生を手に入れるための「52の思考法」
この複雑な世界を生き抜くために、私たちは、何を指針にすればいいのか?
「よい人生」とはいったいどういうものなのか?古代の伝統的なモデルから最新の心理学研究の結果、ストア派をはじめとする哲学や、バリュー投資家の思考まで、
膨大な研究結果をひもときながら、「よい人生」を送るための52の思考法を本書で明らかにする。(サンマーク出版公式サイトより)
奥田: ちなみに今回、ベストセラーランキングとあわせて「世代別ランキング」と「30歳までの“平成生まれ世代”が読んだ本」を発表したのですが、文芸書やビジネス書が読まれるなど、20代の読書傾向に変化があらわれています。出版社や著者のSNSを使ったアプローチに反応しているケースもあるので、今後が楽しみですね。
※「世代別ランキング」および「平成生まれが読んだ本」はこちら
―― 20代といえば、20代のランキングで第3位だった『生田絵梨花写真集 インターミッション』をはじめ、アイドル写真集もよく買われていましたね。
奥田: 今回の集計期間には『乃木坂46 井上小百合ファースト写真集 存在』『高山一実写真集 独白』『渡邉理佐 1st写真集 無口』などが発売されました。“坂道人気”はまだまだ続くとみています。
―― これから、という意味では、そろそろ“夏の文庫商戦”が始まりますね。
浅香: 今年は新海誠さんの最新作『小説 天気の子』が相当売れるんじゃないですかね? 文庫では『蜜蜂と遠雷』も映画の公開を控えていますし、文庫は映像化作品に期待ですね。
―― それでは最後に、今回のランキングで「ここは意外だった」というものがあったら教えてください。
奥田: 売れ方で異色だったのは『妻のトリセツ』ですね。こういったテーマの本は、これまで女性をターゲットにして出版されることが多かったと思うのですが、これは新書という形態もあって、40代以上の男性を中心に大ヒットしています。『応仁の乱』を読んだ方がこれも読んでいると思うと、なんだか面白いですね。
浅香: 私は『英単語の語源図鑑』がランクインしたことに驚きました。「うんこドリル」シリーズもそうですが、学習参考書ジャンルの商品が総合ランキングの上位に入るというのは、これまでの傾向を鑑みると非常に珍しいことなんです。爆発的なヒットになった経緯や背景については、じっくり検証してみたいところですね。
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数々の爆発的ヒットに支えられた2019年の上半期。年間ベストセラー発表まであと半年、このなかで“年間で売れたタイトル”はいくつあるのでしょうか? また、出版業界の景色を変える新たなキラーコンテンツは現れるのでしょうか?
すでに戦いは始まっています。11月末に発表予定の年間ベストセラーをお楽しみに!