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  • キャッシュレス決済に書店が今対応すべき理由 PayPayを導入したリブロプラスの事例

    2019年04月11日
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    新聞之新聞社 諸山 誠
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    リブロプラスが今年1月1日から導入を開始した、スマートフォンを使ったQR・バーコード決済サービス「PayPay(ペイペイ)」の利用実績で、第2弾100億円キャンペーンが始まった2月12日から利用額が4倍以上に跳ね上がっていることが分かった。

    特に店舗の売上高に対してペイペイの利用額の割合の高いリブロ東銀座店の1~3月の全体売上高前年比は全ての月で100%を超えた。既存店合計の売上高前年比と比べても大幅に上回った。

    同社の永堀太朗常務は「ペイペイを利用できる書店はまだ少ない。第2弾キャンペーンを通じて、ペイペイから送客してもらっているのが現状だろう。先行導入によるメリットを享受している結果ではないか」と分析している。

     

    全86店のうち32店で実施 利用額が1日70万円を超えるケースも

    リブロプラスでは今年1月1日から全86店のうち、32店でペイペイによる決済を開始。その後に利用店を増やし、2月15日に取扱店を47店に拡大した。

    47店合計のペイペイの日別利用実績を見ると、第2弾キャンペーンが始まる前の1月期は、多い日で1日10万円前後という状況で推移していた。しかし、キャンペーンの初日には1日40万円、それ以降も1日50万円~60万円を計上する日も出てきた。日によって増減はあるものの、3月に入ると、1日70万円を超えるケースも見られ、日別の利用額は高どまりで推移している。

    また、1~3月(10日まで)累計のペイペイの利用上位10店舗を見ると、1月期に比べて2月期の利用額は、最少の店舗で1.5倍以上、最大で10倍以上に急増した。

    利用累計額で1位のオリオン書房ノルテ店は1月期に合計11万円台だったのが、2月期は73万円台、3月(10日まで)は57万円台に急拡大した。2位のリブロ汐留シオサイト店は1月期は5万円台、2月期に64万円台、3月(10日まで)には28万円台とキャンペーン効果によって、軒並み利用額を伸ばしている。



    共通点は「ビジネスマン客が多く、駅前路面店であること」

    利用額の上位店舗の特徴について、永堀氏は「男性客、特にビジネスマンが多い店で、立地は駅前路面店であることが共通する。さらに文具や雑貨を導入していることも特徴」と指摘する。

    上位10店の中でも、汐留シオサイト店と東銀座店は、店舗全体売上高に対するペイペイ利用額の割合は高い。汐留シオサイト店は1月期に利用率が0.6%だったのが、2月期には6.7%、3月(10日まで)は8.1%にまで上昇。東銀座店も1月期は0.6%だったが、2月期には4.7%、3月(10日まで)は6.0%にまでアップした。そのほかの上位店では、3月10日までの時点では、おおむね2~4%という利用率だった。

    汐留シオサイト店と東銀座店の全体売上高前年比を見ると、東銀座店は1月期が5.7%増、2月期が14.2%増、3月(10日まで)が2.1%増と軒並み好調。店舗による固有の要因もあるが、既存店ベースの前年比を全て上回った。

    一方、汐留シオサイト店は1月期が7.0%減と既存店ベースの2.7%減よりも下回っていたが、2月期には既存店と同じ0.6%減に復調。3月(10日まで)には24.0%増と既存店の4.5%増を上回った。利用率が高まるにつれ、売上高前年比の伸び率も上昇した格好だ。

     

    中小書店が導入すべき理由と、リブロプラスの狙い

    こうした好影響の結果を踏まえ、永堀氏は「特に中小書店は導入すべき」と訴える。というのも、今年10月から消費税が10%にアップされることに伴い、経済産業省は中小規模の小売店でキャッシュレス決済を用いて商品を購入した消費者には5%、フランチャイズ加盟店の場合は2%のポイントを還元する事業を実施するからだ。

    対象店舗などの詳細については、経済産業省は4月以降に公表するとしているが、小零細規模の書店であれば対象になる可能性が高い。しかも、対象店舗となれば、キャッシュレス決済に必要な端末機器の導入費用を国とキャッシュレス決済事業者が負担するため、実質無料で機器を入手できる。決済事業者への手数料についても、期間中は3.25%以下に設定され、その3分の1を期間限定だが、国が負担することになっている。

    この国の支援措置は増税開始から9か月間と限定されているが、「個人書店がキャッシュレスに対応するにはいいチャンス」(永堀氏)と強調する。

    一方、リブロプラスがペイペイを導入したのは、年々高まってきているというクレジットカード決済を、QRコードなどのスマートフォン決済などに移行させるのが狙い。同社では年商190億円を計上するが、クレジットカード決済によるカード会社に支払う手数料は、年間1億2,000万円にも上るという。「売上高に対して約0.6%ではあるが、薄利の書店業において、この負担は大きい。ペイペイとクレジットカードを連携して、ペイペイで支払ってもらえれば、店側は手数料がかからない」と永堀氏。今は手数料が無料のペイペイによる決済へ顧客を誘導したいと考えている。

    ただ、クレジットカードによる決済は年々増加傾向にある上、「ここ数か月での利用率も急上昇」(同)しているという。しかも、ペイペイも2021年10月からは手数料を徴収すると発表している。永堀氏は「それが仮に、クレジットカードよりも高ければ、弊社としてはペイペイのサービスの継続は断念せざるをえないだろう」と考えている。

    日本におけるキャッシュレス決済については、韓国や中国など諸外国に比べて、まだ黎明期にある。特に書店においては小規模になればなるほど、多種多様なキャッシュレスの決済手段に対応できていないのが現状だ。その理由は、クレジットカードでは平均3~4%の負担を強いられる「取り扱い手数料」の“高さ”にある。日販の「書店経営指標」にある通り、書店の全体平均の営業利益率はわずか0.11%、経常利益でも0.43%と1%を下回っている。この利益率の低さが、導入の足かせとなっている。

    そうした中で、国はキャッシュレス決済の普及を進めているが、消費増税時の期間限定の救済策だけでは、利益率の低い書店業界には浸透しない可能性がある。そうなると、書店業界だけがキャッシュレスの波に取り残され、決済手段の多様性の少なさから、消費者がリアル書店での本の購入を敬遠してしまう可能性も考慮される。

    国がキャッシュレス決済を進めるのであれば、こうした利幅の少ない小売店に対する何らかの手当てを考慮すべきだろう。同時に、書店側も決済事業者が徴収する手数料の軽減などを求めて、政府や事業者に対して交渉していくべきではないだろうか。

    写真協力:リブロ光が丘店、パルコブックセンター新所沢店

    (「新聞之新聞」2019年3月20日号より転載 ※一部編集)




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