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2018年、「Yahoo!ニュース|本屋大賞 ノンフィクション本大賞」という新たなノンフィクションの賞が創設されました。
ノンフィクション掲載誌の休刊が相次ぐなどし、ノンフィクションの危機が叫ばれているなか、ネットメディアが創設したこの賞は大きな意味を持つものになるでしょう。
この賞の第1回受賞作『極夜行』は、受賞をきっかけとして大きく部数を伸ばし、世の中に広がりました。同書はさらに、年末に発表された第45回大佛次郎賞も受賞。まさに今年を代表するノンフィクションとなりました。
今回は、この『極夜行』について見ていきたいと思います。
まずは発売以降の売上動向を見てみましょう(※日販 オープンネットワークWIN調べ/週別)。
ノンフィクション本大賞の受賞が発表されたのは、12月8日(木)。『極夜行』はこのタイミングで大ブレイクしました。
その後売上が少し下がってきていたところで、11月20日(木)に大佛次郎賞の受賞が発表され再度売上が上昇。受賞やメディア露出の意義がよくわかるグラフになっています。
では、読者はどんな方々なのでしょうか?
男女比は2:1。冒険ものですが、年齢層は比較的高めでした。
角幡さん本人は40代ですが、それよりも上の世代に読者が集中しています。また、女性読者のピークが70代にあるのも面白いところ。受賞によってNHKのニュースに大きく取り上げられたことが、関係しているのかもしれません。
続いて、読者の併読本を見ていきます。過去1年間に購入したものの上位はこちら。
1 | 『新・冒険論』(角幡唯介/集英社インターナショナル) |
2 | 『おらおらでひとりいぐも』(若竹千佐子/河出書房新社) |
3 | 『漫画 君たちはどう生きるか』(吉野源三郎/マガジンハウス) |
「文藝春秋」(文藝春秋) | |
5 | 『かがみの孤城』(辻村深月/ポプラ社) |
6 | 『大家さんと僕 』(矢部太郎/新潮社) |
『銀河鉄道の父』(門井慶喜/講談社) | |
8 | 『すぐ死ぬんだから』(内館牧子/講談社) |
『日本軍兵士』(吉田裕/中央公論新社) | |
10 | 『国体論』(白井聡/集英社) |
『沈黙のパレード』(東野圭吾/文藝春秋) | |
『日本が売られる』(堤未果/幻冬舎) |
第1位こそ角幡作品でしたが、以下にはここ1年間で話題になった小説や新書が並んでいます。受賞のタイミングで売上が伸びたことだけでなく、ここからも、「話題になったもの」に興味を持つ層が読者に多いことがわかります。
またトップ10圏外ではありますが、最近発売された作品だけをピックアップしてみても、『このミステリーがすごい!2019年版』や「本の雑誌」427号(特集:本の雑誌が選ぶ2018年度ベスト10)など、ブックランキング系のタイトルが並んでいました。
一方で、こちらもトップ10圏外ではありますが、雑誌「山と渓谷」が上位に入るなど『極夜行』の併読本らしいところも見られました。
併読本には、これら以外にも気になるノンフィクションが多数。気になったものをいくつか紹介します。
発売即重版、メディアを大いに賑わせているのがこちら。森友問題を追い続けたエース記者の退職と、その裏にあった“報道を揺るがす事実”について本人が書いた話題作です。上層部の介入を訴える著者に対し、局側が反論をしていることでも非常に話題になっています。
犬がくんくんと鼻を動かしているのは見慣れた光景ですが、単なる匂いだけでなく、天気や時間の変化、さらには病気にも気づけるのだそうです。匂いで世界を知ること=「犬であること」を考える一冊。なんと著者は、犬にならって四つん這いで町中を嗅ぎまわったのだとか。
犬とじっくり向かい合える長い休みに、犬の気持ちについて考えてみるのはどうでしょう?
著者は、凶悪殺人犯と対話することでその気持ちや考えを引き出してきた小野一光。その著作を読むと、悪夢にうなされ心がすり減ったような気持ちになります。書いている本人はいったい大丈夫なんだろうか、と心配になるほど。
「腕に蚊がとまって血ぃ吸おうとしたらパシンて打つやろ。蚊も人も俺にとっては変わりない」。
内容紹介で代表的に取り上げられているこの言葉は、大牟田四人殺人事件・北村孝紘のものです。なぜ人を殺すのか、なぜその人殺しと向かい合うのか。人を殺すということについて深く考えたくなる作品です。
探検といっても実際にその場所・時にいくわけではありませんが、探検好きにとって、「探検隊」というキーワードには何かそそられるものがあります。
日本列島に住んでいた祖先たちの暮らし、文化、そしてどんなことを考えていたのか? 作家と考古学者による縄文世界の探検が繰り広げられています。
いまや「いきもの」と聞けば「ざんねんな」と連想されるほどの生き物ブームですが、もともとのこのブームの火つけ役となったのが大ベストセラー『へんないきもの』。その『へんないきもの』と『怖い絵』がコラボするという、想像もつかない一冊がジワジワきています。
名画に登場する生き物を解説し、名画に隠された謎に迫る一冊。「ある絵に描かれた“手足のあるヘビ”の秘密」など、美術鑑賞も動物鑑賞も面白くなること間違いなし。
新たな賞を産んだノンフィクション界。これからの行く先は、『極夜行』の売れ行きや角幡さんの今後の活躍を通して見えてくるのかもしれません。
世の中の好奇心に応え、問題をえぐる作品がどんどん産み出されることを願っています。
※「HONZ」で2018年12月26日に公開された記事に、一部編集を加えています。