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  • “ドイツモデル”からみる出版業界の将来 各社が問われる「マーケットイン」の姿勢とは

    2019年01月22日
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    文化通信社 専務取締役 星野渉
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    2018年は出版流通史に大きな転換点として記録される年になるかもしれない。それは、日本の出版産業の基盤を支えてきた大手取次2社が、出版社に対する条件交渉をスタートし、それぞれ「マーケットイン」への転換を宣言したからである。

    取次による出版社への条件交渉は、ここ数年上昇してきた輸送コストへの対応が主な理由とされているが、目的は出版流通業の収益構造を根本的に見直すことにある。従来型の出版流通が立ち行かなくなっているためだ。

    日本出版販売(日販)は2018年3月期決算発表会見で、長年赤字が続いてきた書籍事業の営業損失が25億7,900万円だったのに対して、これまで経営を支えてきた雑誌(コミックスを含む)の営業利益が5億7,900万円にとどまり、開発商品などを含めた出版流通業で5億6,100万円の営業損失を計上したことを明らかにした。

    さらに、9月期の中間決算発表では、利益を稼いできた雑誌部門も収支バランスが崩れそうになりつつあることに言及。いよいよ出版流通事業全体が利益を生まない構造に陥りつつある。

    そのような環境下で2018年4月に始動した日販の中期経営計画「Build NIPPAN group 2.0」では、グループの基本方針として「本業の復活」と「本業を支える事業を成長させる」の2つを掲げた。

    後者の「本業を支える事業を成長させる」は、最近拡大している雑貨や文具、カフェなど出版物以外の事業を拡大させて売上規模の縮小を防ごうということだが、前者の「本業の復活」とは、すなわち出版流通事業の黒字化である。雑誌の売行きが今後劇的に回復するのは考えにくい状況下で、これまで赤字が続いてきた書籍部門を黒字化しなければならないということだ。

    日販の平林彰社長は、2018年3月に行った文化通信のインタビューで、出版社への条件交渉について話したが、その中で次のように語った。

    もちろん運賃上昇はありますが、そもそも以前から、取次にとって書籍の事業は赤字です。雑誌で稼いだ利益で書籍への投資と赤字を補填してきたというのが取次業の構造です。しかし、雑誌の売上が減少する中で、遠くない将来、我々が事業を続けられなくなるという危機感を持っています。事業を存続していくためには、書籍で利益を出して、書籍だけでも食べられる構造にしなければなりません。

    (文化通信2018年3月19日付)

     

    「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へ

    平林社長が入社した当時から赤字部門だったという書籍事業を黒字化するのは容易ではないだろう。

    そもそも、注文品の書籍1冊でも書店にほぼ毎日届けることが可能なのは、日曜祝日と休配日を除いて日々、雑誌を書店やコンビニエンスストアなどに届ける配送網があるおかげだ。

    取次の物流現場を見ても、巨大な流通センターやそこで働く人のほとんどが書籍の仕事をしている。その膨大なコストも、効率が良く手がかからない雑誌の収益に支えられてきたのである。

    この流通体制を、そのまま書籍事業だけで支えられるとは考えにくい。やはり根本的に事業のモデルを変えなければならないことは明白だ。

    そのための考え方を、平林社長と、トーハンの近藤敏貴社長が同じ言葉で表現している。それが「プロダクトアウトからマーケットインへ」である。「プロダクトアウト」は「作ったものを売る」、「マーケットイン」は「市場が求めるものを作って売る」ことを意味するマーケティング用語だ。

    従来型の出版流通は、出版社が作った書籍や雑誌を取次に納品すると、「パターン配本」と呼ばれる配分方法で書店に送っていた。この「配給制度」にも似た供給体制は、究極の「プロダクトアウト」と呼んでも差し支えない。これを180度逆転して、書店、消費者が求める商品を供給する形にしようというわけである。

    この方向転換で目指すべき一つの例として、ドイツのモデルが挙げられている。もともと書籍だけで成り立ってきたドイツの出版業界の構造が、参考になるのではないかという趣旨だ。

    ここで、2018年10月の「ドイツ出版産業視察調査」〈主催:日本出版インフラセンター(JPO)、文化通信社〉で見たドイツの出版産業について触れておきたい(詳細は、JPOが調査報告書を近く公開予定)。



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