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又吉直樹『火花』(文藝春秋)の勢いが止まりません。この久しぶりの明るいニュースは「もう本を買う人はいないんじゃないか……」とついつい暗いことを考えがちになっていた私たちに、大きな希望を与えてくれる出来事となりました。
では実際に、どういったお客様が『火花』を買っているのか、受賞のビフォーアフターを見てみたいと思います(日販 WIN+調べ)。
▼【Before】発売~7月15日までの購入者
▼【After】7月16日~8月6日までの購入者
映像化決定などの場合、この読者クラスタが大きく動きますが、今回『火花』の場合はそれほど大きな違いがありません。他の文芸書と比較すると、30代以下の若い層が早いうちに購入しています。受賞をきっかけに年輩の男女に広がっていることが1つの特徴として言えそうです。
次に、受賞前後それぞれの購入者が7月以降購入した併読本のランキングを見てみましょう。
【Before】発売~7月15日までのランキング
1 | コミック | ONE PIECE (78) | 尾田栄一郎 | 集英社 |
2 | 書籍 | 流 | 東山彰良 | 講談社 |
3 | コミック | 暗殺教室 (15) | 松井優征 | 集英社 |
4 | 書籍 | 母性 | 湊かなえ | 新潮社 |
5 | 書籍 | 意地ノ妾 | 佐伯泰英 | 双葉社 |
6 | 書籍 | 教団X | 中村文則 | 集英社 |
7 | コミック | 君に届け (24) | 椎名軽穂 | 集英社 |
8 | 書籍 | 禁断の魔術 | 東野圭吾 | 文藝春秋 |
9 | 書籍 | ジャイロスコープ | 伊坂幸太郎 | 新潮社 |
10 | 書籍 | ホテルローヤル | 桜木紫乃 | 集英社 |
【After】7月16日~8月6日までの購入者
1 | 書籍 | 流 | 東山彰良 | 講談社 |
2 | コミック | ONE PIECE (78) | 尾田栄一郎 | 集英社 |
3 | 書籍 | 意地ノ妾 | 佐伯泰英 | 双葉社 |
4 | コミック | 君に届け (24) | 椎名軽穂 | 集英社 |
5 | 書籍 | 母性 | 湊かなえ | 新潮社 |
6 | コミック | 暗殺教室 (15) | 松井優征 | 集英社 |
7 | 雑誌 | 週間文春 | 文藝春秋 | |
8 | 書籍 | 一〇三歳になってわかったこと | 篠田桃紅 | 幻冬舎 |
9 | 書籍 | 家族という病 | 下重暁子 | 幻冬舎 |
10 | 書籍 | 禁断の魔術 | 東野圭吾 | 文藝春秋 |
このデータはHonya Club会員の購入履歴を元にしているため、そもそも「書店に定期的に来店する」方々の情報です。このため、“受賞をきっかけに書店に足を運んだ”といった読者の様子はなかなか見えてきません。とはいえ、受賞後の購入者の併読本には雑誌やコミック、芸能関連本が多く見られます。データを見ていると普段小説を手に取らない方が『火花』という小説を手にとる姿も浮かび上がってきます。
この『火花』は、低迷する文芸書の売り場、ひいては出版業界を上向きにしてくれる存在となるのでしょうか?
7月に売れたランキング上位小説(7月以前の発売銘柄と直木賞受賞作『流』を除く)と『火花』でこんな比較をしてみました。
こちらは、小説ランキング上位5作品の合計と『火花』の日別売上の動向を重ねたグラフです。青はランキング上位5作品、赤は『火花』の売上を示しています(※実際は、青と赤でY軸の値が異なります)。
このグラフからは面白いことが見えてきます。『火花』は受賞発表以降、重版が店頭に投入されたタイミングで大きく数字が動いています。一方で、多くの小説は土曜日、日曜日が売上のピークとなりますが、ここで取り上げた5作品もほぼ同様の傾向を示しました。これは一般的な書店の来店客の動きと重なるものだと考えても良さそうです(7月初旬の売上は「王様のブランチ」の影響によるもの)。
こうした中、7月18日には通常時以上に5作品の売上が跳ね上がっています。ちょうど『火花』が店頭で品切れとなったときに、来店したお客様が他の話題の小説を購入したと推測できそうです。
新たな読者、そして久しぶりに来店されたお客様に『火花』以外の商品にも興味をもっていただき、その後の継続的な来店への足がかりを作っておくこと。これがこれからの売上を作るために今やっておくべき取り組みになるのではないでしょうか?
(文化通信「bBB」8月31日号より転載)