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  • 【寄稿】市場の厳しさ増す中、書店を支える新たな動きも

    2023年01月12日
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    文化通信社 取締役社長執行役員 星野 渉
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    2022年は前年までのコロナ特需の反動に加え、2月に始まったロシアのウクライナ侵攻の影響などによる物価高が家計を圧迫したことで、出版物の販売は低迷した。その一方で、書店を支援する政策づくりに向けた議員連盟の動きや、店頭業務を大幅に効率化する新技術の導入に向けた準備が進むなど、これからの時代に向けた前向きな動きもあった。そんな2022年を振り返り、今後について考えてみたい。

     

    “巣ごもり”の反動と物価高で市場冷え込む

    出版科学研究所の調査によると、上半期(1~6月)の書籍・雑誌推定販売額は5,961億円、前年同期比7.5%減。内訳は書籍が3,526億円、同4.3%減、コミックスを含めた雑誌が2,434億円、同11.8%減。一方、電子は電子コミックが2,097億円、同10.2%増と牽引し2,373億円、同8.5%増だったが、紙と電子を合わせても8,334億円、同3.5%減とマイナスになった。

    前年まで「鬼滅の刃」「呪術廻戦」(いずれも集英社)、「東京卍リベンジャーズ」(講談社)と大ヒットが相次いだ紙版コミックスが同約26%減になったことが大きく影響したが、コミックスは2019年比だと約10%増と成長を続けている。一方、書籍は2019年に比べても2.7%減、雑誌は11.8%減と厳しさが続いている。

    これ以降の同調査の書籍・雑誌販売額は7月が同9.1%減、8月が同1.1%減、9月が同4.6%減、10月が同7.5%減と、多少改善してきているようにも見える。ただ、市場冷え込みの要因として物価高の影響が指摘される一方で、コロナ禍を経たことによる人々の生活変容が影響している可能性もあり、今後も動向を注視する必要がある。

     

    大型書店の閉店相次ぐ

    東京の千代田区神田神保町で営業を続けてきた三省堂書店神保町本店が、5月に建て直しのために一時閉店。さらに9月には東京駅前の八重洲ブックセンター本店が2023年3月で閉店することを発表した。

    三省堂書店は本店ビルを建替えて2026年に再オープンするし、八重洲ブックセンター本店は入居ビルの老朽化が原因だが、三省堂書店神保町本店は本の集積地である神保町1丁目1番地にある創業141年を誇る同社の基幹店舗。八重洲ブックセンター本店は鹿島建設が1978年に日本最大の書店を標榜して開店した、いずれも象徴的な大型書店だ。下期に入っても名の知れた書店が閉店するニュースが相次ぎ、書店経営の厳しさを印象付けた。

    大手取次の両社をはじめとして、書店経営の安定化を目指した取引制度の改革などを進めているが、書店の苦境は予想以上に進んでいるとみられ、効果的な対応策が急がれる。

     

    書店支援政策の策定に動く書店議連

    こうした中、書店を支えるためのロビー活動が一定の成果を示し始めている。自由民主党議員で構成する「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)は、12月に書店産業振興のための経済対策などを盛り込んだ「中間とりまとめ」を発表した。2023年5月ごろには最終報告をまとめ、立法など政策づくりに着手する見通しだ。▲12月8日に開かれた「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」(書店議連)総会のようす

     

    書店議連は2016年に書店有志などの働きかけで「書店経営者との懇談」としてスタート、その後「全国の書店経営者を支える議員連盟」として発足。2022年に一般財団法人出版文化産業振興財団(JPIC)と日本書店商業組合連合会(日書連)が事務局を務めるようになり、業界側の体制が一本化され、働きかけが強まったことで、政策立案に向けた動きを本格化させた。

    当初40名余だった所属議員は地域書店の働きかけなどによって150名に拡大。自由民主党の議員連盟としては最大規模となり、名称も人々の理解を得やすいように「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」に変更した。

    「中間とりまとめ」では、今後政策として提言していく内容「対応に関する検討の方向性」として、「不公正な競争環境等の是正」のためにネット書店の無料配送の制限、官公庁などの入札値引きの抑制、公共図書館の複数購入や貸出開始時期のルール化、「DXの推進」のためにICタグ導入への政府支援、「文化向上・文化保護の観点からの支援」のために書籍購入のクーポン配布、出版物への軽減税率適用、「収益構造確立・新たな価値創造への支援」のために書店業への助成制度、書店のイノベーティブな取り組み支援を示した。

    「中間とりまとめ」では、日本が参考にすべき海外の書店政策の例が紹介されているが、フランスでは2021年に書籍のネット販売事業者に対して送料の最低料金を課す法律が制定された。いわゆる「反アマゾン法」である。また、同国では政府が読書推進を目的に、18歳には4万円、中高生にも2万6,000円分の書籍を購入できる文化パスを配布。商品の注文はオンラインでも可能だが、現物は実店舗で受け取るようになっているという。

    韓国では2020年に、公共・学校図書館が図書を購入する際には、購入先として地域の書店を優先するよう、韓国・文化体育観光部(日本の文部科学省にあたる)から地方公共団体等に勧告が出されたという。

    韓国ではここで紹介されているほかにも多くの支援策が実施されている。「出版文化産業振興法」という法律が制定されており、政府は「出版文化産業振興5か年計画」を数次にわたり策定している。この中には、書店のPOSレジ普及を促進する事業なども含まれている。また、日本で11月1日が「本の日」に制定される以前から、韓国では11月11日を「本屋の日」と定めて各種イベントなどが行われている。

    書店議連は2023年5月ごろまでに最終報告をまとめ、その後、法制化、関係省庁による具体的な政策化が進められる見通しだ。今回盛り込まれた内容がどれだけ具体化するのかまだわからないが、日本で書店支援のための政策が本格的に議論されるのは、ほぼ初めてといってよい。それほど書店が危機的な状況に追い込まれているともいえるが、社会全体で書店が必要だというコンセンサスを得られるのであれば、書店業界にとっては追い風になる動きだといえる。

    行政による支援策を活用した最近の例としては、東京都書店商業組合が2年間にわたって東京都中小企業団体中央会から委託を受けて実施した事業がある。

    東京組合は2021年4月から、中央会の中小企業新戦略支援事業(団体向け)に係る特別支援「新しい日常対応型業界活性化プロジェクト」を活用し、5,000万円の予算を使ってYouTubeチャンネル「東京の本屋さん~街に本屋があるということ~」を立ち上げ、組合員書店を紹介する動画を作成し公開した。

    さらに2022年度も中央会の特別支援「デジタル技術活用による業界活性化プロジェクト」の委託を受けて、5,000万円の予算で「#木曜日は本曜日」習慣化プロジェクトを実施。本屋を愛する著名人や作家、インフルエンサーら20人が「人生を変えた10冊」を選び、同組合加盟の176店舗に配本し、著名人が本屋での本との出会い・エピソードを語るインタビュー動画を順次公開するなどの活動を実施している。

    こうした中小事業者を支援する事業は数多くあり、これまでも活用されてきたとは思うが、今後、書店政策が具体化する中で、書店支援を目的にした補助金や助成制度が設けられる可能性がある。そうなれば、書店組合などが受け皿になって、支援事業を活用する体制づくりも必要になるだろう。▲「#木曜日は本曜日」発表会のようす

     

    RFID管理、今度こそ実現するか

    書店議連の「中間とりまとめ」でも触れられているICタグについて、出版物に装着する動きが加速している。

    講談社、小学館、集英社と丸紅グループが設立した株式会社PubteXは、出版物にICタグを装着するRFID事業で、2023年夏には出資する大手出版社3社が製本段階でコミックスへのタグ装着を開始し、書店業務でのトライアルを始めると発表した。2025年初頭には流通段階を含めた全行程での本格実施に移るという。

    RFID(Radio Frequency Identification=無線周波数識別)は、ICチップとアンテナからなるICタグを商品に装着し、非接触で読み取る技術で、バーコードに代わる管理技術として期待されている。アパレル業界などでは一部の店舗で実際に利用されている。

    バーコードと比べて、非接触読み取り、個品管理が可能という点がすぐれている。非接触で読み取れるため、箱詰めされたまま検品したり、レジでの瞬時の読み取り、本を棚から出さずに棚卸ができるなど、流通や店頭業務の効率化が期待される。また、1冊単位での個品識別が可能になることから、同じ銘柄でも仕入れ方法や時期によって1冊単位で違う取引条件を設定することや、商品が店頭で手に取られた記録を販売促進に活かすなどのマーケティングへの活用も期待されている。

    こうしたメリットは、主に書店業務で発揮されるものだ。そのことに、大手出版社3社が本気で取り組んでいるのは、書店を支えたいという強い思いからだ。この3社はいずれも電子コミック市場の拡大によって業績を伸ばしてはいるものの、そのヒットが生まれる元が書店店頭での展開にあると考えている。出版業界では以前にも経済産業省の補助金を得るなどして何度かICタグの装着が試みられながら実現されなかったが、大手出版社が本気で投資をして取り組むことで、今回は実現する可能性が高まっているといえるだろう。▲東京・千代田区のPubteXのショールーム。書店店頭を模している

     

    秋の読書推進月間

    JPICなどが中心になって、出版業界が一丸となって実施する新たな読書推進キャンペーン「本との新しい出会い、はじまる。BOOK MEETS NEXT」が行われ、10月27日から11月23日の期間中、全国各地で読書関連イベントが開催された。

    この時期はこれまで公益社団法人読書推進運動協議会「秋の読書週間」(11月27日~11月9日)を中心に、11月1日「本の日」、11月30日「絵本の日」など各種イベントやキャンペーンが行われてきた。「秋の読書推進月間」は、各地の読書推進活動などと連携し、これらを一体感のあるキャンペーンにすることで、書店来店の促進などに結び付けようという試みだ。

    出版社や書店、取次などが運営委員会を組織し、運営委員会委員長に紀伊國屋書店・高井昌史会長兼社長、実行委員会委員長にJPIC・近藤敏貴理事長(トーハン社長)が就任。キャンペーンサイトを開設し、全国で開催される関連イベント、書店企画のイベント、実行委員会や出版社が企画するイベントなどの開催情報を掲載した。▲「秋の読書推進月間」記者発表のようす
    写真左から実行委員長のJPIC・近藤敏貴理事長、日本書店商業組合連合会の矢幡秀治会長、運営委員長の紀伊國屋書店・高井昌史会長兼社長、「本の日」財務委員会委員長の大垣書店・大垣守弘会長、日本図書普及の平井茂社長、JPIC特別委員会委員長のブックエース・奥野康作社長

     

    この取り組みが、個々の書店にどれほど効果をもたらしたのかは不明だが、関係団体や出版社、書店、取次などが一体になってキャンペーンを展開できた意義は大きい。今回の事業を振り返りつつ、今後さらに効果的な取り組みを継続していければ、出版業界を盛り上げることができる可能性を持っている。国や政府による政策策定が進められる一方で、出版業界が自ら新たな取り組みを進めることが重要であろう。


    星野渉 Wataru Hoshino
    文化通信社 取締役社長執行役員。1964年東京都生まれ。1989年國學院大學日本文学科卒、文化通信社で主に出版業界を取材。NPO法人本の学校理事長、東洋大学、早稲田大学で非常勤講師。著書に『出版産業の変貌を追う』(青弓社)、共著に『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)など。


    「日販通信」2023年1月号 特集「2022-2023 出版業界 総括と展望」より転載)



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