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  • 目指すは「書店を元気にする出版社」!新ビジネスモデルへの挑戦で出版業界を刺激する鴨ブックス

    2021年10月06日
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    ブックジャーナリスト 内田 剛
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    「炎の講演家」として知られ、YouTubeチャンネルの登録者数は100万人を突破。著者としても18冊を出版している鴨頭嘉人(かもがしら よしひと)氏。

    そんな鴨頭氏がこの度立ち上げた「鴨ブックス」は、書店の売上げを伸ばすことを経営方針に掲げている出版社です。なぜ書店の現場に目を向けているのか。出版にかける想いや新たなビジネス戦略について、社長の鴨頭氏と副社長の吉村博光氏にお話を伺いました。

    (写真右から)鴨ブックス 代表取締役社長 鴨頭嘉人氏、
    同 取締役副社長 吉村博光氏

     

    「良い情報を広めるため」に出版社を始めた

    ――まずは出版社を始められたきっかけからお聞かせください。

    鴨頭 人間は情報に影響を受けていますので、人の考え方の差は情報の差によって生じます。僕はもともと心が強くなく、人の悪口や誹謗中傷を見ると、それが自分に向けられたものでなくても、自分のことのように感じていました。

    そこで、ポジティブな情報の総量を増やすことによって、世界を変えたいと考えたのです。そのため僕の多くの講演を無料でYouTubeにアップしていますが、いま2億回以上も再生されているので、“ポジティブ情報”は増えているといえます。

    僕のポリシーは良い情報を広めることですが、そのためにはより影響力のある人に届ける必要があります。そういった方たちが情報を得ているのは本ですので、本の形でも有益な情報を発信したいと考えました。100万部を売る著者になろうと思いましたが、僕が発信するような硬い情報では難しい。しかし、1万部の本を100冊出すことはできるかもしれません。

    100冊分の企画書を持って出版社と交渉するのは現実的ではありませんが、出版社を自分で作れば企画書を書かなくても本が出せます(笑)。ただ出版社の作り方はわからなかったので、当時、出版取次であるトーハンの社員だった吉村に相談しました。そこでさまざまなアドバイスを受けて、発売元としてサンクチュアリ出版さんを紹介してもらい、発行元として2016年に立ち上げたのが「かも出版」でした。

    ――「鴨ブックス」の前身となる出版社ですね。

    鴨頭 そうです。しかしそうやって本を出版していくなかで、新しい課題が生まれてきました。発行元では書店さんへの営業ができないのです。僕のオンラインサロンのメンバーは、本を出版するとSNSで拡散してくれたり、出版記念講演会を開いたりしてくれます。このメンバーが営業マンになってくれれば、書店さんともいい関係が築けると考えました。

    ただ、取次と直接口座を開いていないといろいろやりにくいところもあり、再び吉村に電話をしたのです。結論は、これまでの実績があるから新たな出版社を設立しても、真正面から交渉していけるのではないかということでした。

    ――すでに18冊を出版されているからですね。

    鴨頭 しかし、口座は持てても、本づくりはサンクチュアリ出版さんに担っていただいた部分がたくさんあります。そこで、吉村に出版社としての実務をすべてやってくれないかと持ちかけました。吉村も、「実は僕もいつか本を作りたいという思いでこの業界に入った人間なので、当時のことを思い出しました」と言ってくれて。この度一緒に出版社を立ち上げることになったのです。

    鴨ブックス 代表取締役社長 鴨頭嘉人氏

     

    書店マージンを30%にする理由

    ――本当に縁ですね。お二人の最初の出会いはいつでしたか。

    吉村 最初は、私がトーハン時代にテレビに出演することになり、追い込まれたことがきっかけでした。話すのが苦手だったので、鴨頭の話し方講座を受講したのです。

    鴨頭 2回目に吉村に声をかけた時には彼はトーハンを辞めていたのですが、そのことは知りませんでした。

    吉村は25年間この業界にいて、酸いも甘いも知っています。僕は逆に余所者なので、出版業界のことをまだよく知りません。だからこそ、よくわかっている人間とわかっていない人間が組むことによる、相乗効果があると思っています。

    ――役割分担ができているのですね。

    鴨頭 取次という業界の真ん中にいた人だけに、その経験は非常に役立っています。流通において、いわゆる“川下”の人が“川上”にいくと、革命が起きます。本社の部長が現場に来ても売上は上がりませんが、逆の場合は劇的に上げられます。真ん中にいた人はどちらの悩みもわかるので、その人が出版社に来て仕組みを変えられるとなると、無敵ではないでしょうか。

    ――書店マージンを30%にする試みが業界でニュースになっています。

    鴨頭 何十年もかかって解決できない業界の問題は、ヒューマンエラーではなくシステムエラーです。このシステムのどこを変えればいいのかというと、業界でいちばん元気でなければならない、書店という「お客様との接点」です。

    つまり、書店が儲かるシステムに改善していく必要がありますが、本の価格を決め、契約について提案権を持っているのは出版社です。ですので、我々は出版社として通常は22〜23%と言われている書店のマージンを30%にすることを、取次との契約時に提案したのです。

    吉村 最初にこの話を鴨頭から聞いたときは、驚きました。どうやってやるのかと。僕は出版業界の内情を知っている人間なので、そのような大胆なアイデアは出てきません。でも「書店を元気にする出版社」という趣旨でやるのであれば、そこは譲れません。

    鴨頭 ありがたいことに取次には調整していただき、新しい契約を結べました。

    吉村 25年間取次で働く中でずっと違和感があったのが、書店の減少がネット書店に押されたからという文脈で語られることです。書店さんは押されっぱなしで何も努力していないように聞こえることが嫌でした。

    トーハンでは少しでもそこに貢献できればと思って仕事をしていましたが、出版社ならエコシステムを変えることができると気づいたのです。それは新規出版社だからこそできる挑戦だと思っています。

    鴨ブックス 取締役副社長 吉村博光氏

     

    書店で働く人たちを元気にしたい

    鴨頭 僕が前職のマクドナルドから独立した理由は、サービス業で働く人を元気にしたかったからです。僕は「ハッピーマイレージ」という活動で、お客様としてよいサービスを受けたらメッセージカードを渡すという活動を10年やっています。そのカードを書店員さんに配る際、必ず聞いていたのが「本が好きだから本屋さんで働き始めたのですか」という質問です。みなさん、100%「そうです」とおっしゃいますが、「本を読む時間はありますか」と聞くと「ないです」と。

    ――わかります。好きだけど読む時間がない。

    鴨頭 やはり大変なんだなと。その理由は、発行点数だけが増えて利益が取れていないからです。書店マージンを高くすれば、我々の利益は出にくいですが、勝算はあります。僕らのチャレンジが成功すれば、ほかの出版社でも取り組むところが出てくるかもしれない。

    そのためには失敗しないことが大事ですので、いま2つの方向性で戦略を考えています。ひとつは価格を上げること。返品率を下げて価格を上げれば、利益を確保できます。

    ただ返品率を下げるといっても、一方で書店に並ばなくなると機会損失もあります。理想通りにはいかないと思いますが、ベストの形を目指します。書店さんの利益を確保することは、出版社でないとできないことなので、これは覚悟を持ってやります。

    もうひとつはバックエンド商品で利益を出すことです。紙の本で書店利益を生み、本の関連商品(ボツ原稿など)をより深いファン層に別の形で販売することを考えています。

    ――そんなことが可能なのですね。

    鴨頭 本を読んで感動したあとに、実はボツの原稿を読めるんですよと聞けば、僕なら買います。最初に出した『人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった』にもボツ原稿があって、マクドナルドで働いているアルバイトさんの恋愛のパートなのです。カットになってしまったのですが、興味を持ってくれる人は多いはず。マクドナルドでのキャリア25年間のうち、約18年分をまとめるのに8か月くらいかかりましたが、こんなに苦労して1,650円なのかと。本は安すぎます(笑)。

    人生で大切なことはみんなマクドナルドで教わった 改訂版
    著者:鴨頭嘉人
    発売日:2021年01月
    発行所:鴨ブックス
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784801499119

    ――確かに本は安すぎると思います。

    鴨頭 ほかにも、例えば著者の講演会を本から申し込めるようにする。著者がこの本についてもっと深掘りした講演会をやりますとPRすれば、興味を持ってくださる方も多いのではないでしょうか。オンラインサイン会やボイステックによる音声配信など、著者と読者をオンラインでつなぐこともできるでしょう。その本を買った人だけが手にできる特典を考えています。

    ――付加価値をわかりやすい形で付けるということですね。

    吉村 そういったアイデアを実現していくことで、書店さんのマージンを30%にしても黒字を出せるかもしれない。今はその点を重点的に議論しています。

    鴨頭 テクノロジーはありますから、どの出版社でもできます。出版社がアイデアを駆使して収益を分配すれば、この業界全体の利益は上がります。今後は弊社の数字を外部に向けて発信しようと思っています。最初は苦労するでしょうが、業界を変えるのは余所者のアイデアしかない。それを実現するための法律や契約、業界ルールへの対応などは、吉村ががんばっています(笑)。

    吉村 はい(笑)。親会社である東京カモガシラランドには、ネットで付加価値を生み出すノウハウが蓄積されています。バックエンド商品の開発についても既に多くのアイデアが出されています。それをサポートし実現していくのが、私の仕事だと思っています。

     

    本は書店で買うから意味がある

    鴨頭 お話ししたように「かも出版」で僕の本を出してきましたが、ネット書店で60%以上が売れているんです。

    もともとスマホで僕を見てくれている人が多いからですが、これからは全部書店で買ってくださいと言います。それが鴨ブックスの目的そのものですから。トーハンのe-honや日販のHonya Club.comも世に広めようと思っています。取次のオンライン書店であれば、書店さんと読者をつなぐことができます。

    吉村 僕はe -honの立ち上げメンバーでもあるので、縁を感じています。とはいえ、僕が鴨頭にプロモーションを提案したわけではないのですが。

    鴨頭 非常にいいシステムなのに、まだ十分に広められていないですよね。スマホで本を買っても書店の応援ができるということを世の中の人は知らないでしょう。本はどこで買っても同じかもしれませんが、地元の書店がなくなったら悲しくなりますよね。インターネットで買える便利さを享受しつつも書店を応援できるとしたら、どちらを選ぶかははっきりするはずです。

    ――説得力がありますね。

    鴨頭 地元の書店を応援しながら本が読める。そんな“感情報酬”を得ることができるということを伝えるのは、意味のあることだと思っています。

    ――読者も書店も書き手も、みんながハッピーになれるということですね。

    鴨頭 全員がプラスにならないと意味がないので。

    吉村 本や書店を好きな人たちが一緒になって何か楽しいことをやっているなということを見てほしいですね。

    ――10月29日には鴨頭さんの最新刊『心を変えれば、世界が変わる』、そのあとはメンズファッションバイヤーのMBさんや起業家の叶理恵さんの本が予定されていますね。今後のラインアップの方向性をお聞かせください。

    鴨頭 仕事柄、知人も多いですので、自己啓発系が中心です。良い情報を広めるという目的は譲れませんので、社会をよくしようと思っている、出版業界に新しい風を吹かせることに共感してくれる著者の本を出したいです。本の“体温”を大切にしたいですね。

    心を変えれば、世界が変わる
    著者:鴨頭嘉人
    発売日:2021年10月
    発行所:鴨ブックス
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784910616001

    ――「書店を元気にする出版社」というワードは書店員に響くキャッチコピーと思います。

    鴨頭 理想論ですが、本の単価が上がって一冊当たりの利益が増えることで書店員さんの余裕が生まれ、お客様とのコミュニケーションが増える。これがゴールだと思っています。難しいテーマですが、それに向かってやります。

    吉村 僕らは微力だけれども無力ではありません。「ハチドリのひとしずく」ではないですが、自分にできることからやります。最終的には持続的な出版流通という目的に行き着くと思っていますが、書店さんから見ればこれからの出版社ですし、いくら30%とは言っても数冊からのスタートです。小さなところから頑張っていきたいです。

    鴨頭 読者の方にも、消費という行為が誰かの役に立つという心の報酬を手に入れていただきたい。「エシカル」という言葉も注目を集めていますが、誰かのためにお金を払う人が増えると、経済と心の循環が一緒に起きると思っています。本屋さんの応援をしながら、良い情報を手に入れられるのはすごく豊かなこと。そういった喜びを読者の方にも味わってもらいたいです。

    ――本を買うと同時に心が豊かになるということですね。

    鴨頭 読者の方には、本そのものだけでなく、その本をどこで買うかという意識をぜひ持っていただきたいです。鴨ブックスは書店員さんが活き活きと働ける社会を作っていきたい。本を買うことが書店員さんの元気につながっていると訴えたいのです。書店で普段手にしない本を手に取ることで、人生が変わることもあります。そんな本との偶然の巡りあいがある、宝探しができる書店という場所をなくしたくないと思っています。

    ――僕らにもできることがあると感じました。これからは意識して本を買いたいと思います。貴重なお話をありがとうございました。

    【取材を終えて】
    熱がほとばしるインタビューは発言のすべてが新鮮な刺激と発見に満ち溢れていた。人気講演家の実力をまざまざと見せつけられた思いがする。鴨頭社長には大胆な発想力と全国にまたがる人脈があり、それをかげながら支える吉村副社長は出版業界を知り尽くしたキャリアと実務能力がある。デビューしたばかりの「鴨ブックス」は早くも目が離せない存在だ。設立までにすでに豊かな物語があるこの会社の成功がそのまま書店の未来を切り開く。奇跡的な出会いから始まった絶妙なこのコンビが、今後いったいどんなアイデアで業界を驚かせてくれるのか楽しみでならない。

    ▼元書店員であり、「POP王」としても知られる本記事を執筆したブックジャーナリスト・内田剛が作成した鴨ブックスのPOPがこちら

     




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