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  • 東日本大震災の影響と出版業界の動き/【連載】3.11から10年「本を届ける人々」の道のりと思い

    2021年03月10日
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    日販 ほんのひきだし編集部 浅野
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    2011年3月11日(金)14時46分、東北地方を中心に、東日本各地がマグニチュード9.0の巨大地震に襲われ、甚大な被害を受けました。2021年2月13日(土)に福島県沖で発生した地震が「東日本大震災の余震」と発表されたことで、東日本大震災が“過ぎ去った遠い過去のもの”ではないことを感じた人も多かったのではないでしょうか。

    東日本大震災から10年のいま、東北でお客様に本を届け続ける書店の皆さんの思いを届けるとともに、出版業界が受けた影響をあらためて振り返ります。

    ▼連載内容
    1.東日本大震災の影響と、出版業界の動き
    2.特別寄稿:東日本大震災10年に寄せて(「日販通信」2021年3月号より)
    ・日本出版販売 元・東北支店長(現・首都圏支社長)萬羽励一氏感謝と使命を再確認する日
    ・みなとや書店ブックボーイ大船渡店 代表取締役 佐藤勝也氏人と人との繋がりに支えられて10年
    ・MEDIA PARK MIDORI白河店 店長 鈴木郁夫氏震災から10年を振り返る
    ・MEDIA PARK MIDORI桑野店 主任 岡田州平氏東日本大震災から10年に寄せて
    3.東北で起きたこと、いまできること 思いを寄せる一冊

    ※この記事は「1.東日本大震災の影響と、出版業界の動き」です。

    東日本大震災による死者・行方不明者は約1.9万人(死者1万5899人、行方不明者2529人/2020年3月1日時点、警視庁発表)。沿岸部の多くの書店が全半壊したり津波に流されただけでなく、出版印刷用紙などを提供する製紙会社の工場や、印刷用インキのプラントも甚大な被害を受けたほか、燃料不足や配送路線の寸断が、資材の輸送や取次からの配送にも影響しました。

    2011年3月16日には日本出版取次協会(取協)が、被災地域である宮城県・福島県と岩手県(一部)への配送中止と、全国への書籍・雑誌の「隔日配送」を決定。この隔日配送は「取次の配送がこれほどの影響を受けたのは戦後初とみられる」とされています。なお隔日配送は同月21日まで続き、22日には通常配送が再開されましたが、被災による休業、商品の浸水や落下はもちろん、営業を継続できた書店も、電力不足・計画停電などによる変則営業を余儀なくされ、不安定な状況がしばらく続きました。これによって東日本エリアの売上は大きく減少。特に駅前・駅ビルに立地する店舗は、営業時間短縮の影響を大きく受けました。

    地震発生当日は、出版社や取次の流通センターが集中している東京エリアでも、オフィスや倉庫の書棚が倒れ、商品が散乱するなどの事態が発生。生産・物流両方の遅れによって、書籍・雑誌の発売延期や発売中止も発生しました。

    ▼地震発生当日のようす:(写真上)リブロひたちなか店、(写真中)日本出版販売 王子流通センター、(写真下)同 東京ブックセンター

    また、被災した書店の多くが教科書供給も担っていたことから、「新学期を前に、生徒たちへも影響を与えてしまうかもしれない」との懸念も。教科書供給協会の調べによると、地元書店などが中心となっている教科書の取次供給所では、(17日時点で)岩手県で10軒、宮城県で15軒、福島県で1軒が壊滅(加えて原発事故により5軒が避難)、茨城県と千葉県でそれぞれ1軒が壊滅。教科書を流失した書店も多く、被害は約50万冊・2.5億円、そのうち小中学校用の無償教科書は約35万冊、高校向け有償教科書が約15万冊、特別支援学校教科書が122冊とされています。

    損害金額については「すでに生徒の手に渡った教科書が失われた場合は国が再度供給するが、手に渡る前のものは取次供給所の負担となる」とされており、阪神淡路大震災は発生が1月で供給所での被害も5万冊ほどだったため、全国の供給所からのカンパによって補填されたそうですが、東日本大震災はそれをはるかに上回る被害となっており、ただちに文部科学省へ伝えられ、新学期スタートに間に合わせることは難しいものの、小中学校の教科書については代金が保証されるかたちで、不足分の教科書製作が行なわれました。

    3月23日には、日本書籍出版協会(書協)・日本雑誌協会(雑協)・日本出版クラブが、被災地への義援金などの支援をはじめ、出版業界としての対応を検討する組織として、業界を横断した「〈大震災〉出版対策本部」を設立。この活動で得た情報の共有を目的に、書教・雑協・出版クラブに加え日本出版取次協会(取協)と日本書店商業組合連合会(日書連)が参加する「〈大震災〉連絡協議会」も設立されました。

    被災地支援に関しては、阪神淡路大震災を経験した関西の各書店団体をはじめ、出版業界の各社・各団体も義援金や救援物資の拠出、収益金を寄付につなげる出版物の刊行、図書寄贈や読み聞かせボランティアの派遣などを実施。各社・各団体からは、復旧作業のための人的支援も行なわれました。〈大震災〉出版対策本部・連絡協議会も、3月30日、「大震災出版復興基金」の創設と、Webサイトによる情報提供、義援金・図書寄贈の呼びかけなどを決定しました。「大震災出版復興基金」は書店店頭にも募金箱が置かれ、2012年2月時点で2.3億円が集まり、この基金から岩手県・宮城県・福島県の子どもたちに図書カードが送られました。

    図書カードの寄贈は、書籍などを寄贈することも検討されたうえで「子どもたちに自分の好きな本を買ってもらうことで、被災地の書店支援にもつなげたい」との思いから決定したもの。「夏休み期間に、対象地域の小学生全員に図書カードをプレゼントする」「クリスマス時期に、震災遺児(未就学児~高校生)に図書カードをプレゼントする」という2つの取り組みが行なわれました。

    夏休み期間の小学生への図書カード寄贈は、2011年から2013年までの3年間実施(累計約33.4万枚、総額約2.3億円)。震災遺児への寄贈は、2020年まで10年間継続して実施されました(のべ9,459名、累計約4.6万枚、総額4,579万円)。

    被災地に出版物を無償で提供する取り組みは、デジタルネットワークを活用しても行なわれました。代表的なものでは「週刊少年ジャンプ」(集英社)、「週刊少年マガジン」(講談社)、「週刊少年サンデー」(小学館)といった漫画雑誌の電子版がインターネットで無償公開されたほか、岩波書店が雑誌「世界」「科学」に掲載した原発関連論文などを公開。富士山マガジンサービスは、定期購読誌の電子版を無料配信するサービスを提供し、出版社50社がこれを利用したとされています。そのほか、医療・看護・介護、メンタルケアに関する情報や、原子力・放射能について、災害復興にかかわる情報など、書籍の掲載内容の一部を各社が公開する動きなども起こりました。

    ▼CCC・日本出版販売・MPDは3社共同で「東日本大震災被災者支援 こころ+プロジェクト」を立ち上げ、4月26日から宮城県・岩手県の避難所100か所に支援品を届けた。

    なお取協が2011年4月26日に発表したまとめによると、東日本大震災で何らかの被害を受けた書店の数は787店、22日時点で132店が営業を再開できておらず、3店は安否確認も取れていない状況。104店が全壊または半壊、53店が浸水・水濡れ、630店が商品汚破損の被害を受けたとされています。また被害を受けた書店は、被災3県(岩手県・宮城県・福島県)のほかにも、北海道、青森県、秋田県、山形県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県と(1都1道14県)、阪神淡路大震災や2004年の新潟県中越地震よりもはるかに広い地域にわたりました。

    被災書店の推定被害額は、6月10日時点での発表によると「現物があり出版社・商品が特定できるもの」約4億円、「現物はないが取次やPOSのデータから推計される額」約6億円、「現物・データがなく、坪数などから推計される額」約8億円で、計18億円(福島第一原発事故による被害を除く)(その後のまとめで、在庫返品の対象額は約16.3億円と発表)。取次在庫の被害額は約2億円となっています。

    ▼水に濡れたり、泥をかぶったりした商品には、時間の経過によって黒カビが発生したものもあった。/新文化通信社:写真でみる東日本大震災の返品拠点-日販「新座返品センター・川越分室」より

    出版物は、日常生活が一変し、さまざまな情報が飛び交う不安な状況のなかで「必要な情報や娯楽を届けるもの」として機能した一方、「後世に残る記録」としても機能しました。特に新聞社は報道機関として震災直後から“緊急増刊”として記録集を発行し、以降も東日本大震災に関する記録集・写真集が多数出版されています。


    本記事は、下記の資料を参照のうえ作成しました。

    ・「文化通信」2011年3月21日付(第3932号)、3月28日付(第3933号)、4月4日付(第3935号)、5月2日付(第3939号)、6月6日付(3945号)、6月13日付(第3946号)、6月20日付(第3948号)、7月18日付(第3953号)、7月25日付(第3954号)、10月3日付(第3965号)
    ・「出版月報」2011年4月号
    ・「論文:東日本大震災と出版業界―未曽有の事態にどう対応したのか」(菊池明郎氏、第15回国際出版研究フォーラムにて講演)
    ・日本出版販売「分類別売上調査」(2011年1月~12月)
    ・『日販70年のあゆみ』(日本出版販売社史)




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