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  • 『武器としての「資本論」』を買ったのは、どういう人たちなのか?

    2020年07月13日
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    古幡瑞穂(日販 マーケティング部)
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    武器としての「資本論」
    著者:白井聡
    発売日:2020年04月
    発行所:東洋経済新報社
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784492212417

    「ポストコロナ」「アフターコロナ」のタイトルや惹句がついた本を目にすることが増えてきました。そんな中、コロナ時代を考える本として話題になっているのが、この『武器としての「資本論」』です。

    コロナ禍がここの事態にまでなっていなかった時期に書かれた本ながら、今の世の中を理解するために「資本論」がどう活躍するか、をやさしく書いており、経済にくわしくない層にも高く評価されています。

    この本の発売日は4月11日頃。緊急事態宣言が出された直後から、書店店頭に並んだことになります。

    ここまでどんな動きをしてきたのか、売上データをもとに売上グラフを作成してみました。

    前に述べたように、4月7日に緊急事態宣言が発令され、それから大型店舗を中心に休業が相次ぎました。この本は大学構内の書店でも非常によく売れているのですが、4~5月は大学にも人がいない状態が続いています。この影響もあり、売上もしばらくは横ばいの期間が続いていました。

    目立った動きが出たのは5月23日、朝日新聞の書評欄に掲載されてからです。その後はWebでの露出や広告なども続き、大きな売上の波がやってきました。書店の営業再開も大きく影響したと考えられます。

    続いて、読者層を見てみます。

    全体では60代・70代の読者が多く、50%程度を占めています。4月時点では40代・60代の突出が目立ったのですが、その後50代の読者がぐんと増えました。

    『武器としての「資本論」』購入者が、過去1年以内に購入したもののトップ10はこちらです。

    第1位『独ソ戦』(大木毅/岩波書店)
    第2位『日本社会のしくみ』(小熊英二/講談社)
    第3位『資本主義の終わりか、人間の終焉か?未来への大分岐』(マルクス・ガブリエル/集英社)
    第4位『ペスト』(アルベール・カミュ/新潮社)
    第5位『サル化する世界』(内田樹/文藝春秋)
    第6位『上級国民/下級国民』(橘玲/小学館)
    第7位『そのうちなんとかなるだろう』(内田樹/マガジンハウス)
    第8位『新実存主義』(マルクス・ガブリエル/岩波書店)
    第9位『生きづらさについて考える』(内田樹/毎日新聞出版)
    第10位『21 Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ/河出書房新社)

    上位10作品のうち3作が内田樹さんの著書、2作がマルクス・ガブリエルさんの著書となっています。4月の購入者に絞り込むと、上位5作が内田樹さんの著作となりました。白井聡✕内田樹コンビには『日本戦後史論』というベストセラーがあるので、その影響が色濃く出ているのかもしれません。

    それでは最後に、読者の併読本から気になるものをいくつかご紹介します。

    避けられた戦争
    著者:油井大三郎
    発売日:2020年06月
    発行所:筑摩書房
    価格:1,034円(税込)
    ISBNコード:9784480073211

    1920年代の日本は、国際平和を目指し、世界との協調路線をとっていました。それが1930年代に入ると突如方針転換され、戦争の道へと進みます。この歴史の転換期において「戦争を避ける」という判断はあり得なかったのか、というテーマで日米関係を読み解いたのがこちらです。

    いま「歴史から学ぶ」ことに注目が集まっていますが、歴史の検証の仕方という意味でも注目しておきたい一冊です。

    カール・シュミット
    著者:蔭山宏
    発売日:2020年06月
    発行所:中央公論新社
    価格:946円(税込)
    ISBNコード:9784121025975

    今回の併読本リストには、思想家の評伝や研究書が多く並んでいました。没後100年となるマックス・ウェーバー、ミシェル・フーコーなどが多く読まれていましたが、新刊で動きがいいのが、この『カール・シュミット』です。ナチスとの接点があったことで毀誉褒貶もある政治思想家を、どう読み解けばよいのでしょうか。

    『ペスト』をはじめ、コロナ禍は大きな古典回帰の流れを生み出しました。哲学や思想、歴史というジャンルの本にじっくり取り組む読者は、確実に増えているようです。

    そんな読者の心に刺さっている、ちょっと変わった一冊が、続いて紹介する『岩波新書解説総目録 1938-2019』。

    岩波新書解説総目録1938ー2019
    著者:岩波新書編集部
    発売日:2020年06月
    発行所:岩波書店
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784004390121

    タイトルだけ聞いて無料配布物かと思ったら、しっかり定価のついた出版物でした。「岩波新書の新刊は全て購入する」という読者も多いですが、3,400点を超える岩波新書を網羅した豪華な目録は、まさに知の案内書といえそうです。

    現代経済学の直観的方法
    著者:長沼伸一郎
    発売日:2020年04月
    発行所:講談社
    価格:2,640円(税込)
    ISBNコード:9784065195031

    ちょっと難しそうに見えますが、こちらは経済が得意でない人にこそオススメ。『物理数学の直観的方法』で話題になり、シリーズファンの多い著者が、直観的に資本主義の本質を掴むという本です。

    テーマとしては『武器としての「資本論」』と被るところも多いのですが、今のところ併読している方が少ないようなので、この機会にぜひ手にとって、あわせて読んでみていただきたい!

    モモ
    著者:ミヒャエル・エンデ 大島かおり
    発売日:2005年06月
    発行所:岩波書店
    価格:880円(税込)
    ISBNコード:9784001141276

    併読本のリストに見つけて、嬉しかったのが『モモ』でした。

    40年以上前に発行された本ですが、ファンタジー世界で時間に追われる大人たちとの戦いは、現代社会に置き換えて読んでみると、非常に深い、大事な気づきが多くあるはずです。

    NHK Eテレ「100分 de 名著」の“8月の名著”に選ばれたことで、注目が集まっています。大人たちがこぞって読み、『ペスト』のようなベストセラーになる日も近いかも。

    コロナ禍中は、本がよく読まれた時期でもありました。一方で、この期間は本が多く書かれた時期でもあったのではないかと思います。こういう時代の転換期に向かい合い、思想家や各界の研究者は何を思い、世の中にどんなことを提案するのでしょうか。

    古典から学ぶ時期を経て、これからは各ジャンルの知性からの提案に耳を傾け、アフターコロナの世界のあり方について一人ひとりが考える時なのでしょう。興味深い新刊も続々発売されてきています。ぜひ書店店頭で、それらの本に出合ってみてください。

    ※「HONZ」で2020年7月6日に公開された記事に、一部編集を加えています。
    ※書籍の売上シェアは「日販 オープンネットワークWIN調べ」、購入者クラスタ分析は「日販 WIN+調べ」です。

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