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歴史がありながら、その時代や地域ごとにさまざまな作品が生み出され、根強い人気を誇るパッチワークキルト。その魅力を、30年以上の長きにわたって伝えてきた雑誌が「キルトジャパン」です。
布好き、手仕事好きな幅広いファンを持つ同誌。
「キルトジャパン」は創刊33年を迎える、パッチワークキルトの専門雑誌です。「キルトで人生を豊かにする提案」をコンセプトに、愛好家に向けて新しい作品提案と作り方、写真でのプロセス解説、イベントレポート、新商品のお知らせなどパッチワークに関するあらゆる情報を盛り込んでいます。
パッチワークという言葉から一番に思い浮かぶのは、小さな端切れを縫い合わせたベッドカバーだと思います。アメリカンパッチワークと呼ばれるこのキルトの始まりは、イギリスから最初の植民者たちがニューイングランドに上陸し、マサチューセッツのプリマスに到着した1620年頃といわれています。物資の乏しい開拓時代、保温用に布地をはぎ合わせたキルトにくるまっていたという心温まるお話は小説や映画の中でも数多く登場します。
この伝統はおよそ45年前に日本に伝わり、その後大ブームを起こし、幅広く進化を遂げました。1986年の創刊号を見るとキルトの作品に加えて、「にじますのうに焼き」、「田舎風煮込みスープ」、「ダークチェリーパイ」などの料理がカントリー風のスタイリングでレシピつきで掲載されており、当時は周辺の文化も含めてパッチワークを楽しむスタイルも人気を集めていたようです。
今では小さな布(ピース)を縫いつないだものやアップリケを施したキルト、ミシンで作るミシンキルトなど種類は本当にたくさんあり、身近な小物から世界各国で行われているコンテストに向けた創造的な作品作りまで幅広く楽しまれています。
誌面の人気企画はテーマごとの特集に加えて、ひな祭りやクリスマスなど季節の行事を楽しむキルトです。ほかにも手仕事を楽しむ人を取材した「つなぐ人」もいつも反響を呼びます。
読者層は、30代から70、80代くらいまで、好みも多様ですが共通しているのは、「布が大好き」ということ。編集部に入ってから、一生かけても使いきれない程の布を持っているが、新しい柄を見るとつい買ってしまうという話を聞くことは何度もありました。
刺しゅう、ソーイング、ちりめん細工など異なるジャンルの単行本を経験し、感じるパッチワークキルト作りの魅力は大きく2つです。まずデザインを決め、さまざまな布を組み合わせてトップ(表側の布)を縫うこと。これは布好きにはたまらない作業です。
次にトップと裏布との間にキルト綿と呼ばれる布状の綿を挟んで、キルティングと呼ばれる刺し縫いをします。細かい針目で、手縫いで、大作だとベッドカバーサイズの布を刺し埋めるのですから、膨大な手間と時間がかかります。ですが、これも愛好家にとって至極の時間!
家族のこと、自分のこと、時には世界のことにも思いを馳せながら一針ずつ進める時間は何ものにも代えがたい宇宙なのです。
最後の一針を刺し終えた瞬間、作品が完成した時の感動は、一度味わうと忘れられなくなります。スピードが重視される時代に、ゆっくり手仕事の時間がある幸せ。そして達成感も味わえるのがパッチワークキルトです。
2018年秋号からロゴやデザインも一新しました。暮らしの中に普通にあるパッチワークを提案していけるよう、手仕事の価値を共有しながらその深い魅力を伝えていくことが雑誌の使命だと思っています。
日本ヴォーグ社「キルトジャパン」編集長
寺島暢子 TERASHIMA Nobuko
東京都出身。1993年、日本ヴォーグ社入社。パッチワークやソーイングの単行本、「ステッチイデー」編集部を経て、2018年5月から「キルトジャパン」編集長。
(「日販通信」2019年9月号「編集長雑記」より転載)