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  • 建物は人間“だけ”のためならず!?専門誌「建築知識」が見つけた新たな読者像

    2021年09月06日
    くらす
    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    1958年の創刊以来、建築を取り巻くあらゆる情報を届ける「専門誌」でありながら、近年はプロのみならず、幅広い読者に指示されている「建築知識」。その魅力とヒットの理由は、「建築(住まい)」というとらえ方の、新たな発見にあったそうです。

    「建築知識」はどのように新たな読者を見いだし、読み応えのある特集につなげているのか。そんな誌面づくりの裏側について、三輪浩之編集長にエッセイを寄せていただきました。

    建築知識 2021年 09月号
    著者:
    発売日:2021年08月20日
    発行所:エクスナレッジ
    価格:1,720円(税込)
    JANコード:4910034290918

     

    建物は誰が使う? どこにつくる? 試行錯誤で見えてきた新たな読者

    月刊「建築知識」は本年の7月号で通巻800号を迎えました。ありがたいことです。私自身は20年ほどのかかわりですが、60年以上続いている重みをずっしりと感じています。

    誌名の通り、建物の設計や施工などにかかわる実務者に、お役に立てる知識を提供することを方針とする専門誌でした。「でした」と書きましたが、今も専門誌ですし、高度な知識を提供する方針は揺るぎません。が、死屍累々のチャレンジングな特集企画の成果として、ここ数年は専門性の高い知識を欲する一般の方や、他業界の実務者がいることが分かったのです。

    ひとつは生きものと同居するための家を真剣に考えている一般の読者です。「猫のための家づくり」(2017年1月号)で大反響(完売)を呼び、「建物(住まい)は人間のためだけにあらず」を思い知らされました。現代は『サザエさん』に登場するタマのように家と外を行ったり来たりする猫は少数派で、多くはその生涯を家のなかのみで過ごします。ならば徹底的に猫ファーストな家のつくりかたを紹介する特集として本企画をスタートしました。

    当時、世の中は空前の猫ブーム。私自身猫を飼っていることもあって始めた企画ですが、スタッフは全然乗り気ではなく、類似書籍もまったくなく、専門にしている設計者も少なく、取材・製作は困難を極めました。その過程では80ページある特集の内、半分も埋まらないと悲鳴も上がったほどです。

    救いは設計事務所やハウスメーカーで実務を経験した1級建築士がスタッフに複数名いたことでした。たとえば猫グッズの収納に必要な寸法などは猫砂やフードの重さ・大きさなどを実測したものから割り出し、製図して誌面に落とし込んでいきました。

    また、動物飼養の専門家でもある設計者の知見と併せて、動物の行動学者や獣医にも助言を求めたことで、より中身を充実させることにつながりました。猫の大きさや生態なども加味した上で、猫がすれ違えるキャットウォークの幅、足腰に負担なく飛び越えられるキャットステップの段差などの寸法をミリ単位で示せたことが、好評につながったようです。

    猫以外にも「犬のための家づくり」(2017年10月号)、さらにウサギ、トリ、熱帯魚、カメ、トカゲなども取り上げた「小さな動物たちと暮らす家」(2018年9月号)も企画しましたが、これらの反応はイマイチでした。難しいですね。
    もうひとつがイラストやアニメ、ゲームなどの「背景」として建物をリアルに描くことを探求している読者です。「建物をつくるのは、建築実務者だけじゃなかった」のです。

    この読者の存在はSNSなどの書き込みを通してなんとなく感じていました。建築実務者向けの寸法特集や建築用語の特集がなぜか絵を描く人に高評価だった(バズった)からです。

    そこで有名なアニメーター(イラストレーター、ゲームデザイナー)の表現技法と、建築的な寸法知識を融合させる特集をつくることにしました。絵を描く人は建築の寸法感覚を養い、建築実務者はプロの表現手法を学ぶという、ウインウイン作戦がうまくはまった感じです。絵の技法書はたくさんありますが、建築の寸法知識と融合した書誌がなかったことも要因のひとつです。

    おかげで「パースと背景画の最新技術」(2019年10月号)や「最高の建物と街を描く技術」(2021年6月号)はどちらも即重版(2019年10月号は5刷)となりました。

    ここまで偶然の当たりを偉そうに書いてしまいました。とはいえ今後も老舗雑誌の重みにつぶされないよう、もちろん既存の読者を大切にすることは大前提にしつつ、新たな切り口、見せ方など精進していきたいと思います。


    エクスナレッジ「建築知識」編集長
    三輪浩之 MIWA Hiroyuki
    1972年、愛知県出身。2002年にエクスナレッジに入社し、月刊「建築知識」編集部に配属。「解剖図鑑」シリーズなど多数の書籍にも携わっている。


    (「日販通信」2021年9月号「編集長雑記」より転載)




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