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  • 片付けの目的は、「捨てる」じゃなく「より良い暮らし」!本末転倒にならないための考え方

    2021年07月10日
    くらす
    花森リド:講談社BOOK倶楽部
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    わたしに合った「片づけ」ができる仕組みづくり
    著者:中里ひろこ
    発売日:2021年05月
    発行所:講談社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784065229668

     

    「仕組み」を整えるのが一番強い

    ミニマリストは目指していないし、断捨離もあんまり好きじゃない。SNSで流れてくるカフェオレみたいな配色のオシャレなお部屋の画像は見飽きたし、200平米の家に住むことも現実的じゃない。片づいていない部屋で暮らすとテンションが下がるし、とはいえ気が緩むとすぐに部屋は散らかる。

    そんな私にとって『わたしに合った「片づけ」ができる仕組みづくり』は、「これこれ!」という1冊だった。はっと視界が明るくなるような言葉がたくさん並んでいる。私が一番「ああ~」と胸を打たれたのはこちら。

    家の片づけをするというと、多くの人が、「いらないモノを探す」ということに意識を向けがちですが、片づけの目的は「不用品探し」ではありません。わたしたちが求めているのは、今の生活の質を上げるために必要なモノを適材適所に収め、それらが使いやすい状態の暮らしやすい家をつくることではないでしょうか。

    グリグリと二重丸をつけて心にしまって、この先くりかえし思い出します。片づけが楽しくない理由の一つは「いらないものはないか?」とゾンビのようにウロウロと探すあの時間だ。なんにも生産的じゃない。

    「片づけ」は、決して難しいことではありません。ただ、進める順番を間違うと、悪循環となり、いつまでたっても「片づいた」と思えないのです。

    これ私です! 悪循環がずっと続いている。著者の中里ひろこさんがこの本で提唱するのは「ライフオーガナイズ」という整理術だ。住まいを片づけるためには収納家具や衣類の畳み方よりも前に必要な工程があると教えてくれる。

    ライフオーガナイズの片づけでは、“あなた自身が片づけられる家の仕組みづくり”の先に、日常の暮らしがあると考えます。

    仕組みづくりの大切さを仕事で学んでいる人も多いはず。もし仕事でミスが起こるならミスが起こりにくい仕組みにするし、ミスが起こっても影響が最小限になるように考えますよね。そうか、家のことも同じなんだ。

    ではどう考えていくか?

    仕組みづくりは、次の順にすることが大切です。
    ①思考の整理……今の自分にとって大切なことや時間などを明確にする。
    ②整理……①をふまえて、必要なモノを選び取る。
    ③収納……選び取ったモノの収納場所を決定し、収め方を考える。
    多くの人が、①の思考の整理をせずに、②や③から始めてしまいます。自分の基準があいまいだと、何が大切か考えずに「捨てること」にフォーカスしてしまったり、人の意見に頼ってしまうことになってしまいます。(中略)
    片づけやすい仕組みをつくるには、買い物の習慣や日常の片づけ癖が大きなヒントになります。暮らしやすさや片づけやすさは自分の実感でしかわかりません。片づけが苦手な人ほど、空間やモノを見るよりも先に今の自分を見つめることが大切なのです。

    「わたしはどんな風な暮らしがしたい? どんな生活を送っている?」から始まる片づけは楽しそうだ。

     

    「素敵なデザインの箱や空き缶」「ショップの紙袋」を問い直す

    ライフオーガナイズが推奨する思考の整理をおこなうと、知らず知らずのうちに部屋のカオスの中心部にいる「素敵なデザインの箱や空き缶」と「ショップの紙袋」も片づく仕組みが手に入る。

    ここで大事なのは「仕組みが手に入る」という点だ。「問答無用に捨てなさい!」じゃない。ひとつひとつ明確なルールと意思で片づけることができる。

    中里さんは「素敵なデザインの箱や空き缶」の特徴をあますことなく伝えつつ、次のような指南をくれる。

    ただ、デザインが素敵な箱の一番の問題は、中に何を入れたのかわかりにくいということ。また蓋(ふた)を開けるのが面倒になり何を入れたのかを忘れてしまう、形が個性的で積み重ねられないなど、保管にも困ります。「何か入れられそう」という思考ではなく「何か入れて大丈夫?」と自分に質問してみましょう。それでも使いたい缶や箱なら「一定期間保管用」など、頻繁に出し入れしないものを収納する、または「蓋はしないで使う」投げ込み収納として使えば、お気に入りのデザインを楽しめます。

    我が家にも上記の条件をすべて兼ね備えた「素敵なデザインの缶」がいました。

    この重なりもしないしオリジナリティあふれる外観を見よ! もともと紅茶が入っていた大好きな缶で「Tea」と印刷されている。よし、君の仕事を紅茶の入れ物に戻す。週一くらいの頻度で飲む紅茶のティーバッグを入れる!

     

    動線の短さとうつくしさを考える

    本書のすてきだなと思うところのひとつは構成だ。序盤では中里さんの美しいお部屋の写真はほとんど出てこない。そうなんですよね、それは中里さんが自分のために思考して片づけた中里さん一家のためのお部屋だから。ということで、序盤は「あなたはどうしたいですか?」「大切なことはなんですか?」と言葉を尽くして読む側に語りかける。思考が整ったあとで、お部屋の実例や収納方法が提案される。ライフオーガナイズの思想をきちんと本に落とし込んでいる。

    さて、中里さんの今のライフスタイルを思考して導き出したお部屋はこちら。

    クローゼットとLDKと仕事部屋の動線が短い。この本を読んだ人ならば「今の中里さんには、この間取りがベストなんだな。じゃあわたしにとってベストなのは何だろう?」と胸にひびくはず。

    だから「この間取りにしよう!」じゃなくて「私の動線って何かな、どうすればいいかな」と自分で考え、中里さんが紹介する収納のヒントを少しずつ自分の生活に組み込める。たとえば次のくだりは私の台所にも影響があった。

    また、面倒な食器の片づけをラクにするため、食洗機の対面に食器収納の引き出しがあり、一歩も動かず食器を片づけられるので家族も片づけてくれるようになりました。

    ちょうど流しと洗いカゴの真後ろに引き出しがある。で、そこが一等地なのに、なんとも中途半端だったのだ。片づけよう。引き出しビフォーはこちら。

    よく使う布巾やペーパータオルを置いてました。でもよくよく考えたら布巾をこんなに置いておく必要はないんですよ。あと輪ゴムも毎日は使わない。

    ということで、中里さんのレイアウトを参考に私が一番よく使う食器と布巾とペーパータオルを納めてみた。

    お茶碗って引き出しにいれちゃってもいいんですね。模様を見下ろせて楽しい。

    各章のあいまに収められたコラム「片づけスイッチ」もスパッと心地よい。とくにフリマアプリの付き合い方は多くの人に読んでもらいたい。理論的かつモノと人に思いやりがある。

    思考を深めて確かな方針を手に入れて、それが心にインストールされると、人の行動に軸がうまれる。そうすると大きなブレがなくなり、同時に余裕もうまれる。片づけっていいなあ。

    片づけについて考えると、どうしても「モノと空間」に意識がいきますが、本当の主役は「人」です。家という空間にモノをたくさんうまく収納できることよりも、住んでいる人がその空間でどんな風に、どんなモノに囲まれて暮らしたいのかを忘れないようにしてほしいと思っています。

    「こうじゃなきゃダメ!」じゃなくて「私がこの目的を叶えて楽しく暮らすためには、どうすればいいかな?」と考えるほうがクリエイティブで楽しい。そして心地よい生活につながるはずだ。

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年6月6日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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