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  • へえ、生卵って冷凍できるんだ!料理が“億劫”なシニア世代の冷凍術!

    2021年05月29日
    くらす
    花森リド:講談社BOOK倶楽部
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    シニア世代の食材冷凍術
    著者:本多京子
    発売日:2020年10月
    発行所:講談社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784065210475

     

    食べることは一生ずっと続く

    帰省するたびに実家の大きな冷蔵庫を恐る恐るあけている。いたんでしまった野菜を発掘してギョッとして、でも、「1人じゃ食べきれないよね」と思い直して、さみしいなあと思いながら片付ける。

    私はまだシニア世代ではないけれど『シニア世代の食材冷凍術』はとても刺さる本だった。ファミリーサイズの大きな冷蔵庫と70歳をすぎて少し小さくなった体がアンバランスな私の家族を思い出すからだ。シニア世代が食生活を見直すことの大切さと、その方法を丁寧に教えてくれる。

    歳をとっても体の細胞は毎日生まれ変わっています。細胞が生まれ変わるスピードこそ、若いころに比べれば遅くなるものの、健康な体を維持して元気に活動するためには、毎日の食事から充分な栄養を摂る必要があります。

    そう。歳をとっても、というか、歳をとったからこそ、食べてほしいんです。なのに「ほとんどお料理しなくなったの。食欲もないし」と話す電話越しの声を思い出す。何を食べているんだろう……心配。

    実際、「食べてくれる人がいないと、つくるはり合いがない」「夫と二人だと、作っても全然減らない」「たくさん作っても結局食べきれずに飽きてしまう」という声や、「体力が落ちて料理をするのが億劫(おっくう)」「それほどお腹もすかないので、食事は一日二回で充分」という声もよく耳にします。

    うわー、まったく同じことを言ってる! だから、ストレートに「作って!」と言ったって、言われた側は気持ちが上がらないだろう。

    著者の本多京子さんは医学博士・管理栄養士。プロ野球などスポーツ選手に対する栄養指導も担ってきた人だ。そして実際に1人暮らしをするシニア世代の女性でもある。これらすべての視点から、シニア世代にむけて「食材の冷凍保存」を提案する。

    全体の構成がとてもいい。まず、全五章のうち第三章まではいわば座学だ。シニア世代こそ料理をしたほうがよい理由、冷凍保存のメリット、ダイエットではなく低栄養の恐れがあるシニア世代の健康について解説されている。どこを読んでも胸に刺さるんですよ、ほんと。

    たとえば「栄養バランスのいい食事」がどうして生涯を通して大切なのか?

    体に必要なたんぱく質量は18歳でも70歳でも同じで、若いころと変わりませんが、シニア世代はメタボ予防のためにカロリーを抑える必要があります。シニア世代は「量より質」なのです。

    知らなかった。ただお肉や卵を山盛り食べればいいってものじゃないし、そもそも食べきれない。

    そのためには、まずは、食材選びです。そして、食材選びに加えて、料理法についても同時に考えると、選択肢が広がり、献立作りが楽になります。

    ね? 料理の大切さがよくわかる。

    本多さんが教えてくれる冷凍保存のメリットは、まだシニアじゃない私にも当てはまる。

    ねぎだって、にんじんだって、一本でも買えるけど、三本セットのほうがお得です。食べきれないかも、と思うと一本買いしますが、ちゃんと食べきれるという自信があれば、安心して割安の三本買いができます。ちょっとした冷凍のアイデアを知っていれば時間とお金の節約につながるのです。

    近所の安売りスーパーが大好きで毎日行きたいくらいなのに、ひたすら量が多くて気後れしてしまう。コロナで外出がはばかられるときに食材のまとめ買いをしていたけれど大変だった。シニア世代は、もっとおっくうだったろう。

    冷凍、いいな。じゃあ、おいしく冷凍するにはどうすれば? と思ったところで、本書は後半から実践に入る。

     

    コンパクトに「ふたご卵」が食べられる!

    第四章「一番シンプルで役に立つ冷凍術」では、シニア世代が使いやすい、おいしさを保つ冷凍術が紹介される。

    鮮度の良い状態で買ってすぐに冷凍すること、食材は薄く平らにすること、なるべく空気に触れないようにすること……そして「使うときのことを考えた冷凍」。段取りを考えながら冷凍と料理をすることも脳のトレーニングになると著者は提唱する。わかる。

    実際にやってみた。まずは、「そのまま冷凍」のミニトマト。

    洗ってヘタをとり、水分をぬぐって、そのままフリーザーバッグにいれます。賞味期限は「1ヵ月程度」とのことなので、冷凍した日付を書くことも大事。

    水分を豊富に含んだトマトは、冷凍すると水分量の変化から皮が裂けます。写真はミニトマトですが、大きなトマトもつるんと皮がむけるので、まるごと調理するのに向いています。

    カチカチに凍ったミニトマトを水につけるとスルスル皮がむけて楽しい(そして指先が冷たい! ほぼ氷ですもんね。休み休みむきましょう)。湯むきよりもうんと楽ちんだった。

    本書に紹介されていた「煮びたし」を作ってみた。皮をむいたトマトを凍ったまま、めんつゆで煮るだけの簡単レシピだ。

    きれいでおいしい。この麺つゆもトマトのおかげでおいしくなっていた。トマトの酸味と旨味が滲み出ているんです。夏場は冷やして素麺と一緒に食べてもおいしそうだ。

    つづいて生卵も冷凍してみた。洗って水気をふきとり、ラップでひとつひとつ包む。

    生まれて初めて生卵を凍らせた。「買ったときのパックに入れると安定する」との本書のアドバイスに従い、ケースごと凍ってもらうことにした。

    数日後。凍った卵には冷凍トマトの皮が割れているのと同じく殻にヒビが入っていた。

    パッキリ入ってます。

    水に浸けて、殻をパコっと外すと、卵はこうなっていた。

    うわー! 金色だ! 大興奮!

    殻を完全に剥(む)くとこんな感じ。

    黄身がうっすら見える! 卵ってほんとうに綺麗な形をしているなあ。

    凍ったまま包丁で割ってみた。

    ゆで卵のようだけど、生卵。こちらを使って本書で紹介されている「ふたご卵」を焼いてみた。

    黄身が2つの目玉焼きってなんだかテンションが上がりませんか? でも卵2つはボリュームが多すぎる。だから、冷凍した生卵1つを使ってコンパクトに焼けるのがうれしい。

    冷凍のメリットは節約だけじゃない。贅沢な食材と付き合うことも冷凍だとハードルが下がる。「にんにく」や「ねぎ」のおいしい冷凍方法といっしょに、こんな生活のアドバイスも添えられる。

    毎日使うものは、お得な増量セットを買って、冷凍保存で上手に使い切る、しょっちゅう使わないものは、贅沢な食材を買って、冷凍保存で大切に使う……そんなふうに工夫ができるのも冷凍の魅力です。

    青森県産のにんにくっておいしそうで憧れるけれど、買ってしばらく経つと芽が出てしまうし、毎日毎日にんにくを使うわけではないし、悩ましかったんですよね。よし、冷凍しちゃおう。

    本多さんは本書の中で繰り返し「なぜその食材が食事を豊かにするのか、栄養や香りはどんなものか」を言葉で表現する。読むと「これはおいしそう」と思う。たとえばごぼう(ごぼうも冷凍できるんですよ!)。

    加熱してから冷凍したい食材の代表がごぼうとにんじんです。加熱後に冷凍すると火の通りが早くなり、味も染み込みやすくなります。
    ごぼうは少量でも煮物や汁物に入れると香りがよくなります。また食物繊維が豊富なので、腸内環境をよくするのに役立ちます。

    モチベーションがグッと上がる。そして保存方法も「なぜその保存方法が適切なのか」をわかりやすく教えてくれる。

    ごぼうを加熱後に冷凍保存する場合は、棒状に切るのがおすすめです。フリーザーバッグに入れて保存する場合、できるだけ空気を抜くことが酸化を防いで長もちさせるコツです。また、棒状に切ったごぼうは、フリーザーバッグに納まりやすく、冷凍室の中で縦に収納しやすいからです。

    ながーいごぼうを気軽に買ってもらえそうだ。そして全部きんぴらにして飽きて持て余すこともなくなりそう。

    実用的かつ読み物としても楽しい1冊なので、シニア世代の家族に「ちゃんと食べてる?」と言うだけじゃなく、「料理って大切で楽しいことだから続けてほしいな。読んでみてね」とプレゼントしたい。

    (レビュアー:花森リド)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2021年5月8日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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