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  • 葬儀やお墓、遺品整理…親の死にどう対処する?『マンガでわかる 実家のたたみ方』

    2020年07月12日
    くらす
    兎村彩野:講談社コミックプラス
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    マンガでわかる実家のたたみ方
    著者:宮島葉子 白沢ふかみ
    発売日:2020年05月
    発行所:講談社
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784065193839

    40年生きていると、近い人の死に触れる回数も増えてきた。生前、同居していた祖父は、子どもの頃の私にこんな話を何度かしていた。

    「じいちゃんが年を取って、死んで、お葬式をして、お仏壇に入るまでを孫のあやちゃんはしっかり見て覚えるんだよ。それが後に生まれた人間の仕事だから」

    小さいながらに、祖父の言葉は不思議だった。死というものが自分の身体から遠すぎて、ぼんやり霞のような言葉に感じていた。実体のない、必ずやってくるもの。小さいながらに「約束」みたいなものなのだろうか? と捉えていた。

    高校生のとき、祖父は病で静かに息を引き取った。ほとんど苦しまず、老衰に近い死だった。病院で亡くなったので、一緒に住む両親に連絡が来て明け方に迎えに行ったらしい。朝目が覚めると母から簡単な説明を受けた。

    祖父の亡骸が家に帰ってきて、線香を上げるとき、祖父から聞いていた約束のときがついに、今、来たのだとわかった。

    「しっかり見て覚えるんだよ」

    そうだ、ここから全部しっかり見て覚えるんだ。この感覚は他のどの思い出や記憶とも違う予言のようでもあったし、祖父とかわした約束だとも感じた。

    お葬式の用意をする家族を少し離れた場所から一生懸命観察した。気になることがあると、母や父に聞いた。遠く離れた街に住む叔父や叔母、従兄弟も気付けばうちに到着していた。

     

    「永遠の別れ」のお作法は祖父から学んだ

    この国で家族が旅立つときの仕組みは、たぶんこの祖父の別れから学んだ。話せばわかる年齢になっていた私に、両親は何が起きているかなるべく説明しようとしてくれた。

    祖父は亡くなる何年も前から家族に、世界からいなくなった日のことを想定して、たくさん話してくれた。祖父の部屋のどこに何があるか、手続きに必要な大事なものをどこにしまっているか、どれくらいお金があるか、家族に何を残すかを、家族はほとんど把握できていた。

    これは家族関係がそれなりに良好で、コミュニケーションが各々にあり、地方のゆったりした家に3世帯でのんびり住んでいる──そんな希有な条件が揃っていたから可能だったのかもしれない。すぐに助け合える状況であり、万一のときにさっと行動できる。几帳面だった祖父は整理整頓が上手だったというのも、とてもありがたかったと今になって思う。祖父のメモ魔な癖もすべて良い方に作用した。

    「しっかり見て覚えるんだよ」

    祖父の残した最後の約束は、その後の私に、人との別れとそこで行われるセレモニーの大まかな流れと人間がいなくなったあとの世界を教えるという、大きな記憶をくれた。そのおかげで地域差はあるにせよ、家族との別れた先を想像するのに必要な基準値を与えてくれた。

    それは大きな風景画のようだと思う。

    祖父との別れから随分と時間が経った。私は実家を巣立ち、現在、横浜という都会で夫とふたり静かに新しい家族を営んでいる。この家に私たち以外、家族はいない。

    夫婦互いに実家が地方にある。まだ元気な両親たちはそれぞれの街で暮らしている。気付けば家を出て20年経っていた。たまに遊びに行くことはあっても、そこへ「帰る」とはもう言わないだろう。その土地は「行く」場所になった。今、夫と暮らすこの家が帰る場所になった。

    両親も年金がもらえるくらいの年齢になってきた。自分が白髪染めを使うようになったのだから、両親だってそれなりの年齢になっていて当然なのだろう。ふと、両親の小さくなってきた背中に、祖父の言葉を思い出した。「しっかり見て覚えるんだよ」。この風景ははたして正しいだろうか。私は少し忘れているのではなかろうか。

    私は実家の印鑑の位置も、両親がどんな保険に入っているのかも、実家に何がどれくらいあるのかも、何も知らないのではないかと気付いた。漠然と、実家をイメージで描けなくなっていた。

    そんなとき、『マンガでわかる 実家のたたみ方』を手にして読んだ。ぼんやりしてきたあのときの風景を今思い出すには、読みやすい漫画が適しているだろうと思った。

     

    両親が突然亡くなったら。2つのパターンで考える

    この漫画は、両親の突然の死から起きる娘たちの記録が主題になっています。

    1「親が死ぬということ」
    2「都会の葬式、田舎の葬式」家族葬も良し悪し
    3「実家をたたむ・問題発生!」遺品整理をしてみたら
    4「実家をたたむ・問題噴出!」認知症の母と向き合う
    5「実家をたたむ・解決編」都会で墓を買う 田舎の墓をたたむ

    5つの大きな話の柱で進みます。今なんとなく不安に思っていることを疑似体験できるような描かれ方で、正解かどうかではなく「こういうことが起きるようだ」という“目安”のような感じが伝わってきます。

    現役の住職さんの監修が入っているのも、コラムにまとまっているのも、わかりやすさの理由だなと思いました。

    漫画はユキ江編と咲子編で2つのパターンを交互に紹介します。家族の数だけ物語があるだろうと思われる話なので、異なる家族のパターン分けは読んでいて想像しやすかったです。

    とくに読みやすく感じたのは、ユキ江編です。両親は地方に住んでおり、当事者の自分たちは都会に住んでいるという設定で、今の私の状況に近いので、自分に置き換えて想像しやすかったです。地方にある人の繋がり方など、「あぁわかるわかる」と頷きました。

    咲子編では母が認知症です。自分の名前のサインができない、契約の内容を理解するのが難しいなどは、ニュースでも見て覚えていた問題でした。

    成年後見制度を使うシーンでは、この手続きの難しさ、複雑さ、時間のかかり方を見て、遺言の大切さを知りました。法律が今の暮らし方と合っていない部分も多いので、しっかり勉強しておかないとと襟を正しました。

     

    すべての家族は違うから。自分たちらしい形を探す

    人の死に際しては、かなり多くお金がかかるという話も出てきます。お葬式に戒名、お墓。こちらは目に見えるもので想像しやすいですが、口座の名義変更の問題、個人で解決が難しい手続きは司法書士さんの助けがあるといいなど、知らなかったことがどんどん出てきます。自分の両親もこの手続きをしていたような記憶があり、少しずつ思い出しました。

    とはいえ、両親がスムーズに手続きできていたのは、祖父と同居して何年も前からきちんと話してきたから。住み慣れた小さな街なので、手続きをする場所の移動が少なく、親族も30分以内に会える距離にいるから助け合えるなど、法律に則って動くための条件が揃っていたのは大きいと思います。

    今の自分の身に置き換えて考えると、実家で見てきた状況とあまりにも違うのだと気付きます。

    価値観が多様化し、新しい暮らし方や家族の形が増えたこの社会で、離れた実家との付き合い方や、家族が旅立ったあとの実家やお墓の在り方は、たくさんの答えがあってよいのだろうとわかりました。答えを出すためには、家族とたくさん話をしておく必要があり、時間をかけて少しずつ自分らしいルール作りをしていく準備が必要になります。

    私が望む人生の形。自分と夫の両親、私の兄弟とゆっくり話をしていく年齢や時期になってきたのだと実感してきました。全部正解。この全部正解を理解するために、ひとつずつ選択肢を学んで選ぶ作業がきっと必要です。

    お金も時間もかかる作業が続くので、心のどこかにいつもふんわりメモ帳のように持っておき、準備を少しずつ始めていこうと思いました。そしてもうひとつ。家族だけではなく、自分自身も自分の人生とどうサヨナラしたいのか、考えてみたいとも思うようになりました。

    漫画を1冊読めば解決する問題ではないかもしれません。しかし、この1冊が始めるきっかけにきっとなります。先送りするより、今、少しずつスタートした方がいい。この気持ちを持てることが大切で、そんな気持ちを届けてくれる1冊です。

    (レビュアー:兎村彩野)


    ※本記事は、講談社コミックプラスに2020年6月23日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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