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第8話でブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんと対談し、「本のある空間の作り方」「本を選ぶこと」「本を好きになってもらうこと」などについて考えたねむちゃん。今回から始まる第9話では “本を作る側“ の中でも、私たち読者にとってはなかなか覗けない領域、「校閲」という仕事について学びます。
湯浅美知子 株式会社新潮社 校閲部
PROFILE
1973年生まれ。入社以来、校閲部員として週刊誌から文芸作品までありとあらゆる刊行物を担当し、今年で20年。新潮社の刊行物のクオリティーを保つべく日々努力しておりますが、誤植や疑問点がありましたら、お気軽にお便りくださいませ。
〈こちらのお二人にもご協力いただきました〉
飯島秀一さん:
株式会社新潮社 校閲部部長(書籍部門担当)。本の楽しさ、素晴らしさを夢眠書店でいっぱい発信してください。
田中範央さん:
株式会社新潮社 編集者。入社後、週刊新潮に8年在籍、出版部に異動し単行本を作りつづけて今年で20年(もうそんなになるのか……/本人談)。
夢眠ねむ(以下、夢眠):私、今日しゃべる言葉の一つ一つに赤を入れられるんじゃないかって心配していて……(笑)。言葉遣いが間違っていることも多いと思いますけど、よろしくお願いします! まず、校閲というのがどんなお仕事なのか、教えてください。
湯浅美知子(以下、湯浅):会社が紙に刷ってリリースするものは、基本的に全て校閲部員が目を通しています。例えば、本の中身はもちろん、カバー、帯、あとスリップに書いてあるISBNなども、チェックしています。
夢眠:中の文章だけじゃないんですね。さっきチラッと見せていただいた「こっちを何ミリとって、ここは何ミリにする」っていうのは、決められた数字をメモしているんですか?
湯浅:本の中身を印刷する位置ですね。何ミリにするかを決めるのは編集者ですが、それがその通りになっているかは、こちらで測っています。
夢眠:私に最も向いていない仕事だというのが、すでに……(笑)。すごい! もれなく見てるんですね。
湯浅:書いてあることがその通りか、写真がちゃんと入っているか、あとは著者やデザインをされた方のお名前の字や読み方が合っているかなどもですね。
―そもそも校閲と校正は、どのように違うんでしょうか?
湯浅:校正はオーダー通りにゲラ(試し刷り)ができているかの点検ですね。機械的な、検品に近い作業をイメージしていただくと分かりやすいと思います。原稿を一字一字照らし合わせていても(「原稿合わせ」といいます)、内容はこの段階では読みません。
夢眠:えっ、そのときは読まないんですね。心を無にするのか……。
湯浅:そうなんです。一方、校閲は書かれていることが妥当であるか(内容チェック、事実関係、人名、固有名詞、話のつじつま)などを確認しています。
飯島秀一(以下、飯島):昭和40年代くらいまでは「校正部」という呼び方をしていたんです。その時代は生原稿に活版で組んでいたので、生原稿をそっくり再現するというのが一番重要だったんですよ。それがどんどんデータ化されて、原稿合わせの作業が減ってくると、部の存在意義が減ってきました。それで、内容にも立ち入っていくという方向にシフトしてきたんですが、著者のオリジナリティを尊重するという基本姿勢は変わっていません。
夢眠:そんなに細かい作業をやっていらっしゃるのに、奥付に、校閲者の方のお名前は出ないんですか?
湯浅:出ませんね。むしろ出してほしくないです……。
飯島:何か間違いがあったときに、誰が校閲したのかが分かってしまうと……。
湯浅:「責任者出てこい!」みたいなことになってしまって嫌なので(笑)。
夢眠:確かに嫌だ! それは隠しておきたい!(笑)
湯浅:だから「私がやりました!」って言いたいタイプの人には、向いていないと思います。
飯島:時折、著者の方に感謝されて、あとがきの中に名前を入れていただくこともあります。大変ありがたいことではあるんですけど、できれば……。
夢眠:なんて謙虚な!! 出たがり代表の私だったら、太文字で「私がチェックしたおかげで出版できたんだからな!」みたいに書いちゃいますよ(笑)。
湯浅:だんだんそう思わなくなっていくんですよね。何冊もやっていると、やっぱりその、怖さを知っているので……。
夢眠:出版直前にはドキドキしますか?
湯浅:します。出版直前というか、毎回「次はこれをやって」と渡されるんですけど、毎回「こんな難しそうなのムリ!」と思いますね。
夢眠:人間だから、興味のあるなしももちろんあるじゃないですか。全然知らない分野の本をどーんって渡されても、合ってるか合ってないかなんて、一から調べなきゃ分からないですよね。
湯浅:そうなんです。だから、あまりにも専門的だったら、多少詳しい人に振ることもあるらしいんですけど、仕事ですので、言われたらだいたいは頑張ってやっています。
―雑誌だと、スケジュールがかなりタイトなんじゃないですか?
湯浅:「今日出た原稿は今日中に全部片付けろ」と言われます。
夢眠:ヒャーッ! 大変!
湯浅:印刷所から2時間おきくらいに原稿とゲラが届くんですけど、一番たくさん届くのが、19時頃の便で。
夢眠:それなのに今日中って! もう「退社です!」みたいな時間ですよね。
湯浅:そうなんですよ。でもその分、出社は13時でいいって言われます。13時から終わるまでいろ、と(笑)。
夢眠:一日がずれていく……。
湯浅:そうなんです。入社したとき、出社は13時って言われて驚いたんですけど、結局終わるまでいないといけないので。
夢眠:一日がずれているだけで、働いている時間は変わらないんだ……。おそろしや~。
―雑誌担当の方だけが13時出社なんですか? それとも校閲の方は皆さんそうなんですか?
湯浅:雑誌だけですね。
飯島:一応フレックスタイム制なんですけど、単行本は午前中出社、雑誌は14時くらいからで、よっぽど長くいて、日付が変わるくらいまでです。
夢眠:例えば、作家さんも締切ぎりぎりに原稿を出してきて、編集さんもぎりぎりに仕上げたら、最後の最後のしわ寄せは校閲者さんに来るんじゃないですか?
湯浅:そうなんですよ! まさに!
夢眠:めっちゃ大変じゃないですかー! 名前も出さず、文句も言わずにやってるのに、間違っていたら怒られるなんて……。差し入れでも買ってくればよかった!(笑)
湯浅:ちなみに雑誌だと、ここ(裏表紙)の、値段と、何年何月号っていうのも、チェック対象です。
夢眠:そういう、本屋さんや取次さんのような専門の方が目を通すところも、間違えちゃいけないんですね。
湯浅:ここが間違っているほうがむしろ大変で……。
夢眠:ですよね! でも、ここが間違っていないかどうかって、どうやって判断するんですか?
湯浅:こういう情報を管理している部署から「今月はこの数字を入れるように」と指示が来るので、それをチェックします。
飯島:著者名やタイトルなどのカバー周りを間違えるのが、一番罪が重いというか、とんでもないことなので、そこは特に慎重になりますね。
夢眠:戸締まりとか「火の用心」みたいに、何回も何回も著者名を見るんですか? 来て、見て、終わりにもう一回見てという感じに。
湯浅:本当にそんな感じです。大勢で見ているはずなんですけど。
夢眠:最後の最後に間違いが見つかって「危なかった!」というような経験はありますか?
湯浅:あの……本当に、しょっちゅうそういう夢を見るんですよ。
夢眠:夢!(笑)私も、振付や歌詞が頭に入ってないままでステージに出る夢を見ます。「分かんない、分かんない!」みたいな。やっぱり、自分が一番怖いと思っているものが夢に出ますよね。
湯浅:夢の中で、印刷所に電話かけて「まだできないですか」って聞いたりもしますね(笑)。
私たちが1冊の本を読むのにかかる時間は、文庫本だと3~4時間くらい。校閲のお仕事では本の中身だけでなく、表紙やカバーまで担当範囲になるということでしたが、湯浅さんはいったいどれくらいのスピードでチェックしているのでしょうか。今回の対談では神業が見られるかも!? 次回もお楽しみに。