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  • “法律”でいじめから子どもを守りたい 『こども六法』はどのように生まれたのか

    2019年12月07日
    知る・学ぶ
    新聞之新聞社 諸山 誠
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    法律書を中心に人文社会学書などを手がける弘文堂の『こども六法』(山崎聡一郎著)が8月20日に発売以来、爆発的ヒットとなっています。本書は著者がいじめを受けた経験を元に、「子どもが身を守るために必要な法律を届けたい」という思いで出版されました。

    「ありそうでなかった」などと新聞やテレビなどのメディアで次々と紹介され、11月15日出来の7刷で累計28万部にまで到達。1971年のベストセラー『「甘え」の構造』(土居健郎著)の弘文堂が初の児童書にしてベストセラーを生み出した背景について、編集部の外山千尋さんと営業部の水川瑞穂さんにお話を聞きました。

    (取材・構成:新聞之新聞社 諸山 誠)

    こども六法
    著者:山崎聡一郎
    発売日:2019年08月
    発行所:弘文堂
    価格:1,320円(税込)
    ISBNコード:9784335357923

     

    今回取材にご協力いただいた方

    (左から)
    弘文堂 編集部 外山千尋さん
    同 営業部 水川瑞穂さん

     

    いじめから子どもを守る“独自六法”を書籍化

    ――同書を企画した経緯について教えてください。

    外山 現在26歳の著者が慶應義塾大学の学部生時代に、子どもの頃にいじめられた体験から、自分のような目に遭う子どもたちが少なくなるように、子どものうちにきっちり法律の知識を持っていた方がいいと、同書の原型となるプロトタイプを制作しました。

    これを書籍化するためにさまざまな出版社に持ちかけていて、たまたま私のところに来た時に「おもしろい。本にしたい」と返事をしました。

    ただ、多くの子どもの手に行き渡って初めて、社会を変える動きにつながる本だと思いましたので、一般書として3,000部で出しても意味がない。

    それで作り方を工夫しなければと考えあぐねていたところ、著者が出版に向けてクラウドファンディングを自ら立ち上げたのです。その時に著者から「約束はまだ生きていますか」と尋ねられて、一気に話が進みました。

    ――貴社にとっては初の児童書ですが、編集面での苦労は?

    外山 クラウドファンディングで得た179万6,000円(334人が支援)は、イラストを多用したのでその制作費に充てていただくことにしました。

    クラウドファンディングの時点で、いじめを苦にした自殺が多い日といわれる9月1日に向けて、すでに8月20日の発売日と本体価格1,200円が決まっていました。ということは、実際に編集に充てられる時間はわずか7~8か月です。

    私は法律書のプロパーではなかったため、自分では校閲ができません。それで、すべての章ごとに専門家の方の監修をいただきました。難しいのは、いかに法律の洗練された究極の表現を、換骨奪胎させて児童書に仕立てるか。つまり正確さよりもわかりやすさを優先させるということです。

    章立ても著者と話し合い、当初あった道路交通法などは除いて、新たに刑事訴訟法、民事訴訟法、少年法を入れ、刑法や民法、日本国憲法と合わせて『こども六法』としました。それらの中から、実用に耐えうる条文を著者と専門家の方と検討して抽出していったのです。

    ――掲載の順番も変更されたそうですね。

    外山 いわゆる「六法」の最初は憲法ですが、『こども六法』では刑法が冒頭にきます。いじめには暴行や傷害がつきまといますので、子どもにとって法律として一番意識しやすいと考えたからです。ショック療法ではありませんが、最初からガツンといったつもりです。

    憲法は概念的で子どもにはすごくわかりづらいので、“ラスボス”ということで最後にしました。

    水川 弁護士などの法律の専門家からも、「やってはいけないことが最初に載っていて、最後の憲法で権利として守られていると伝える構成がいい」との評価をいただいています。

     

    “いじめ”を心配する保護者の切実な思いにも応える

    ――児童書としての読者対象年齢は何歳くらいからですか?

    外山 読者対象は小学校高学年からです。総ルビにしたのは、児童書出版社のように対象学年に合わせて漢字にルビをふるという芸当ができないからです(笑)。

    ただ、親御さんの補足説明があれば、小学校低学年からでも読める子は読めると思います。さらに、日本の法律を知らない外国人留学生や日本に就労に来ている外国人の方が、勉強のためにと読んでくれていると聞いています。

    ――8月20日の発売日からいきなり売れましたね。

    水川 前日の19日に掲載された東京新聞の記事をきっかけに、テレビ番組や新聞などで頻繁に取り上げられ、全国津々浦々の書店さんから注文の電話が鳴りやまない状態が続きました。

    初版は1万部でしたが、2刷・2万部、3刷・3万部、4刷・5万部と毎週重版を繰り返している状態。しかも使用している嵩高紙が品薄状態でしたので、重版出来まで2~3週間もの時間がかかりました。次から次へと来る注文になかなか追い付かなかったのですが、5刷・10万部の段階で何とか落ち着いてきました。

    外山 児童書ですから絶対に本自体が軽くなくてはいけないと思い、嵩高紙にこだわったのですが、本当に品薄で手配が大変でした。

    ――クリスマスや年末年始に向けて、まだまだ需要はありそうですね。

    水川 当初の私たちの見込みでは、他の児童書に比べてクリスマス需要は少ないと思っていたのですが、書店さんから、西日本地区では「教育書などの勉強に関わる本もクリスマスにプレゼントする」という話を聞きました。さらに、年末年始の帰省時期に合わせて、お孫さんを心配する祖父母の方などのプレゼント需要も高まるのではないかと思っています。

    実際に、福島の小さな書店さんから50冊の追加注文をいただきました。売上に比して冊数が多かったので電話でおたずねしたところ、「おじいちゃん、おばあちゃんがこぞって買いに来る」とのことでした。

    詳しく聞くと、東日本大震災による福島原発の原子力事故で強制退去・避難させられた子どもたちへの思いがありました。避難先でいじめに合うというニュースをみて、自分たちの孫が同じ目に遭っているのではないかと心配していたそうです。

    そこにこの本が出て、おじいちゃんやおばあちゃんのコミュニティで話題になり、何冊もまとめ買いされているのだとか。本当に切実な思いを抱えていらしたんですね。

     

    社会を変える動きをつくるための“定番”に

    ――書店店頭では児童書売場以外でも反響があるそうですね。

    水川 丸善丸の内本店では、1階のビジネス書売場で『こども六法』を大々的に販売していただきました。そうすると、児童書売場にあると気付かない、買いづらいという読者にも手に取っていただきやすいようです。

    ツイッターでも「大人が読んでちょうどいい」「大人が読んでも知らない知識が入っている」という声が多く、大人の関心も高い。もちろん、児童書売場でも反応は良く、『君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)や『14歳からの哲学』(トランスビュー)などと同じ、ノンフィクションや子どもの哲学系の棚で展開されています。▲書店店頭では、話題書や児童書とともに大きく展開されている(三省堂書店有楽町店)

    ――これからはベストセラーからロングセラーへと、営業面でもさまざまな施策が必要となりますね。

    外山 当初は「いじめを受けた当事者が書いた本」ということで話題になっていましたが、最近はベストセラーとして取り上げられることが多くなりました。

    著者の山崎さんは、この本の刊行後、出かける先々で書店さんを訪れています。都内や近県はもちろんのこと、旅行先などでも時間のある限り訪問をして、当初は品切れのお詫びを、最近では色紙やサインの求めに応じているそうです。そうしてたくさんの書店さんを回って、一人でも多くの人にこの本を届けるべく努力を続けています。

    社会を変えたい、社会貢献したいという当初の目的・意義を達成するためにも、これからは小中高校の図書館や学級文庫にも広がっていけばと思います。

    水川 弊社としては法律書の定番書はたくさんありますが、一般書をどう定番化していくかは、まだ手探りの状態です。来年の新学期も一つの山ではありますが、「9月1日」は来年もやってくるのです。ぜひ、書店さんにも長い目でみてもらい、棚にはいつもあるように置き続けていただければと思います。

    外山 『こども六法』はいじめられている子どものための本ではありません。「いじめられている子が声を出すための本」なのです。いじめっこも、傍観者も、先生も親も、みんながこの本を読むことで、子どもたちのか細い声を掬い上げることができるので、長く読まれていってほしいなと思っています。

    弘文堂『こども六法』特設ページはこちら




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