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  • 数学コンプレックスの正体とは!?数学は暗記の呪縛から解放されてからが面白い

    2019年09月21日
    知る・学ぶ
    草野真一:講談社BOOK倶楽部
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    いやでも数学が面白くなる
    著者:志村史夫
    発売日:2019年04月
    発行所:講談社
    価格:1,100円(税込)
    ISBNコード:9784065154878

     

    エピソード主体の数学入門

    著者は本書のコンセプトについて、こう記しています。

    読者に「数学食わず嫌い」「数学アレルギー」を捨ててもらい、「誰でも数学が面白くなる」「数学をちょっとでも知ると日常生活、さらには人生がとても楽しく豊かになる」ということを知ってもらうことである。

    数学をできるかぎりわかりやすく、苦手な人にも興味を持てるように、可能なかぎり数式を使わずに解説する。
    本書はこれをテーマとした本です。同様のテーマは数学者の遠山啓先生や矢野健太郎先生の古典的といえる名著をはじめとして、「数かぎりなく」と形容してもいいほど制作されています。
    本書はそうした書物群の「類書」に当たりますが、あまり見られなかった形でこのテーマを追求しており、それが本書の独自性とおもしろさになっています。

    たとえば数は、有理数と無理数、大きく2つにわけることができます。有理数とは分数の形で表せる数、無理数とはそうでない数です。

    円周率は、3.141592……という無理数になっています。1辺の長さが1の正方形の対角線の長さも、√2という無理数です。

    円と正方形といえば、もっとも調和がとれた形だといえます。にもかかわらず、それは無理数をふくまずには存在できません。
    古代ギリシャのピタゴラス学派は、「宇宙には美しい数の調和がある」という哲学を抱いていました。彼らの哲学はおおいに数学の発展に寄与しましたが、円にも正方形にも無理数が顔を出すという「不都合な事実」を、長いこと秘匿していたという説があります。

    本書はこのように、興味ぶかい人類史上のエピソードをもって数学をひもといていきます。数学とは極度に抽象化された世界ですが、それをあえて具体的なエピソードとともに語ろうとしているのです。それは、人類史の中心に数学を位置づけようというたいへん意欲的な試みであります。

     

    数学コンプレックスを克服するために

    わたしたちの多くは、心の奥底に「数学コンプレックス」と呼べるものを抱いています。
    それは本書で「苦手」「嫌い」「アレルギー」という表現で語られているものと、ほぼ同じものです。

    数学の重要性は知っています。数学を積み重ねれば宇宙にさえ行けることを理解しているし、身のまわりに満ちあふれていることもわかっています。そのへんの小学生がたくみに2進数を使いこなしてLINEのやりとりをして、頭の悪そうな女子高生が素数を組み合わせた暗号を駆使してネットショッピングをしている。誰だって指先ひとつで高等数学があつかえます。

    にもかかわらず、「自分には数学を理解する能力がないのではないか」と感じている人はとても多いのです。
    それは、学校の授業をサボっていたせいではなく、自分のアタマが悪いから――それを理解できるような頭脳を持っていないからかもしれない。これが数学コンプレックスです。

    推理ものの主人公である天才探偵が数学者を兼ねていることが多いのも、このコンプレックスゆえでしょう。「数学ができる人=おそろしく頭が切れる人」というイメージが成立しているためです。
    個人的経験によれば数学者ほど探偵に向いてない人種はありませんが、頭が切れるのは事実かもしれません。

    アカデミー賞映画『ビューティフル・マインド』は、天才数学者ジョン・ナッシュの半生を描いていました。ナッシュは数学をつきつめるあまり、心の病におかされてしまった人です。多くの人は、自分は彼のような鋭敏な思考を持っていないから安全だと胸をなでおろしますが、同時にほのかな憧れを抱いています。ナッシュはたしかに、常人では見られないものを見ていた。自分には、その片鱗も感じることができないのか?

     

    数学という世界の扉を開くために

    本書は、こうしたコンプレックスを解消したいというささやかな要望に応えるものです。
    教室では理解することができなかったが、やさしくわかりやすく教えてもらえば、自分にもわかるかもしれない。

    こう考える人も少なくないでしょう。
    「おれはこの本を扉にするつもりなんだ」
    新しい世界に入るためには、まず扉を開かなければならない。そこからさらに進んでいくか、自分には向いていないと引き返すか。
    それは、扉を開いてから決めるべきことです。本書はそのために、大きな役割を果たしてくれることでしょう。

    (レビュアー:草野真一)


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2019年5月27日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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