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2012年に刊行された彩瀬まるさんの手記『暗い夜、星を数えて ―3・11被災鉄道からの脱出―』が文庫化され、3月1日(金)に発売されました。
彩瀬まるさんは、1986年・千葉県生まれ。2011年当時は25歳で、その日は一人で2泊3日の旅行をしに東北を訪れた中日でした。作家としては「花に眩む」でデビューした翌年のことです。
前日に松島を訪れ、仙台駅から友人に会いに福島県いわき市へ。
電車で読みかけだった本に没頭していたところ、ふと気づくと電車が止まっており「安全確認のため停車しています」というアナウンスが流れました。
その直後、乗客たちの持っていた携帯電話から一斉に緊急地震速報のビープ音が鳴り、詳細を確認する間もなく揺れが訪れます。
そのとき彩瀬さんたちがいたのは、福島県相馬郡のJR常磐線「新地」駅。このまま待っていても状況は好転しないだろうとのことで、隣に座っていた女性と一緒に、2つ先の相馬駅まで1~2時間かけて歩くことにしました。
ここから、観光客だった彩瀬さんは被災者となり、同じように東北を訪れていた人たちや地元の人たちと、極限の状況を経験することになります。
▼新地駅のあたりを地図で調べてみると、本当に海の近く(ピンが立っているのは震災後、山側に移設された新駅です)。
『暗い夜、星を数えて』は3章構成になっており、第1章には「三月十一日」から「十五日」までのこと、第2章にはその数か月後、いわき市を訪れ、あの日落ち合うはずだった友人に会い、災害救援ボランティアに参加したときのこと、第3章ではそのさらに数か月後が綴られています。
『骨を彩る』『くちなし』などの小説でも、生々しいとさえ感じられる緻密な描写、表現力で読者の心を揺さぶっている彩瀬まるさん。
無力さと悲しみ、憤り、希望。被災者であると同時に“外の人間”でもあることからくる整理されきらない感情に、読んでいる人たちは傍観者からその渦中へ引きずり込まれるような感覚を味わうことと思います。
本書に解説文を寄せているのは、自身も被災地を取材しルポを執筆したノンフィクション作家の石井光太さん。
また文庫化にあたり「文庫あとがき」が加えられており、彩瀬まるさんの“今”思うことを読むことができます。「自分は今、被災地を語る立場にあるのだろうか」という彩瀬さんの苦悶には、本書をもう一度、頭から読み返したくなりました。
▼本書から生まれた、彩瀬まるさん2作目の長編小説『やがて海へと届く』。こちらもあわせて読みたい。
地震の前日、すみれは遠野くんに「最近忙しかったから、ちょっと息抜きに出かけてくるね」と伝えたらしい。そして、そのまま行方がわからなくなった――(本文より)
すみれが消息を絶ったあの日から三年。
真奈の働くホテルのダイニングバーに現れた、親友のかつての恋人、遠野敦。彼はすみれと住んでいた部屋を引き払い、彼女の荷物を処分しようと思う、と言い出す。
親友を亡き人として扱う遠野を許せず反発する真奈は、どれだけ時が経っても自分だけは暗い死の淵を彷徨う彼女と繋がっていたいと、悼み悲しみ続けるが――。(講談社BOOK倶楽部『やがて海へと届く』より)
・佐々涼子さんが語る『紙つなげ!』― あの日の思いを読み継ぐために
・彩瀬まるさんの読書日記:作家の“ぬか床”に放り込まれる「知らない世界の本」とは