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芸能活動10周年の節目に、引退を決めた夢眠ねむ。
「引退後はいよいよ夢眠書店を開店したい」と語るねむちゃんの最後の取材先は、先日ノミネート作が発表された“書店員が選ぶ賞”「本屋大賞」です。
今回お届けする〈その②〉は、“本屋大賞で一番大切なことは何か?”という話題から始まります!
高頭佐和子(たかとう さわこ)
NPO 本屋大賞実行委員会 理事
書店員歴22年。大学卒業後、書店に就職。2004年の立ち上げより本屋大賞実行委員として活動している。
※今回は、同じく本屋大賞を立ち上げたメンバーの一人で、「夢眠書店開店日記」第1話に登場した日本出版販売 古幡瑞穂も参加しています。
夢眠: 本屋大賞の発表会には、書店員さんだけじゃなくて作家さんも参加してるんですよね。すでに売れているのに「この賞がほしかったんです!」とおっしゃっている方もいたりして、ジーンとしました。
高頭: 本当にありがたいことです。でも、権威にはなりたくないなと思っていて。本屋大賞って、権威じゃなくて「お祭り」なんですよ。「1位になった人は、大変だと思うけれどお神輿の真ん中に乗ってください」といって、精一杯ワッショイワッショイ盛り上げて売る。そういう賞なんです。なので、受賞の条件は「当日作家さん本人が発表会に来ること」。これまで受賞された方も、みなさん「お神輿の上に乗る」ということを本当によく理解してくださっています。
夢眠: 「お祭り」かあ。
高頭: なので、どの作品が1位になるかは当然気になりますけど、それよりも大切なのは「みんなで1位を決めて、みんなで盛り上げること」なんですよね。
夢眠: 本屋大賞は、まず書店員さんが1人3作品、好きなものを選んで登録するんですよね。それが一次投票で、その結果をもとに二次投票が行なわれると。投票には、書店員なら誰でも参加できるんですか?
高頭: そうです、新刊を扱っている書店の方であれば、いわゆる現場の方ではなくて事務の方も、社長も、アルバイトやパートの方も参加できます。学生さんで参加してくださっている方もいますよ。
選考方法
・選考期間:2018年12月~2019年4月
・対象作品:2017年12月1日~2018年11月30日に刊行された日本の小説(奥付に準拠。判型問わずオリジナルの小説)。翻訳小説部門は、同期間に日本で刊行された翻訳小説。発掘部門はジャンル不問で、2017年11月30日以前に刊行された作品が対象。
古幡: あと受賞作の発表会は、POPが入場料がわりということになってます。
夢眠: なるほど……。ってことは、私も夢眠書店がオープンしたら参加できるんだ! 投票しますね。
高頭: ぜひお願いします! ねむさんが「投票しました」と発信してくださったら興味を持ってくれる方もたくさんいると思うので、ぜひ積極的に宣伝してください。
夢眠: ちなみに一次投票のときって、それぞれの好みというよりは「みんなが読んで面白いものを選ぼう」っていう視点で選んでるんですか?
高頭: 一次投票は、それぞれの好みによるところが大きいですね。私ももちろん投票に参加していますが、「自分はこれがすごく好き」「好みは分かれるかもしれないにせよ、もっと売れていいはず。読まれていいはず」と思うものに投票しています。私の選んだ3冊が二次投票に進むことはあんまりないんですけど……。
夢眠: ありゃま(笑)。
高頭: 「この本に自分が投票することで10位以内に入れたい」「この人は今年推してバーンと売れてほしい」っていうのもあるし、「(この本を選ぶのは)自分だけかもしれないけど、とにかく1票でも入れて誰かが読んでくれたらいいな」っていうのもありますね。「自分のコメントを読んで、著者の方が『頑張って書こう』と思ってくれたらうれしいな」とか。投票結果は11位以下も含めて「本の雑誌」の増刊に載るんですが、投票したのが自分だけだった場合は確実に自分の推薦コメントが掲載されるので、それはそれでおいしいです(笑)。
夢眠: ひねくれているかもしれないんですけど、「1票がおいしい」イコール「誰も面白さに気づいていない作品に自分だけが気づいていた」っていう嬉しさのときもありますか? 逆に、得票数の多かった作品に投票していた場合「俺はまだまだだな」って思ったりとか。そうじゃなくて「そうだよね、この本面白いよね!」っていう気持ちになるんでしょうか。
高頭: 自分の投票した作品にたくさん票が入っていると嬉しいですよ。でも、自分がその作品に投票していたかどうかではなくて「1位になった作品をみんなで共有して、精一杯売る」ということへの気持ちが大きいですね。
高頭: 今から10年前、2008年(第5回)のことですけど、伊坂幸太郎さんの『ゴールデンスランバー』が大賞を取ったときのインパクトはすごかったですね。伊坂さんって、本屋大賞には何度もノミネートされるものの、複数作品エントリーされていたりして票が分散して、なかなか受賞に至らなかったんです。みんな伊坂さんの本が好きで応援しているんだけど、なかなか1位にはならなかった。だから、大賞に決まったときは投票してきた人みんなが嬉しかったはずです。
夢眠: 本当に「この本が面白いから読んでほしい」「もっと売れていろんな人に手に取ってほしい」っていう気持ちで選ばれた、クリアな賞なんですね……。
高頭: 皮肉をいうと、私は自営業ではなくて会社員なので、別に選んだ作品が1位をとってその作品が売れたからといって、自分のお給料が上がるわけではないですしね(笑)。それはさておいても、『ゴールデンスランバー』が大賞に決まったときは「これで伊坂幸太郎に気付かない人がさらに少なくなる」と思いました。『かがみの孤城』で2018年の大賞を受賞した辻村深月さんに関しても、辻村さんの小説は初期の頃からたくさんの書店員が応援していて、思い入れがあったので、大賞になって本当によかったと思いました。特に中高生の読者がもっと増えるといいなと思っていたので、大賞に選ばれたことで、夏休みに読んでくれる方が増えるんじゃないかなという期待もありました。
夢眠: そうか。「これが大賞に選ばれたんですよ!」って売り場でアピールすれば、もっと多くの人の目に留まりますもんね。
古幡: たくさんの人が投票することもあって、基本的には老若男女問わず楽しく読める本が大賞になることが多いから、大賞を受賞することで読者が上の世代にも下の世代にも広がるというケースが多いよね。受賞前は比較的読者が若くて「若い人に人気の本でしょ?」って敬遠していたとしても、賞を取ったのなら一度読んでみようかなと思ったりする。
高頭: 今あらためて振り返っても、「あ~、これが大賞になったのか……」と残念に思った結果は一つもないです。それに、1位の作品の隣で、「私の選んだ本は、5位だったけど同じくらい面白いよ」っていうふうにアピールしていけたらとも思いますね。
夢眠: そういう“掘りやすさ”もいいですよね。私も本屋大賞をきっかけに読んだ本が面白くて、「どんな本がノミネートされてたんだろう?」「ほかの年は何が1位だったんだろう?」って、気づいたら次々手に取ってました。
高頭: 「ノミネート10作以外にも目を向けてもらう」というのは書店員にとってもすごく重要で、本好きでベストセラーランキングをチェックしているような方って、そういう作品はもう読んじゃっていたりするんですよね。そういう方には、私が選ぶ本みたいな(笑)、20位くらいの作品をおすすめしたりしています。
夢眠: ちょっと話が戻るんですが、本屋大賞は“全国の書店員が選ぶ”というコンセプト自体にインパクトがあったからこそ、第1回から注目されたと思うんです。本屋大賞ができる前と今とで、書店員さんたちにはどんな変化がありましたか?
高頭: まずは、出版社さんが変わりました。私が書店員になったのは今から20数年前なんですが、今でこそ発売前に出版社の皆さんがプルーフやゲラをたくさん送ってくださいますけど、当時はそんなことまったくなかったんです。言ってしまえば出版業界がまだそこそこ儲かっていたので、私たちは新しく発売される本がどんな内容なのかもわからないまま仕入れる数を決めて、追加注文してもちゃんと入ってくるのかわからない……という感じで商売をしていました。
―― 新刊に関しては、出版社がまず発行部数を決めて、それを全国の書店にどう分配するかというのが基本的な流れなんですよね。
高頭: それが、2001年に出版された『世界の中心で、愛をさけぶ』がいろんな書店の仕掛けによってヒットして、そのあと本屋大賞ができて。書店側の売りたい・仕掛けようという気持ちを販売につなげていくという流れに、ここ20年で確実に変わりました。売り手である書店員も、売りたい本があったら「売りたい」とアピールするようになったし、SNSが発達したことでそれを手軽に共有できるようになったので、誰かが「これ売れそう」「売りたい」と言っているのを見て「自分の店でも売れそうだ」「どうやって売ろうかな」っていうふうに考えたり。そういうふうに、どんどん加速していったように思います。
夢眠: 今は「書店員がおすすめしている」っていうことが、宣伝になっていますよね。商品紹介ページや本の帯に「書店員絶賛!」って書いてあったりとか。
高頭: 当時は「書店員の応援コメントで“この本を読みたい”と思ってくれる読者がいる」ということを、書店員たち自身も、出版社も、読者も意識していなかったと思うんです。たとえば私はフジモトマサルさんの本がすごく好きだったのですが、ほかにもそういう書店員がいるので、みんなで応援ペーパーを作ることになって、それを知ったフジモトさんが読者配布用のおまけを作ってくださったりというふうに牧歌的にやっていたんですけど、そういう手の届く範囲のことはしても、それを「本が出て売っていく」という全体の流れに組み込んではいなかったというか。逆に今は「ゲラが送られてきて、書店員が感想を書いて送ると、出版社が応援ペーパーみたいなものを作る」というのが当たり前というか、やや流れ作業的になってきているような気がします。
夢眠: なるほど……。でも書店員さんって売り手でもあるけど読者でもあるから、やっぱり「この本は面白い」というおすすめの声は、よりリアルに感じられるんですよね。
高頭: スーパーや八百屋さんもそうですけど、「これはこういうふうに調理するとおいしいですよ」って書いてあるおすすめのレシピがちょっと面白かったりおいしかったりすると、「またあのお店に行ってみよう」「今度は買ったことない野菜も買ってみよう」って思いますよね。私たち本屋も同じで、本は一つの商品であって“特別なもの”ではないわけですから、そういうことを商売として普通にやるべきかなと思っています。
その③に続く 〉