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  • 他人の土地を売り飛ばす詐欺集団の手口に迫る!『地面師』著者・森功インタビュー

    2019年01月31日
    知る・学ぶ
    ほんのひきだし編集部
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    2018年の大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞を受賞した森功氏。その受賞後第1作となる書き下ろし作品が『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』だ。土地の持ち主になりすまし、勝手に転売して大儲けをする「地面師」たち。

    本書は、積水ハウス事件をはじめとして、驚くべき手口の詳細を浮き彫りにし、大きな反響を呼んでいる。著者の森氏(写真右)と担当編集の山中氏が、地面師に挑んだ経緯や作品の見どころについて語り合った。

    地面師
    著者:森功
    発売日:2018年12月
    発行所:講談社
    価格:1,728円(税込)
    ISBNコード:9784065134122

     

    盗賊団のような役割分担

    山中 「地面師」という言葉を初めて強く意識したのは、2011年に島田紳助が芸能界を引退したときでした。その“黒い交際”を調べていくなかで、「西麻布の地面師」というのが出てきたんです。マンション・デベロッパーの元会長の取り巻きでしたが……。

     積水ハウスの事件で、主犯格の1人とされるカミンスカス操(旧姓・小山。国外に逃亡し、12月19日にフィリピンで身柄拘束)がいた会社の会長ですね。

    山中 それで、「地面師」って何なんだろうと。いかにも怪しい雰囲気で、面白い呼び名だなと思って。当時はそこまで深く取材ができずにいたのですが、2016年、新橋で資産家が白骨死体で見つかった事件で、また地面師が登場した(『地面師』第三章で詳述、以下同)。
    当時、僕は「週刊現代」の編集長をしていたので、森さんが地面師の取材をしていると聞いて、ぜひ連載をしてもらいたいと思ったんです。実際、森さんは他の案件もかなりご存じで、さすが“闇の世界”と言えば森さんだなと思いました。

     いやいや(笑)。当時はまだほとんどの事件が新聞でもベタ記事扱いだったけど、非常に面白かったんです。知られざる巧妙な詐欺で、まさに闇の世界でした。

    山中 新橋の事件はその後テレビでも取り上げられて騒がれましたが、いまだ立件されてないんですよね。

     地主のなりすましがいて、印鑑証明書やパスポートが偽造されて、詐欺事件として認定されているのに、いろいろ要素が重なって、今のところ立件のメドはたっていません。地面師を調べていくと、こういう埋もれた事件が数多くあります。
    でも2017年にはアパグループが赤坂の一等地をめぐって12億円以上だましとられる事件が摘発され(第五章)、翌年の積水ハウス事件は被害額が55億5000万円と巨額で(第一章)、さすがに警視庁も放っておけない状況になっています。

    山中 アパグループが被害にあった土地は、今回の本のカバー用に撮り下ろしました。大都会の中にぽっかりと空いた場所で、広さといい立地といい、まさにアパホテルを建てるためにあるような場所です。

     私もよく通る場所だけど、あらためて見ると異様な空間だなと思います。詐欺の舞台となった土地について、地面師にだまされた人は皆、「前から気になっていた土地だったんです」と口を揃えます。

    山中 業界人が注目する場所をうまく突くんですね。

     その地主が高齢で身寄りがなければ、さらに狙いやすい。地面師はそんな情報集めにも長けています。

    山中 地主のなりすまし役をスカウトしてくる「手配師」、パスポートや免許証などを偽造する「道具屋」から、振り込み口座を用意する「銀行屋」までいて、まるで昔の盗賊団のようです。

     そうですね。ただ、なりすまし役は詐欺師としては素人で、その場限りのケースが多いんです。

    山中 アパホテルの事件でも、捕まったなりすまし役の1人は87歳です。高齢で事件のときの記憶もあいまいだから、警察が手を焼いていたと聞きます。

     実在する地主のプロフィールを覚え込まされて、取引の現場では地主を演じる。防犯カメラにも映っている。でも、そのときのはっきりとした記憶がないんですよ。そして、肝心な詐欺集団の人間関係はさっぱりわからないし、聞かされてもいない。そうなると警察はお手上げです。

     

    土地の値段が高騰している今だから

    山中 森さんが地面師の取材を本格的に始めたきっかけはなんだったんですか。

     2015年に起きた渋谷区富ヶ谷の土地をめぐる地面師事件です(第四章)。マンションのデベロッパーが6億5000万円の詐欺にあったのですが、その社長が昔からの知り合いでした。「だまされたんです、どうしたらいいでしょう!?」と、突然電話がきたんです。そこで初めて「地面師って、何?」と。かつてそんな詐欺師がいたのは知っていましたが、あれを地面師というのか……と興味がわいたんです。

    山中 古くは戦後間もない頃、混乱期のドサクサの中で跋扈(ばっこ)した詐欺なんですよね。

     先日、ある大物警察OBと会った際に「地面師事件って、どれくらい昔からあるんですか?」と聞いたんです。そうしたら、彼が警察官になった何十年も前にはすでにあったという。捜査二課で扱う“花形”のような捉え方でした。「地面師事件とM資金詐欺は、ベテラン刑事の“ドル箱”だった」って(笑)。

    山中 特に地面師は、土地の値段が上がる局面で出てきやすいところがありますよね。

     その通りです。だから、バブルの頃やファンドバブル、ITバブルのときは増えていた。そして今ですね。

    山中 オリンピック景気もありますね。

     今はマンションブームで、物件も高騰しています。同じ犯行メンバーが、ここでもあそこでもやっているという状況なんです。新橋の事件も、積水ハウスの海喜館(うみきかん)事件も、同一のメンバーがかなり登場します。一体どれだけの地面師詐欺が横行しているのか、ますます興味が出て取材を重ねてきました。

     

    地面師事件は“劇場型”

    山中 本の帯では、「全国の不動産関係者、銀行員、デベロッパー社員、弁護士・司法書士、必読の書。知らない者から、喰い物にされる」と入れました。本当にだまされるのは資金を持っているプロが多いんですけど、誰にとっても無関係な話ではありませんよね。

     本当にいろんなケースがあります。積水ハウスの事件後は、テレビの情報番組に何度か出ていますが、地面師の話って異様に盛り上がるんです。スタジオの皆さんが興味津々(笑)。

    山中 なんというか、劇場型なんですよね。いろいろな面白いネーミングがあったり、登場人物にも独特のキャラがあったりして。

     確かに。詐欺は人殺しとも違いますしね。

    山中 テレビドラマにもできそうな話です。フィクションなら、悪徳不動産屋をこらしめる「正義の地面師」がいてもいい。こっそり被害者に土地を返したりして。

     雲霧仁左衛門みたいだね(笑)。

    山中 主人公を二課の刑事にしたり、いろいろなキャラ設定ができそうです。ドラマ化の話も是非お待ちしています!

     

    金の出口が見えない地面師詐欺立件の難しさ

    山中 僕は編集者として、地面師案件に対する森さんのスタンスが大好きなんです。なんていうのかな、ただ拳を振り上げて「けしからん!」というのではなく、「なんとも言えず面白いんだよ」というようなスタンスが。
    地面師事件は、かわいそうな独居老人をだましたりする詐欺とは少し違いますよね。今回の本でも、森さんの取材に対して地面師やそれに近い関係者が興味深い話を漏らしています。

     いろいろと取材しましたが、気をつけなきゃいけないのは、やっぱり詐欺師だということ(笑)。どこまでが本当の話なのか、見極めが難しい。

    山中 確かに(笑)。森さんにも嘘をついている可能性もかなりありますね。

     私の取材に応じた富ヶ谷事件に関わった地面師は、ずっと適当なことを言っているんです。「いや、自分もだまされたんだ」と。地面師たちは、詐欺の立証の難しさを巧みにつきます。「俺たちもだまされた」が常套句なんです。

    山中 警察は、どこまでが加害者でどこまでが被害者なのか、わかんなくなっちゃうんですね。地面師捜査の難しさは、最後、誰がカネを手に入れてうまい思いをしたのかが見えないことです。カネの「出口」がわからない。

     そうです。現金がどこかに消えてしまっているんです。

    山中 詐欺という以上は得していなきゃいけないのに、容疑者たちは皆が「俺は持っていない」と口を揃える。

     銀行に振り込みの足跡はあるんだけれど、そこからすぐに現金が引き出されて分けられていき、わずか半日、1日でわからなくなってしまう。

    山中 立件までに時間がかかればかかるほど、カネの行方はわからなくなるんですね。

     詐欺の舞台となった現場も足を運んでみると考えさせられることが多い。巣鴨の喫茶店などにも行ったりしてね(第五章)。

    山中 地面師たちが集うという昭和の趣がかなり残った喫茶店ですね。

     1人で行くのも怪しまれそうなので、妻を連れていきましたよ(笑)。店に入ってみると、やっぱり普通ではない感じの人たちがいるんです。土地柄、高齢者も多いのですが、その横のテーブルで事件屋的な男たちが書類を広げて何かを打ち合わせていたりする。面白い空間があるものだなぁと思って。

    山中 なるほど。大きなカネが動く事件ですが、暴力団の関与はあるんですか?

     元暴力団幹部にも取材していますが、少なくとも僕が知っている範囲で言うと、彼らは事件そのものにはタッチしていない。タネ銭となる支度金を渡して、「何をするかは知らないが、それを倍にして返せよ」というスタンスです。

    山中 ある種、闇金のような役割をしているけれど、地面師ではないわけですね。

     

    積水ハウス地面師詐欺事件の問題点は

     積水ハウスの事件で問題だったのは、社長があまりに前のめりになりすぎたことがあると思います。つまり、社長がこの物件を気に入って、土地の現地視察までしている。その下の担当常務が任されて、交渉現場に出てきています。
    後から考えるといろいろおかしな点もあるんだけど、現場は、結局上の人たちに言われるがままに進めて、だまされたんですよね。常務にしてみたら、社長が進めたがっている案件だし、部長クラスやその下の担当者にいたっては、「おかしいですよ、待ってください」と声を上げる勇気はなかなか出ない。サラリーマン心理を捉えているんじゃないかな。

    山中 大企業の病ですね。さらに、その前のめりだった社長が、この騒動を使ってクーデターを起こし、会長の首が飛びました……(現代ビジネス〈積水ハウス「地面師事件」と会長解任クーデターの深層〉で詳述)。そこも、なんともキナ臭いというか(笑)。「週刊現代」の取材を受けた会長が「悔しい」といろいろしゃべっていましたね。

     会長が「これは社長の責任だろ」って追及したことを、逆手にとられてクーデターを起こされたんです。会長の言っていることは、正しいと思うんだけれど。

    山中 本当に地面師事件というのは不思議です。いろんな人間の欲が絡みあって……。大物地面師も、たまに服役したりするんですけど、それもまさに“お勤め”というか。出てきたらまたやるっていう、反省のなさ。

     10億稼げば、5年懲役になっても年収2億。そういう計算をしているんですよ、彼らは。

    山中 サラリーマンの生涯賃金より稼いで、しばらく服役する……、そうした割り切り方も、この詐欺師たちの特徴ですね。

     

    大事な土地やカネをだまし取られないために

     本の冒頭で書きましたが、地面師が勝手に売り飛ばした土地を建売業者が買って、そこに建てられた家を買ってしまった人もいます。
    地面師たちは一度摘発されても、結局証拠不十分で不起訴になる。その家を買った人は間違いなく善意の第三者なので、彼らまで巻き込んでしまうことを恐れて発表はされずに、今もその土地で知らずに生活している人たちがいるんです。
    専門家に聞くと、それはどうしようもないと。転売に次ぐ転売で土地を転がされてしまうと、もう地主は自分の土地を取り戻せなくなってしまうんです。

    山中 転売された直後だと、まだ取り戻しようがあるけど、何回か転売されてしまうと、みんなそれなりのカネを払っているわけで……。そうなると、地主は泣き寝入りですか。

     せめて地面師たちからカネを取り戻せたらいいんだけど、彼らは表向きすぐに破産をしたりする。どこかに隠し金があるでしょうけどね。あとは、「少しずつ払う」とか言いながら逃げてしまう。

    山中 一般人には、もう防ぎようがないですよね。

     プロでもだまされるわけですから。世田谷の元NTT寮の土地・建物をめぐる事件(第六章)などは、だまされた不動産業者の方はとても気の毒でした。

    山中 あの方は、純粋な被害者でしたね。

     実際にお会いしましたが、すごく真面目な方でね。「死のうかと思った」というくらい追い込まれたようです。偶然に依頼した弁護士のお陰で、事件化できたわけですが。

    山中 元東京地検特捜部長の大鶴基成弁護士ですよね。

     そうそう。ヤメ検弁護士。今度、カルロス・ゴーン容疑者の顧問弁護士として特捜部と対決する敏腕弁護士です。大鶴弁護士は、「詐欺の範囲を立証するのが難しければ、業務上横領でもなんでもいいから、まずは犯人たちの身柄をおさえて資金の流れをそこで止めることが必要なんだ」と強調されていました。
    地面師たちは、ふり返ると必ずどこかでミスをしています。だけど、だまされる側は欲に目がくらんで気づかなかったり、流したりしてしまう。それが詐欺というものです。だまされる側の反省点を、この本では詳細につづっています。

    山中 細かな手口がわかりますよね。まず、なりすましを疑うことから(笑)。

     なりすましというものが存在することから知ってもらって。そしてもう一つ、地面師事件では、バックに弁護士や司法書士といった法律家の関与が疑われるケースも、想像以上に多いんです。専門家が偽造した書類なんて、素人には絶対に見破れません。

    山中 この本にも、何人か登場しますね。

     特に競争が激しい東京都内では、経営が苦しい弁護士たちが地面師仕事に加担しているようです。地面師のまわりを調べていくと、地面師界では有名な弁護士や司法書士がいるんですよ。

    山中 僕もかつて物件を購入したとき、土地の売り主と会いました。だけど、今考えれば本当の地主だったかなんて、確証はありません。そこに法律の専門家が立ち会っていれば、完璧に信じますね。そう思うと、じつに怖い話です。地面師たちがどのように言葉を巧みに操り、振る舞うのか。じっくり、この本を読んでいただければと思います。

    森功(もり・いさお)
    ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。「週刊新潮」編集部などを経て独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」を受賞。『黒い看護婦』『ヤメ検』『同和と銀行』『大阪府警暴力団担当刑事』『総理の影』など著書多数。2018年、『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。


    ※本記事は、講談社BOOK倶楽部に2019年1月11日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




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